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あの……天使さん、もう帰っていいっすか? ‐天使に主役を指名されたけど、戦いたくないので帰ります‐  作者: 清水さささ
第6章・宿命編

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第201話・女神。

 トクトクトクトクトク……


 小動物のように早い心音。

 デフィーナの小さくて柔らかな胸を、僕の耳が押し潰している。


 デフィーナの胸が、熱い液体で濡れている。


 僕の血液だ。


 汚しちゃって、ごめんなさい……



 僕の意識は朦朧としていた。

 頭蓋骨が砕けて眼球が外に出たはずなのに、痛みすら感じない。



 キングこと、ヒグツワ・シゲルが広場に舞い戻った瞬間に、僕が瀕死に陥った。


 ビショップに勝ったと思ったのに……

 広場は既に地獄の入口となり、恐慌に包まれていた。


 村人達は倒れた仲間に寄り添う者、逃げだす者、恐怖に沈む者と、統率は砕け散っていた。

「いやぁああ!!」 「スゴミさん……!?」

「デフィーナさん、大丈夫なのか……!?」



 ドラキール兵士のうち、ビショップとの戦いでキング狩猟団を裏切った自覚のある者は、即座に森の中へ向かって逃走を始めていた。


 それを眺めながら、ヒグツワは目を細めていた。

「チッ、ナイトウルフがくたばったからなぁ、追って殺すのも面倒だな」


 返すように、どっちつかずで動かなかった兵士達は声をあげだした。

「俺はキングが戻ってくるって信じてました!!」

「私のラインからは、一人も逃がしてませんから!!」


 それは報告と言うよりは命乞いだった。


 ヒグツワはそれらの報告に興味無さげに一瞥して、デフィーナの前へと歩を進めた。

 岩石のような皮膚を常時展開して、ブルドーザーのような上半身が迫ってくる。


「反抗的な女は好きなんだけどなぁ、テメェのその目は、イラつくだけだな」


 デフィーナは丹念に研がれたコンバットナイフの様な、金色の瞳でヒグツワを睨みあげていた。

 デフィーナは飛び出ていた僕の左目玉をそっとすくって僕の頭蓋骨の窪みに戻し、僕の身体をブリアンへと突き出した。


「私が戦うから、持ってなさい」


 ブリアンの熱い手が、僕の背中に触れた。

 小さな震えが、僕の体重に従って伝わってくる。


「……勝てるの?」


「補給が出来ないから、多分無理ね」


 デフィーナは正直な意見を冷静に口にしていたが、心音はずっと早いままだった。

 ブリアンは拳を握りしめ、僕の背中から手を離した。


「だったらデフィーナが持って逃げてちょうだい、私が止めるわ」

 ブリアンは槍のステッキを握って振り返った。


 ヒグツワはすぐに拳を握りしめ、ブリアンを弾き飛ばそうと構えた。

「はっ、顔だけの雑魚が、調子こいてんじゃねぇぞっ!!」


 その拳がゴリッと、岩をこするような音と共に握り込まれる瞬間、ブリアンは叫んだ。


「私はブリアン・ブリディエット!! 国王エリオットをこの手で殺し、指名手配となった王女よ!! 私は生け捕りするんじゃないの!?」



 ヒグツワは額に血管が浮き出して、歯をむき出しにしている。


「かましてんじゃねぇぞ、知るかボケェ!!」


 怒声と共に、容赦なく巨大な拳を振り下ろした。


 そこへ、ルークの大声が届いた。


「ケェェー!!」


 その声が響くと、ヒグツワの拳はブリアンの顔面の寸前で止まった。

 ブリアンは青ざめた顔で汗を流し、手のひらで防御する姿勢を取っていたが、振りぬかれていたら僕よりも悲惨な姿になっていただろう。


 拳を止められたヒグツワは、ルークに対して即座に怒鳴った。

「何してんだテメェ、ぶち殺すぞ!!」


