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あの……天使さん、もう帰っていいっすか? ‐天使に主役を指名されたけど、戦いたくないので帰ります‐  作者: 清水さささ
第6章・宿命編

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第193話・配給。

 てんしさん、てんしさん!!



 友達が殴られていた。

 理由なんて知らなかった。


「お前……てんしさんに、何するんだ!!」


 僕は幼少期に、英雄の物語を読んだ。

 僕の中の僕は、英雄で、勇敢で、無敵だった。

 だから僕は、友達を助ける為に立ち向かったんだ。


 でも僕の無敵は、ただの妄想だった。


 実際の僕は空気を読めず、わがままで、雑魚なだけだった。

 僕は返り討ちにあってボコボコにされた。


「痛い、痛いよ……なんで、こんな事するんだよ」


「お前が絡んで来たんだろ、バーカ!! 弱いくせに出過ぎた真似してんじゃねえよ!!」


 悪辣な少年の声が、僕の恐怖に刻まれている。

 僕の記憶が残す、初めての敗北。


「お前の名前教えろよ! お前は今日から奴隷、俺が王だからな!!」


「やめて、やめてよ、シゲル君……!」


 最低、最悪、恐怖……


 これは僕の物語が封印される、少し前の話だ。

 だから幼かった心に、ハッキリとした傷として残っている。


「ギャハハ! クヅカ・スゴミぃ? クズ・カス・ゴミじゃねぇーか!!」


 久塚ヒサヅカ 凄巳スゴミをクズカスゴミと読まれた。

 だから僕は、僕の名前が嫌いになった。


 僕は英雄になれなかった。

 それでも僕は戦ったよ。君のために。

 傷つく君を見たくなくて、努力したんだよ。



『最低……』



 下された評価は最低だった。


「僕が最低……? どうして、なんで……見捨てないでよ僕を……僕は、頑張ったのに……なんで!!」


 訳も分からず泣きじゃくった。

 泣いた理由は覚えてないのに、泣いた事だけを覚えている。


 僕は僕が嫌いになった。


 君のことも、嫌いになったよ。



「さよなら……てんしさん」



 白い夢は僕の中の、真っ白な物語の断片のようだ。

 天使さん、僕に帰る所は……あるんですか。



 目が覚めた。


 始まる視界に入るのは、薄暗い木の目が走る天井。

 蒸した畳の臭いのする和室。

 三つ並んだ布団。


 起きた瞬間、ここはどこだと考えるも、昨日の記憶はすぐに接続される。

 牧師のミナミヅキさんの孤児院だ。


 それを認識すると同時に、畳の臭いとは別に甘酸っぱくて喉の奥が唸るような香りが鼻を突いた。

 僕の左隣の布団で寝ていたブリアンが、転がってきて僕に寝顔を見せている。

 裸ワイシャツでパツパツに弾け飛びそうな胸元が折り重なって、谷間が飛び出している。


 僕は慌てて右へと寝返りをうって飛び起きた。

 枕もとで、ドグマが発泡ウレタンのようにモコモコと膨らみ始めて、人間ほどのサイズになりつつあった。


「うわあっ!! 爆発する……!!」


 僕は慌ててドグマを抑え込み、畳の上にうずくまった。

 抱きつかれた状態で起きていたら、ドグマ暴発で村が吹き飛んでいたかもしれない。


 僕が騒いでいると、ブリアンがゆっくりと目をあけた。


「あらスゴミ、おはよう。よく眠れた?」


「いやあ、まあその、ぐっすりって感じっすよ……!!」


 僕はドグマの上で正面を隠すようにして、うずくまっていた。

 ブリアンは軽く起き上がり、眠気眼で僕を見た。

「なにしてんの……?」


「いろいろ、制御中って言うか、その……」


 チラリとブリアンを見ると、ワイシャツのボタンは一個しか止まっておらず、それすらも吹き飛びそうだった。

 そして少し大人びた、ベージュの下着が目に入ってしまった。

 慌てて庭へと目を反らす。


 ブリアンは笑って下着をワイシャツの裾で隠した。

「ああ、これね、メイアのやつよ。なんか見せちゃって、申し訳ない気もするけど……」


「そ、そういう問題じゃないって言うか……」


「気にしすぎよ。また魔法少女になるんでしょ? 服破いたら悪いから、先に脱いだ方が良いかしら?」


 言いながらワイシャツの最後のボタンをプツリと外すブリアンを前に、僕は起き上がって正座し、畳に頭をこすりつけた。

 そして手だけを前に伸ばして告げた。


