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あの……天使さん、もう帰っていいっすか? ‐天使に主役を指名されたけど、戦いたくないので帰ります‐  作者: 清水さささ
第6章・宿命編

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第199話・再燃。

 ブリアンは立ち上がって叫んでいた。

「デフィーナ、あの石碑の前の、大きい男よ……!! あいつがネオをやったの……!!」


 デフィーナは二本のロングソードを構え、ビキニアーマーにローブの姿で身を屈めた。

「ヒグツワは、倒したのね……?」


 僕は駆け出しながら声をあげた。

「とりあえず飛ばしました!! 今やばいの、カプセルのやつです!! 閉じ込められたら終わりっすよ!!」


 僕のドグマは、成長している。


 昨日のエクリプス戦も経て、一度に出せる形が増えている。

 今出しているのは、ブリアンの衣装。ウサギ補給一回分。デフィーナの衣装。秘密の食卓だ。

 秘密の食卓は自分の一部のように扱えるが、他の変形はドグマの使用量が多い。


 今は、これ以上複雑な変形は追加出来ない。


 それが僕の主観的な計算だった。

 だから補給切れのブリアンに一度触れて、ウサギ分のドグマを回収しつつ、ブリアンへの意志の補給。


 それを優先するべきだと思った。

 ブリアンも僕に向かって走り始めていた。


 その直後、デフィーナはローブと共に身体を揺らした。

「マジカルハート・アサシンステップ」


 デフィーナは揺れたまま、残像を残しながら走り始めた。

 目にも止まらないスピードでクイーンのカプセルまで踏み込むと、空中に飛び上がりながら高速横回転。

 剣を下から振り上げてカプセルに対して斬り込みを行った。


 カプセルはプラスチックのような音を立てて、抵抗なく弾き飛ばされた。

 傷はついてないが、空中高くへ風船のように飛んでいく。


 デフィーナはそれを気にも止めず、天使の翼をはためかせて空中で踏み込んだ。

 足元に魔法陣が生成されて羽根が舞い、魔法陣を蹴るとデフィーナの身体は石碑の前の巨漢、ルークへと一直線に飛んだ。


 ルークはマジカルエンジェルの曲が流れるスピーカーの様子を見ていた。

 デフィーナの方を見ると、口を突っ張りながら歯を見せた。


「ピシィッ!!」


 歯の間から空気を出すような声を大音量で放つと、ルークとデフィーナの間に、白い線が走った。

 線はルークを中心とした円になっており、正面からだとルークの姿は見える。


 球体型の空気の歪み。


 直感的に触れたらアウトだと分かった。

 それに飛び込むデフィーナの動きに、事故を見る直前のように全身の毛が逆立った。


「……バリアだ!!」


 僕の声が届くより速く、デフィーナはバリアに到達していた。

 だが彼女はバリアには激突せず、空気の膜の前で魔法陣に着地して、剣をバリアに突き刺していた。


 屈んだ姿勢で目を細める。

「……別に、切れるわね」


 デフィーナは呟いて、魔法陣に乗ったまま、両手の剣を高速で振り回し始めた。

 空気の層がだんだん薄く広がって、弱まってるのが分かった。


「さすが、デフィーナさん……」


 その時、デフィーナに脇見して走っていた僕の胸に、ブリアンが飛び込んで来た。


「ごめんなさい、ごめんなさい、私、守れなくて……!!」


 僕はブリアンを思い切り抱きしめた。


「女神さんが無事で良かったっすよ!」

 僕の視界には血まみれのネオさんとメイアさんが映っていた。

 良かったなんて気休めだ。

 でも止まってる場合じゃない。


 「まだここからです、一人でも多く助けるっすよ……!!」


 ブリアンの衣装が淡く光った。

 補給完了の合図だ。


 ブリアンは涙をふいて、口を結んだ。

「ええ、私、挫けないから……!!」



 そこでデフィーナの側、バリアが解けそうな所で、ルークが再度大声をあげた。

「兵士共、この黒いのは撃ち殺せ!!」


 広場の外周で構えていた兵士達は、一斉にデフィーナに向けて機銃を構えた。

 デフィーナはバリアを突破する寸前だったが、周囲を見渡して舌打ちをし、解けかけたバリアから一旦飛び上がった。


 しかし、機銃の攻撃は始まらなかった。

 兵士達の顔は、困惑の中にあった。

「い、良いのか、勝手に殺して……!!」

「キル数は……!?」


 それと共に、広場に残った村人達からの歓声が上がった。

