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あの……天使さん、もう帰っていいっすか? ‐天使に主役を指名されたけど、戦いたくないので帰ります‐  作者: 清水さささ
第6章・宿命編

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第190話・女神の矜持。5

「私が魔法少女になれれば、間違いなく戦力になるだろ?」


 そう提案してきたネオさんの、引き締まった身体に視線が引き寄せられた。

 晒け出された無駄のない腹筋、ホットパンツからスラッと伸びる健康的な太もも。

 元々武装して戦っていて、アクロバットな戦術と大胆な戦略の使用。

 チームで一番頼りになるのがネオさんだ。

 それは間違いない。


「確かにネオさんを強化出来たら、強そうっすけど……」


「そうだろ? デフィーナみたいなヤバい衣装は嫌だけどさ、ブリアンやノリコくらいのなら着ても良いかなって……」 

 ネオさんは恥ずかしげに鎖骨あたりに指を置いていた。


「……喧嘩売ってる?」

 デフィーナは短くネオさんを睨んだ。


 僕は頬を指でかきながら答えた。

「被るのが嫌ってイメージあって、マジカルエンジェルって五人いて、残りが風使いのエアリアルハートだけなんすけど……」


「いいじゃん、風使い! 私ならガジェットで補強して、いくらでも応用出来る」


 食い気味に顔を寄せてくるネオさんに対して、僕は一歩引いて目を逸らした。


「いやぁ、その、キャラのイメージが合わないと、無理なんすよね……」


「どうゆう事?」


 僕はデフィーナを横目で見ながら語り始めた。

「デフィーナさんのアサシンハートって、根暗ストーカーキャラなんすよ……」


「誰が根暗ストーカーよ」

 デフィーナが睨みあげてきた。


 しかし、構わず続けた。

「ノリコちゃんのヒーローハートは奇天烈ハイテンションキャラなんで……イメージピッタリなんすよ。ただ、エアリアルハートって、無邪気ロリっ子なんすよねぇ……」


 ネオさんは頭に手を置いて苦笑いをしていた。

「なんか気持ち悪ぃ能力条件だな……いやぁ、クール天才系の私に、ロリっ子は無理かぁ」


「天才クールキャラは、ネプチューンハートなんすけど、さっき水がヤバかったから、女神さんに当てはめちゃったって言うか……」


 それを聞いたブリアンは、腰に手を当てて身体をくねらせた。

「あらスゴミ? 天才クールなら、私で間違い無いんじゃない?」


「ああ……うん」


「無いだろ」「程遠いわね」


 僕の力ない返答に対して、ネオさんとデフィーナの否定がガッツリとハモった。


「あらまあ!」


 ブリアンは目を丸くして驚いている。

 冗談で言ってると思ったが、まさか本気で言ってたのだろうか……


 ネオさんは口に指を当てて考察していた。

「って事は、性格以外にも当てはまる条件があれば、魔法少女化は出来るって事なのか?」


 僕はブリアンの衣装を見て。目を細めていた。

「そうかもっすね……ネプチューンハートは、その……マジカルエンジェルでも一番デカいキャラなんで、そこで再現出来たのかと……」


 ネオさんとデフィーナは、目を細めてブリアンの胸元を見つめた。

 深夜番組枠の魔法少女のドレスに、白い胸がギリギリに収まっている。


「あ、ああ……」 「……変態ね」

 ネオさんもデフィーナも呆れ返った声を漏らしていた。


 ブリアンは目をパチパチさせて、首を傾げていた。


 戦いの終わった広場は、静かに夏の様相を取り戻し始めていた。

 BBの部屋の屋根に避難していた老人達が、木箱を並べて屋根から降りようとしていた。


 ネオさんが軽く告げる。

「デフィーナ、年寄りを降ろすの手伝ってやれ、お前が一番上手くやれる」


 デフィーナは返事もせずに、ネオさんを軽く見上げると、そのまま無言で老人達の元へと歩き出した。



 そこに、バイクのエンジン音が近づいてきた。


 山のある方角から、森の中をぬけて、駆け下りてくるバイクが、広場に真っ直ぐと入ってくる。

 バイクに乗っていたのは、巨大エクリプスの偵察に出ていた青年、キリハラだった。


 キリハラは広場の中央まで来ると、僕達の前でバイクを停車した。


「水没が起きてたから別の道探してたんだけどさ、いきなり乾いたから来てみたんだ……みんなはどこだ……?」


 ネオさんは腰に手を当てて答えた。

「おう、狼煙を見たから村人は全員高台に避難してる。エクリプスの襲撃は、洪水に合わせた水棲型がメインだったみたいだが、片付いた」


 キリハラはバイクから降りてネオさんに握手を求めた。

「そうか、感謝する……あなた達のおかげだ」


「惜しくも私は大して活躍出来なくてねぇ、礼ならそっちの女神様に言ってくれ」


 ネオさんはそう言って身体を半歩横にズラし、ブリ アンを紹介するように手を出した。


 そこでキリハラが、ブリアンへと目線を移す。