「見ないんで、じゅ、準備できたら、衣装変えるんで……手を持ってください……」


「あはは、変なの」


 ブリアンのワイシャツがパサリと落ちる音がして、片足ずつあげて下着を外す、スルスルとした軽い音が耳をくすぐった。

 そして、ブリアンがヒザをついた音がして、手に柔らかな手が触れた。


 目の前でブリアンが全裸になっている。その息遣いに僕の鼓動が高まって、ドグマが暴れる前に変形に集中しようと思った瞬間。


 フスマが開いた。


「おはようございます。ちゃんと寝れました?」


 メイアさんの声だった。

 僕の思考が停止しかけたその時……


 フスマが閉まった。


「どういうプレイ!?」


 フスマの向こうで、メイアさんの声が裏返っていた。


「その、声がしたからね、起きてると思っちゃって、ごめんなさいね……!」


 廊下を駆けていくメイアさんの足音を背に、ワンテンポ遅れてブリアンが叫んだ。

「えっ!? やだわ、なんて時に来るのよ!!」


 僕は焦って、反射的に顔をあげてしまった。

「大丈夫っすか、女神さ……」


「ちょっと、見ないんじゃないかったの……!?」


 目の前には全裸で胸を隠して、しゃがみ込むブリアンの姿があった。


 僕のドグマはモリモリと肥大化し始めた。

 僕の背中で膨張して、僕の体をグイグイと押してブリアンへと近づけていった。


 ブリアンが僕の手を握ったまま、尻もちをついた。

「ちょっと、何来て……それ、マズくない!?」


「うわぁあああ!! ドグマ開放───ネプチューンハート!!」


 僕はドグマに弾き飛ばされてブリアンに重なる瞬間に、ドグマ変形を発動していた。

 ブリアンの裸体が光り、ドグマが餅のように伸びて巻きついて、魔法少女の衣装に変わっていく。


「ああ……っ!!」ブリアンの短い悲鳴。


 吹き飛ばされた僕たちは、勢いをそのままに、奥のフスマを一つ突き破って倒れ込んだ。

 ネプチューンハートに変身したブリアンの上に、僕が折り重なる形だ。

 ドグマの妄想エネルギーはギリギリ、ブリアンの衣装に変形させることで形を維持していた。


 そして、フスマの倒れる大きな音とホコリの中に、鏡の前で髪をとかしているデフィーナの姿があった。

 服はメイド服のブラウスのみで、不意をつかれた様子で、目を丸くして硬直している。


 ホコリを手のうちわで払いながら、デフィーナは眉を寄せた。


「な、なに……?」

「あ……その、おはよう、ございます……」


 デフィーナは立ち上がり、すぐに怒って僕の顔にくしを投げつけて来た。

「朝から何やってんのよ!! やかましいわね!!」


「痛っ!!」


 デフィーナは部屋の隅にかけてあった、メイド服のスカートへと手を伸ばし、足を通しながら言った。

「ったく、相変らずのゴミクズっぷりだわ」


「すみません……」


 デフィーナはコルセットを巻きながら告げた。

「ドラキール軍の配給は九時よ、ネオ達も集まるから広場に一旦集合って言ってたわよ」


「ドラキール軍……来るんすね」


 デフィーナはブリアンに対して、ローブとサングラスを投げつけた。

「あんたの顔は軍には割れてんのよ、それを付けろって、ネオが言ってたわ」


 ブリアンはそれを受け取り、唖然とした顔をしていた。

「あ、ありがとう……」

 ブリアンはローブを握りしめ、サングラスを見つめていた。

「ドラキール軍、嫌な響きだわ……」


「軍と言っても、キング狩猟団じゃないでしょ? ヒグツワ・シゲルを知ってるやつがいないかは、聞いてみるけどね」


 僕はあだの後ろに手を置いた。

「なんか、シゲルって名前……嫌いなんすよね……」




 僕達は孤児院の一同が揃ってから、広場へと向かった。

 ブリアンは魔法少女のフリルのドレスの上にローブを羽織り、サングラスをしており、逆に悪目立ちしそうな見た目をしていた。


「こういうのも、案外似合うかしら?」

「なんか、石油王みたいっすね……」


 ナース服のメイアさんが、歩きながらヒソヒソと聞いてくる。

「ああゆうの、王様プレイって言うの? やっぱり建国したから、王様と奴隷みたいな、そういう感じなの……?」


「い、いや……なにもプレイしてないっすから……!!」



 村の広場に入った。

 既に日は高く、広場は賑わいを見せていた。


「まるで祭っすね……」


 人々は行きかい、昨日以上の人が出てきて、物のやり取りとしていた。