 ルークは肩から血を流しながらもドッシリと構えてヒグツワを睨んでおり、静かなトーンで語った。

「俺を殺しても、1キルにかならんぞ。勿体ないだろ?」

 ルークは隣で立つクイーンが持っている報告書をトントンと叩いた。

「ブリアンを五体満足で捕獲すれば、都市締めが解禁だってよ。そっちの方が良いだろ」


 その一言にヒグツワの声が跳ね上がった。

「おお、マジかよ!」


 ヒグツワは目の前の僕たちを無視して、上半身の増強を足に移動して飛び上がった。

 クイーンの背中に着地し、クイーンの肩に手を回しながら報告書を覗き込んだ。


「おお、いいな、いつまでしょっぱい村の相手すんのかと思ったぜ」

 ヒグツワは今までの怒りなど無かったようにニヤケて、報告書に夢中になっていた。



 デフィーナとブリアンは息を飲んでいた。

 ブリアンがデフィーナの手を引いて呟いた。

「今のうちに離れて……」


 デフィーナは動かず、ヒグツワを睨んでいた。

「無理よ。いつでも殺せるから無視してんのよ」


「そう……そうなのね……」

 ブリアンは拳を握りしめ、デフィーナを見つめた。

「やっぱり、この村で一番殺されないのは私よ。私がなんとかするから、スゴミの事は頼むわね……」


「捕まる気? 何されるか分からないわよ」


 僕は朦朧とする暗闇の中で、ブリアンを止めたいとだけ思った。

 声も出せず、首も動かないけど、右の小指だけが僅かに動いた。

 ブリアンは僕のその小さな反応を見逃さなかった。


 ブリアンの右手が、そっと僕の手に触れた。

「行くなって言うのね、ありがとうスゴミ……」

 ブリアンは左手でドグマ製の衣装の青いリボンを、ウサギのネックレスに絡ませた。

「でも私は、こうしてあなたに包まれているわ。だから……大丈夫」


 デフィーナは目を細め、しなやかな指で僕の唇に触れた。

「こいつアホだから、目覚めたらどうせ、あんたの所へ行くとか言い出すわよ」


「あら、それは頼もしいわね。囚われのお姫様ってやつかしら?」

 ブリアンは震えた声で軽く返した。

 そしてトーンを下げて、ネックレスをきつく握り、涙を流した。

「でも本当に、生きててくれれば良いわ。スゴミはね、一人では居られないの。だからあなたがずっとずっと……そばに居てあげて……」


 デフィーナは僕の胸へと手を置いて、ブリアンを睨みつけた。

「スゴミみたいな事を言うようになったわね、あなた、感化されてんじゃないの?」


「なにそれ……? 褒めてるの?」


 デフィーナは僕の身体をシスターズネイルの触手で、繭のように柔らかく包み込み始めた。


「覚えておきなさい。支持者アルハは人を褒めないし、嘘を言わないのよ」

 そう言って二歩下がり、ヒグツワ達の方へと視線を向けて腰を落とした。

「こんな男、あんたを追っかけまわして、必ず押し付けてやるわ」


 ブリアンは軽く笑って槍のステッキをギュッと握りしめ、ヒグツワ達のいる石碑へと歩き出した。


「フフッ、デフィーナ……? 私、あなたのこと、初めて面白い奴だって思ったわ」


「あっそ、勝手に思ってなさい」



 それと共に、ヒグツワの視線が僕たちに戻って来た。

「どうした、作戦会議は終わったか?」

 クイーンの肩を乱暴にどけて、ルークとクイーンの間を割ってゆっくりと歩き始める。

「俺も作戦を考えたぜ。デフィーナってガキを縛りつけて、撃てた村人を採用して人員補填だ!!」


 ヒグツワの背中がメコメコと、葡萄のように肥大化し始める。


 ブリアンは槍のステッキを振って呪文を唱えた。

「マジカルハート、ミラクル・レインボー・ミラージュ!!」


 周囲の地面から水蒸気が一斉に噴き出し、白い空気の中に虹の景色を作り出した。


 ヒグツワは動じるでもなく、デフィーナを睨んでいた。

「小細工系か、時間稼ぎでもしてるつもりかぁ?」


 後ろでクイーンが片足を休めながら、指で腰を叩いていた。

