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あの……天使さん、もう帰っていいっすか? ‐天使に主役を指名されたけど、戦いたくないので帰ります‐  作者: 清水さささ
第6章・宿命編

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第191話・女神の矜持。6

「マジカルハート!! クリアリング・スプラッシュ・レイ!!」


 ブリアンが槍状のステッキを振ると、その先で水がうねって、ビームのような高圧水流カッターが生成される。

 アニメの魔法少女マジカルエンジェル、ネプチューンハートが使うのと同じ効果だ。


「すごいわね、コレ。魔法少女になるって、こんな感じなのね!!」


 ブリアンは僕と手を繋ぎ、はしゃぎながら水流ビームで地面を掘っていた。

 僕はドグマ使いだ。

 彼女の衣装も魔法も、僕の妄想が形になった結果だ。

 その意思を補給し続ける必要がある為、手を繋いでいる。


「魔法少女ってか……めっちゃ土木作業って感じっすけどね……」



 僕たちはダム破壊による洪水で決壊した、川岸まで来ていた。

 川が大きくカーブする地点で土手が破れて、川の水が村の方へと流れ出していたようだ。


 村で石碑を壊してブリアンが建国宣言したのち、ネオさんの指揮で護岸工事を行っていた。


 来る途中の水は全てブリアンが水操作で回収しながら歩き、水棲型エクリプスの残党も出てきたが、水操作が出来るブリアンの前では、一瞬で水ごと捻り潰されており、敵ではなかった。