 広場の端には軍用車両が四台止まっており、紫色の軍服を着た兵士達が石碑付近に集まっている。

 村人達はその兵士達へと、野菜などを渡していた。


「いつもありがとうございます」 「昨日取れたナスなんですよ」

「暑い中、お疲れ様です」


 肩を張って入ってきたが、空気は和気あいあいとしていた。


「なんか、思ってたのと違うわね……」


 ブリアンもポツリと呟いていた。

 クロス君が横から出てくる。


「配給はいつもこんな感じだよ。一人行けば一人分のお米は貰えるから、スゴミお兄ちゃん達もコッソリ並びなよ……!」


 デフィーナは広場を見渡していた。

「なんでこんな厳戒配置なの? 米貰うだけなんでしょ?」


 デフィーナの視線の先、広場の外周をくるりと囲むように兵士が立ち、村の外を警戒するように機銃を構えていた。


 メイアさんが前に出た。

「いつもこよ配置よ。一度貰って出て行って、また貰いに来る人が居るんだって。配給貰えるのは九時までに広場にいた人だけだからね」


 その時、僕達の後ろからバイクが走ってきた。

 エンジン音と砂埃を巻立てながら、僕らの前まで来て止まった。


 運転していたのはキリハラさんだった。

 切れ長の顔で、爽やかな笑顔を向けていた。

「あぶねぇ……! 間に合ったなぁ!」


 そのバイクの後部座席には、緑の長髪で、白いワンピースと麦わら帽子を被った美人女性が乗っていた。

 それを見てメイアが覗き込む。


「あれ……!? キリハラって彼女いたの……!?」


 それを言われたキリハラは、ワタワタと慌てだした。

「えっ!? か、彼女だったら良いなぁ。なんて、その……」


 後ろの女性は帽子を弾いて顔をあげ、目を細めた。

「アホか、用水路の流入口を考える為に、川に下見に行ってたんだよ」


 それはネオさんの声だった。


「え、ネオさん……!? イメージ違うって言うか……」


「バカっ! シシガミって呼べ、追われてんだからさ。姫もメガミって呼べよ。どんだけ緊張感抜けてんだよテメェら……」


 ブリアンはサングラスをクイクイといじりながら、ネオさんの顔を覗き込んでいた。

「あら、こんなに可愛かったなんてね。普段からそっちの方が良いんじゃない?」


 キリハラも顔を赤くして後ろをチラチラと見ていた。

「あ、ああ……俺もそう言ったんだけどな……」


 ネオさんはキリハラの脇腹を殴り、顔を隠して向こうを向いた。

「やめろよバカ、そういうの、いらないからさ……」


「ううっ……」

 キリハラは痛そうに脇腹を押さえていたが、顔がにやけていた。


 僕はネオさんに質問した。

「シシガミさん、配給って一人につき米貰えるらしいんすけど、サザナさん達は来ないんすか?」


 ネオさんはバイクから飛び降りて立つと、目をさらに細めてニヤけ、頭に指を立ててサザナさんの真似をした。

「アイツは『私は施す側であって、施される側では無い』とか言って車で無線やってるよ」


「言いそうっすね……」


「ストームは意識が戻らないし、スレイはストーム診てるからって動かないしな。とりあえず私だけ来た」



 そうして話していると、カーンカーンと鐘をうち鳴らす音が聞こえてきた。

鐘の音の方を見ると、村人が一斉に石碑の方へと集まって行った。


 クロス君が車椅子で前に出る。

「配給始まるよ! 並びに行こう……!!」


 僕達が石碑に向かって歩き始めると、集まる村人達の向こうで、石碑の台座に登る背の低い軍人男性の姿が見えた。


 見た目は中年齢、ハリネズミのような髪型をし、やせ細った男だった。


 男は拡声器を取り出して、スイッチを入れた。

 キィーンと言う、マイクのズレた音が瞬間、広場の空気を冷やした。


 男はヨロヨロと拡声器を口に当てると、ゆっくりと話し始めた。


「あーあー、これから配給をしますが、先にドラキール軍の登用試験を行います」


 村人達はざわめき出した。

「登用試験?」 「初めてだが……」 「なんなの?」



 男は拡声器のボリュームを上げて、ざわめきを飲み込むように続けた。

「合格した者は正式にドラキール国民となります。本国に迎えられ、兵役後は不自由なく暮らせます」


 その一言には、村人達が湧いた。

 メイアも目を輝かせて、取り憑かれたように前へと歩き始めていた。

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