「水の魔法、一回目だね。あと一回」

 そう言うと背中のカプセルを取り外して手に構えた。


 ブリアンはながいウェーブ髪と、フリルとリボンを揺らしながら、ステッキを回した。

「違うわよ! 魔法が二回って言うのは、私が動ける力を残す為の回数だから……!!」

 ブリアンを包む白い霧が、一斉に背中からの風を受けて、ヒグツワ達の方へと向けて流れ始めた。


「ピシィッ!!」 ルークの口が歯の隙間の音を弾き出し、三人を包むバリアを展開した。


 それを見た瞬間、デフィーナが焦り、声をあげた。

「それ、一発じゃ貫通出来ないわよ……!!」


 ブリアンはくすりと笑って見せた。

「だったら丁度良いじゃない!! 必殺ハート、ピュア・アクア・アプリューション!!」


 それを見ていたクロス君が、声をあげた。

「それエクリプスを一掃した時の……!!」


「そうよっ!! 清純以外を許さない必殺の魔法。本当は水がいっぱい無いと使えないみたいだけど、今はこれで十分だから!!」

 ブリアンは槍のステッキを、デフィーナへと向けて思いきり振りぬいた。

「ここから先はスゴミだって知らない、私だけの使い方!!」

 広場を包む霧は、一斉に村の外へ、森の中へと突き進み始めた。


「女神さんハート、ホーリー・ミルキー・ウェイよ!!」


 吹き荒れる暴風のように、霧は森の中へと飲まれていった。


「私の清純は、穢れた者を乗せては運ばない……」

 ブリアンは全身の力が抜けて、息を切らしながらその場に崩れ落ちた。

「ああ、空っぽ……完全に空っぽだわ、でも私、あなたの女神に成れたのかしら……」


 そう言ってブリアンは目を閉じ、乾いた広場に倒れ込み、砂埃をあげた。


 ヒグツワ達はルークのバリアの中、なんの影響も受けていなかった。

「なんだそりゃ、攻撃してんのか?」


 歩き出したヒグツワは、目を見張った。

 デフィーナも村人も、そこら中に転がっていた村人の遺体すらも、その場には一切残っていなかったからだった。


 ルークがバリアを解除した。

「……マジで、逃がす為だけの能力って訳か」


 クイーンがカプセルを持って、倒れたブリアンへと歩き始めた。

「良いんじゃない? ブリアンは捕獲できるわけだし」


 キング狩猟団の幹部たちは冷静だったが、ヒグツワの顔は怒りに染まっていた。


「ふざっけんなよ、このアマぁ!! キル数まだ数えてねぇのに、死体まで片づけてんじゃねぇぞオラァ!!」


 ヒグツワは駆け出し、気を失ったブリアンを殴り潰す勢いだった。


 クイーンが叫ぶ。

「おい、アライブオンリーだって……!!」


「許せねぇ、こういう舐めた奴が、一番許せねぇんだよ、俺はなぁ!!」


 その時、外周にいたドラキール兵士が、自分の服をパタパタとさせながら、叫んでいた。

 それは先程、キングの帰還を信じていたと叫んでいた兵士だった。


「なんで、なんで俺は運んでくれねぇんだよ……!! 他のやつ、運ばれてんのによぉ!?」


 ヒグツワの視線は一瞬にして、その兵士へと移った。

「ああっ!? 運ばれなくて残念だったなぁ!! ゼロキルで帰れるかオラァ!!」


 兵士が気づいて叫びをあげるよりも早く、ヒグツワの拳は兵士の身体を粉砕した。

 その間にクイーンはブリアンにカプセルを被せて、ブリアンの身体をカプセルに収納した。


 ルークは目だけでヒグツワを追い、腕を組んだ。

「その辺にしとけよ。今日の20、30なんて、明日から1000人単位でぶっ殺せるんだから誤差だろ」


 ヒグツワは体温が上がって、肩で呼吸をしていた。

「デフィーナと、クズカス・クソゴミだな。覚えたぜアイツら……絶対ぶち殺してやるからな」



 そして僕の意識は、深い深い闇の中へと落ちていった。


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