 ネオさんは川岸の高台から見下ろしながら、現場の指示をしている。

「よし、角の大岩まで削ったら、土留めを作るぞ!」


「分かったわ!!」 ブリアンはネオの指示に従いっぱなしで魔法少女の魔法を操る。


「了解ーっ!」 「丸太を運ぶぞっ!」

 村人達もネオさんの指揮に従い、キビキビと動いて協力してくれている。



 ただ村人たちは、最初反発していた。

 王子殺しのブリアンが牢屋から出て来た上に、放棄された村の占領と建国を宣言し、石碑を壊したからだった。



 一時間前……


 広場から村民の避難地へと移動したネオさんとキリハラは、村民を集めて事情を説明していた。

「……だから、今は護岸の工事が優先なんだって!!」

「みんな、気持ちは分かる。俺だって納得はしてないんだ、でも……!!」


 しかし、村人達の感情は強かった。

「ありえないわ……!!」「王子を殺したブリアンが、占領だと!?」

「石碑を壊すなんて……あの訓示があったから、悲劇に立ち向かえたんだ!!」


 その流れを止めたのが、メイアさんだった。

 デフィーナが押していた車椅子のクロス君を見て、彼女は群衆の中から飛び出してきた。


「クロス……!! 無事だったのね、良かったわ、あなたを助けられなくて、わたし……」


 メイアさんはクロス君の切断された膝元で赤い髪を伏せて泣いていた。


 クロス君はメイアさんの肩に手を当てて、興奮していた。

「すごいんだよメイアお姉ちゃん!! 姫様がね、本物の女神様になってさ……!!」


 メイアが顔を上げると、クロス君は両手で布を絞るようなジェスチャーで訴えかけた。


「エクリプスの群れをね、水を使って、ぐっちゃぐちゃに握りつぶしちゃうんだ!! 五十匹くらいいたのに、一瞬なんだよ……!!」


 足切りで犠牲にされていたクロス君が楽しそうにしているのを見て、村人たちは言葉を失っていた。


 そんな中、村人たちの中から、一人の男性が出てきた。

 黒いスーツにローブを羽織った、丸刈りの中年男性。

 足切りを提案したという、牧師と呼ばれる人物だった。


「クロス、いけないよ。あの人は王子を殺したんだ……」


 それに対して、クロス君の反応は冷え切っていた。

「分かってるよ。でも、みんなは……王子の掟は……僕を見殺しにしたじゃないか……」


 静まり返る村人たちの中で、一人の女性が声をあげていた。

「違うのよ、クロス、それは……!!」


「違わないでしょ!! 僕は足切りなんて掟、嫌いだよっ!! 僕はもう、ブリアンお姉ちゃんの国の国民になるって決めたから……!!」


 クロス君が切断された足を擦りながら、視線を逸らした。

 逸らした先で、ブリアンが氾濫した川の水を集めて、水の巨大球を作っていた。


 村人の視線がブリアンに集まる。


 ガスタンクサイズの水の塊が、ブリアンの槍先から空中に浮いている。

 そこでブリアンが振り返った。


「ネオー!? これくらいが溜めれる限界みたい……! 一度消しても良いかしらー?」


 ネオさんは村人の説得から離れ、ブリアンへの指示をしに戻ってきた。

「待ってろ、それ使って地面削るんだよ!!」


 そこから僕とブリアンとネオさんの護岸工事は始まった。

 ブリアンが高圧水流で岩を切り裂き、地形を変えていく。


 そこにキリハラ、メイアさん、クロス君が来て、手伝いを申し出て、作業が始まる。

 しばらくすると行き場の無い村人たちは、自然と一人、二人と作業に参加し始め、ブリアンの問題行動は棚上げされたまま、村民総出の土木工事となっていた。



 デフィーナはシスターズネイルを使って、無言で木材加工に従事していた。

 デフィーナが僕の後ろからソロソロと近寄ってきて、服の裾を引っ張る。


「補給が切れたわ」


「あ、はい、今すぐに……」

 僕はブリアンの手を一時放し、デフィーナを胸の中へと抱き寄せた。


「済んだわ」


 抱き寄せて三秒も経たないうちに、デフィーナは僕の胸を突き離して、伐採作業に戻って行った。


 ブリアンはそれを見ると、すぐに僕の手を取った。

「抱き合う方が、強い補給ができるのかしら?」


「意志さえ伝われば良いんすけどね、デフィーナさんは最初の直補給がアレだったんで……」


「ふーん、私たちも試してみる?」

 ブリアンは半分近くが衣装から出ている、豊満な胸を差し向けて来る。


 僕は視線を奪われながら、唾液を飲み込んだ。

「女神像出たらヤバいんで……やめときましょう……」


「あらまぁ、あなたって本当に、謙虚なのか大胆なのか、分からないわよね」

 ブリアンはそう言って、繋いだままの柔らな指を動かし、僕の手をいたずらに引っかいていた。


 僕はしばらく黙って、水流が土を掘るのを眺めていた。

 一週間前まで、僕は本当に何もない男だった。

 ドグマを手に入れて、襲われるうちに出来る事が増えて、責任も重くなっていく。


「……出る杭は打たれるって言うか、出過ぎた真似は怪我の元っていうか……小さい頃に調子乗って痛い目みて、消極的になっちゃったんすよね……」


「……そうなのね」


 ブリアンは水流を一時止めて、水を集めだした。

 集めながら僕の方へと振り向き、強い笑顔を作った。


「でも、あなたはコレからだと思うわ。今は出過ぎるくらいで丁度良いんじゃない?」


「そうなんすかね……」


「だって私はネプチューンハートとして、ずっとあなたの力になるし、いざとなれば、女神像を使うのだって構わないわよ!!」


「女神さん……」


「そう、私はあなたの最強女神になるの……!! そうしたらエクリプスが来たって、ドラキールの追っ手が来たって、ヘッチャラでしょ!?」


 ブリアンは再び水流を発射し、地面を削り始めた。


 強烈な水流が、硬質な岩盤を容易く削って行く。

 これをエクリプスや人に向けて撃ったら、それこそ一騎当千の力になるだろう。


 僕の心は揺れ動いていた。

 今まで怖いと思っていた現象が、ブリアン一人で解決してしまう。


 僕はその、圧倒的な信頼が怖かった。


 

 工事はブリアンの掘削能力と、デフィーナのカッターの能力、ネオさんの指揮能力に、動ける村人60名近くが協力して、みるみる進んでいく。


 子供達はブリアンの姿を眺めている。

「女神さんってすごいねえー!」「私もアレやってみたいなぁ」


 ブリアンは嬉しそうに微笑んで僕を見た。

「それにしても……すごいわね、コレ。魔法少女になるって、こんな感じなのね!!」


「魔法少女ってか……めっちゃ土木作業って感じっすけどね……」


「いいえ違うわスゴミ。これは国を作る魔法なのよ……!!」


「国を作る魔法……?」


「そうよ、人々が安心して暮らせる場所を作る。国作りってそういうものでしょ?」

 ブリアンの赤い瞳は輝いていた。

「こうして地を切って、水を流す。これこそが国を作ってるって事。魔法少女って言うのに相応しい響きだと思わない?」

 それは夢を語る乙女の瞳だった。

 ブリアンが望んでいた、国を救うって言う夢に向かって走っている。

 そんな実感なのだろう。

 