「お願い、倒して……コイツらを!!」

「ドラキールは、間違えていたんだ!!」

「王女ブリアン様、スゴミさん……!! お願いします!!」


 その流れに乗って、ルークの後ろで銃声が響いた。

 発砲したのは、処刑対象の女性を射殺してから地べたにへたり込んで項垂れていた、ミナミヅキ牧師だった。

 自分で殺した女性を膝に迎え、涙を流しながら、銃口をルークへと向けていた。


「私の罪は取り返しが付きません。しかし、あなた方に従うくらいなら、死んだ方がマシです……!!」


「チッ、凡人が……!!」

 ルークの肩に銃弾が貫通し、血が吹き出してきた。


 それが皮切りとなった。


 外周付近にいた村人の若者の一人が、ドラキールの中年兵士を殴りつけて機銃を奪った。


「うわぁ、何をする……やめろっ!!」


 ドラキール兵士は、兵士とは思えないほど弱かった。

 ろくな抵抗も出来ずに、悲鳴だけをあげて手で身を守ろうとしていた。


 銃を奪った若者は興奮した様子で、機銃をドラキール兵士へと向けて構えた。

「ブリアン王女の言う通りだったじゃん……!! 悲劇なんて、俺は悲劇なんかに従わない……!! 」


「や、やめ……命だけは……!!」

 ドラキール兵士は命乞いをしていたが、若者は容赦なく引き金を引いた。

 機銃を乱射の反動で身体が暴れつつも、引き金を引き続けていた。

 中年のドラキール兵士は、身体中から弾けるように血を吹いて倒れた。


 それを見てから村人達の大人や男達に強気が宿った。外周のドラキール兵士達を睨み始め、いつでも乱戦になりそうな臨戦態勢だ。


 それを止めたのが、ドラキール兵士の女性の金切り声だった。機銃を取られた男から一番近くにいたドラキール兵士の女性が、涙を流しながら降伏するように両手をあげていた。


「違う、私達、キングに脅されてただけで……!! 別の村でさ、同じ試験受けたの……!! 村には強い人、いなくて……従うしかなくて!!」


 その向かいの少年兵も泣いていた。

「僕の村も、皆殺しにされたんだ……!! お父さんも、妹も……目の前で!! 裏切ったら処刑で、処刑は毎日あるんだ……怖くて……!!」


 対角で老兵が声を張った。

「ルークの能力は音だ……!! あの曲が止まってる時は声爆発は使えないぞ……!!」


 女性兵士は機銃をルークへと向けた。

「悪いの、称号持ちの能力者だけだから!! 暴力のキング、拘束のクイーン、声のルーク、狼のナイト……ハサミのビショップ!! 中心は五人だけ!!」


「ナイトは死んだって噂だぞ……!!」


「あんた達なら勝てる、た……倒してくれ、キング狩猟団を……!!」


 一人、また一人とドラキール兵士達は寝返っていく。

 全員がミナミヅキ牧師のように処刑の試験に参加して採用されたというのなら、全員が我が身の為に一人は殺したと言う事だ。


 保身を即断して、柔軟に有利な方に着くタイプの厳選集団。


 キング=ヒグツワ・シゲルという恐怖の蓋が退場した事で、力のバランスが崩れて統率を失っている。


 ルークは片腕を押えて大声をあげた。

「クイーン、俺を回収してビショップを出せ! もう何人殺しても構わん……!!」

 そこからはさらに大きく、地面が割れるような蛮声だった。

「てめぇら、キングがあの程度で死ぬと思ってんのか? キングは戻るぞっ!! 今喋ったヤツ、全部録音してるからな……!!」


 言った所に、クイーンのカプセルが自分で飛び上がって落ちてきた。

 カプセルの扉が開いてクイーンの手だけが出てきてルークを掴むと、ルークはカプセルの内部に吸い込まれていった。


 そしてカプセルの中から、細身で猫背の男が飛び出してきた。

 目をギョロギョロとさせながら、頭が逆さまになるほど身体を捻っている。


「キリキリキリキリ……切断記念日? やる日、今日は、やる日なの?」


 地に付くほどの伸びっぱなしの髪、震え続ける下顎からは涎を垂らしている。

 その異様な風貌の中、何よりも異様だったのは、両腕の肩から先が無いことだった。


 僕はその異様さに息を飲んだ。

「なんなんすか……コイツは……」


 ドラキール兵士の女性は即座にその男に対して機銃を乱射した。

「ビショップよ……!! イカれたやつ、近い人から無差別に四肢切断してくるわ……!!」


 僕はそれを受けて駆け出しながら叫んだ。

「デフィーナさん……!!」


 ビショップのミイラのような両脚から、皮膚を突き破って背骨が出てきた。