 僕には、大きな事は分からなかったが……


「女神さんが楽しそうなら、ネプチューンハート、なってもらって良かったっすよ」


 少しだけ、彼女に対する信頼が、暖かいものだと感じ始めていた。




 土木作業は夕暮まで続いた。


 ネプチューンハートの水操作は便利さを増していった。

 純化による飲料水の生成。

 暑がる村人にはミストの風を浴びせて納涼。

 固めたい地面に泥水を打ち込んでから水分だけを抜いて締め固め。


 数時間の連続使用による慣れと、ネオさんの科学的発案が、出来ることの幅を次々と増やしていく。


 そして、護岸工事は完成した。


 完成したのは木材で囲われた、学校の校庭ほどの大きさの溜め池だった。

 ネオさんは自慢げにニヤけて腕を組んだ。


「上々の出来だな。いずれコンクリートを流したいけど、今日のところは十分だろ」


 村人達の声も、歓喜の中にあった。

「こんなのが一日で出来るなんて、凄まじいな」

「ブリアンって方、本当に女神みたいだわ……」

「女神さんが作った水も美味しいしね……!」


 しかし、作業に参加はしながらも、鼻持ちならない者たちもいた。

「でも、占領って言ったよな……村はどうなるんだ?」

「家には戻れるのかしら……」



 そんな声に答えるように、ブリアンはマジカルエンジェルの翼を使って、民衆の前へと飛翔した。


「みなさん、護岸工事を手伝っていただき、ありがとうございます……!! これで村が水没する心配はありません!!」


 ブリアンの大声に、村の人々の視線が集まる。

「飛んでるぞ……!?」「結局、何者なんだ……?」


 ブリアンは両手を広げて訴えかけていた。

「私は村に対して建国を宣言しましたが、あなた方から何かを奪う気も、生活を変えさせる気もありません……!! 家の中も乾いてますので、帰ってそのまま生活してください!!」



「石碑を壊したじゃないか……」「なにも決めないで、どうするもり?」


 ブリアンは胸に手を当てて、声を張った。

「私はただ、悲劇ありきの、悲劇を当たり前にする体制を壊したかったんです……!! 皆さんが深い悲劇に見舞われたのは分かります!! 私もそうだったからです!!」



しかし、不審がる村人は寄り合うようんして、ブリアンを避けていた。

「何が分かるんだ……」「王子を撃ったんじゃ……」


「そうです私はエリオットを射殺しました……」

 ブリアンの言葉に、熱がこもり始めていた。

「でも彼を撃つ寸前まで、あなた方と同じで、彼の言葉を信頼していたんです。悲劇の美談、彼の清廉さを信じていました」


 ブリアンは泣きながら身を縮めて告白していた。

 その震えた声に混じる本気さに、村人はざわつき始める。


「……しかし結婚式の日、彼は私の城を焼いて家臣の虐殺を行い、執事を目の前で殺したのです……」


 その告白に、反射するように村人から反論の声が出た。

「王子がそんな事、する訳ないだろ……!!」

「ありえないわ、嘘ついてるのよ!」



 ブリアンは涙を流しながら、民衆の正面へと降りていき、まっすぐな瞳で民衆を見つめた。

「いいえ、やりました。私の育ての親である執事が黒焦げになり、腕の骨だけが残りました。炭となった彼がホコリのように崩れたのが、今でも目に焼き付いています」


 あまりに強い言葉と光を失った目だった。

 その圧に、一瞬、村人も喋らずに静寂が走った。


 僕はブリアンを追うように駆けだしていた。、

「女神さんダメっすよ……!! それ以上思い出したら……!!」


 ブリアンは、僕の方を見て片手を開いて停止を促すポーズをとった。

 それを見て僕が止まると、ブリアンはゆっくりと村人たちへと振り返った。


「私は執事を殺されて泣き叫びました。そして両親の安否を問いただした私に対して、彼はこう言ったのです」


 ブリアンは村民たちへと手を差し伸べた。


「その悲劇が、また君を強くする。……と」


 村人のざわつきは、どよめきに変わっていった。


「確かに私は強くなったわ。でなければあなた方に真実を話す前に、自害していたでしょう」

 ブリアンは首元についた、自害しようとした首の切り傷を見せつけていた。

「彼は私たちに、悲劇と戦う為の勇気をくれるのでは無いわ。悲劇を作り出して、戦わせるの。だから私は、彼を許せなくて、撃った」


 村人たちはしばらく黙っていた。

 しかし一人が口を開く。


「それでも、悲劇は起きるじゃないか!! それを乗り越えるために……俺らは……!!」


 ブリアンは即座に返した。


「悲劇なんて、最初から無い方が良いじゃないですか……」


 そしてステッキを降ろし、静かに僕の顔へと振り向いた。


「私は建国すると宣言しましたが、政策などはありません。伝えたいのは悲劇は起きるべきじゃないって事だけです。それだけです……」

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