 その白い骨組みの先に、肩甲骨を二枚合わせたペンチのような短いハサミが付いている。


 それを伸ばして機銃の攻撃を回避、空中でブリッジするように仰け反ると、背中からさらに背骨が六本皮膚を突き破って飛び出してきた。


「ああっ!? おま……お前なんで、腕あるんだ!? ズルいだろぉ!!」


 その背骨を足代わりにして、一番近くに居たミナミヅキの両肩に向かってハサミを伸ばし始めた。


 ブリアンがステッキを構えた。

「シスターズネイルみたいなやつって事!?」


「こんなキモいのと、一緒にしないで貰いたいわね」


 デフィーナは残像を引きずりながら、ビショップの背骨の間に入り込んだ。


「弱点は根元」


 そこから強烈な回転斬撃を繰り出した。

 デフィーナの双剣が一瞬にして何度も仰け反ったビショップの背中を切りつけ、高所から鮮血が降り注ぐ。

 ビショップは為す術なく空中へと叩き上げられていく。


「ああっ、痛い、痛いけど、でも、切られるよりは痛くないからなぁ……!!」


「……切ったんだけど」


 デフィーナはすぐに飛び上がり、空中のビショップに追いついた。

 今度はビショップの上、仰け反った体の首元へと狙いを定めて一回前転。

 レギンスから闇の刃を突き出してカカト落としを狙った。


「……マジカルハート、月輪フォール」


 それに対して今度はビショップの鎖骨から背骨が飛び出してきて、刃を受け止めた。


「お前は良いよなぁ……!! 剣も持てて……蹴りも出来てさぁ……!!」


 ビショップの脇腹から新たに四本の背骨が延びてきてきた。

 既に背骨は十四本。

 脇腹からの背骨はデフィーナの背中へと回りこんで捕獲を狙う。


 デフィーナに背骨が巻き付く瞬間、デフィーナは大声をあげた。

「ブリアン、コイツを撃て……!!」


 ブリアンはステッキを構えいるが、撃てないでいた。

「デフィーナに当たるわ……!!」


「良いから撃って!!」

 僕は振り向き、ブリアンへと叫んだ。


 ブリアンは目を細めた。

「死なないでよね……! クリアリング・スプラッシュ・レイ……!!」


 ブリアンの高圧水流ビームが、空中戦をする二人へ向けて、打ち上げられた。


 その最中、デフィーナが背骨に捉えられ、追加の背骨ペンチがデフィーナの肩を切断しようと迫ると、デフィーナは唱えた。

「マジカルハート、ハンターシャーク……!!」


 ハンターシャーク。

 影に潜航して移動する、回避と奇襲用の魔法だ。


 デフィーナの姿はパッと消えて地面に影が落ち、ビショップの影に潜航した。

 空中にいるビショップからは地面へと背骨が伸びている。

 その背骨の影が僕まで続いていた。


 デフィーナは影の中を通って僕へと急接近、僕の目の前で飛び出した。

 デフィーナは速攻で僕の胸に飛び込んで腕を回した。

「補給よ」


「……はいっ!!」

 僕はデフィーナの背中へと手を回した。


 その時、上ではブリアンの高圧水流がビショップに命中していた。

 背中から伸びている背骨を水流の横薙ぎで三本断ち切った。

「き、効いたわ……!!」


 ブリアンの声が明るく響く中、空中のビショップは背骨達をうねらせて暴れていた。


「うあああ……!! 痛い、俺から、俺から、奪うなっ!!」


 ビショップは身体中の至る所から追加の背骨を生やし始めた。

 もはや何本あるのかも分からないし、人の形すら保っていない。

 その背骨まみれの奇怪な群体の中で、ギョロ目の顔が骨に圧迫されながら地上を見ていた。


「お前ら、何人がかりだっ!? ズルいだろ、何人? え、百人くらいいないか……!?」 


 僕は周囲を見渡した。


 村人が元々百名近くいた。

 三十名近くが犠牲になった。

 外周にドラキール兵士が三十名ほどいる。


 ドラキール兵士を入れれば、確かに百人ほどだ。


「なんだよこれぇ、百対一って事!? イジメ、イジメだよな、虐めちゃうよなっ!!」


 ビショップは背骨を増やしすぎて、もはやえのき茸のような姿になっている。その姿で長い黒髪を揺らして逆さの顔で広場を見下ろして笑っていた。


「あはあはははっ!! 手足が四百本って事じゃん……!! 全部植えたら、お揃いじゃんかなぁ!?」


 僕はその不気味さに息を飲んでいた。

 デフィーナはスッと僕の身体から離れた。


「さて、あのアホ、さっさと殺すわよ」

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