「あれ……ブリアンなのか!? なんで部屋の外に!!」


 そこに僕達の後から、クロス君の車椅子に寄りかかりながら、唯一エクリプスに噛まれたキリノさんが、咳き込みながら歩いて来た。


「その人……ゲホッ、私たちを救ってくれた。その人、英雄よ……絶対、悪い人じゃない……」


 それに合わせるように、キリノさんを看護していた老人男性も歩いて出てきた。

「なにか……事情があるのかもしれん、王子様を撃ったと言うのにも、理由がな……」


 身投げした老婆はその後方で、ブリアンに手を合わせて念仏を唱えていた。


 キリハラの顔がこわばっていき、息を飲んだ。

「足切りが、あったのか……」


 その一言に、ブリアンが前に出た。

「そうよ。村を捨てるしかないって決まって、牧師って人が足切りを言い出して、この人達を置いて、避難して行ったわ」


 老人男性は、それに対して口を開いた。

「動けない者を連れての移動は、三倍も四倍も労力を使うんじゃ……牧師さんが正しいよ……」


 悲しみの籠った重い声に、空気の圧迫が場を包んだ。

 ブリアンは振り返った。


「エリオットが作ったルールは確かに、生き延びるためには正しいかも知れないわ。でもそれに従って、弱い人を切り捨てるのが正しいだなんて……」


 老人はブリアンの話を、片手で壁を作るようにして遮った。

「よしてくれ……ワシも二年前、足切りで生き延びたんじゃ……重体の妻を置いてな……」


 老人は履いていた緩めのズボンの裾を軽くあげて見せた。

 ふくらはぎが黒ずんで、大きく腫れていた。


「二年で悪化した。ただ、ワシに順番が回ってきたんじゃ……」


 そう言って日陰へと移動し、べたりと座り込んだ。

 ブリアンは黙って老人の動きを目で追っていた。


「わたし……」


 ブリアンの目が冷めて、ひとこと呟こうとした。

 その先の言葉は、詰まって出てこなかった。



 その時、キリハラが声を上げた。

「おい、洪水……まだ終わってないんじゃないか!?」


 キリハラは僕達の背後、広場の端の林を指さしていた。

 その方角から、再び水が広場へと侵入し始めている。


 僕は声を跳ねあげた。

「えっ!? なんで、女神さんが完全に乾かしたのに!!」


 ネオさんはホットパンツのポケットに親指を入れながら、舌打ちした。

「おそらく洪水で川の形が変わったな。元栓を閉めないとずっと水が来るぞ」


 キリノさんが、座った状態で咳き込みながら、その水流を見た。

「結局、水没するなら……この村、終わりね……」


 キリハラは拳を握り、震えていた。

「すまない……俺は、逃げるみんなを……守りたい」


 座り込んた老人がキリハラを見つめた。

「バイクが走れるうちに、いけ、キリハラ。村のみなには、お前が必要じゃ」


 水は容赦なく、広場の乾いた粘土を湿らせていく。

 ブリアンは槍状のステッキを水流へと向け、歩き出した。


「分かったわ……!! 村人達が村を廃棄すると言うならば、私はここに、国を作る……!!」


 キリハラがバイクのハンドルに手をかけながら、眉をしかめた。

「国を作るってなんだ……廃村になるのに……」


「その廃村に新しい国を作るのよ!! 名前は新ブリディエット王国、第一国民は足切りにあった四名。王は私!!」


 クロス君が車椅子からブリアンを覗きあげた。

「えっと……僕、入ってるの?」


「もちろんよ……!!」


 キリノさんが傷を押さえながら、顔を上げた。

「でも、いくらあなたでも、川の水はずっと来るわよ……」


「水なんていくら来ようが、片付けてあげるわ!! この国には悲劇の掟も、足切りのルールも無いのよ……!!」


 歩きながら、僕の手を取った。


「マジカルハート! クリアリング・スプラッシュ・レイ!!」


 ブリアンが槍を掲げると、村に侵入してきた水の流れが、蛇のように長くうねって、ブリアンの槍の先の動きに従った。


 キリハラは目を見開いてそれを見ていた。


「なんだそれ……!! 何者なんだあんた……!!」


 ブリアンは槍を村の掟の八戒が書かれた黒い石版へと思い切り振り抜いた。

 エリオットの言葉で綴られた、村人全員が守っている掟と言う無言の監視者だ。


 蛇のようだった水は、瞬間的にレーザー光線のように石版目掛けて直線をえがき、大理石の石版を根元から断ち切った。


 轟音と共に、石版は台座から滑り落ちた。


 それこそが村の掟の物理的な破壊だった。


 キリハラがバイクを降り直して、ブリアンを指さした。

「何してるんだ……!! その石碑は……!!」


「あら、捨てられた村にあった、古い遺物よ!! この地は私が占領したんだから、もう必要ないでしょ!!」


「そんなの言ったもん勝ちじゃないか……!! 言ってることがめちゃくちゃだぞ……!!」

 迫るキリハラには、怒気が混じっていた。


 クロス君も心配そうに見上げる。

「どうしちゃったの? 支配者になるの……? ブリアンお姉ちゃん……」


「私はね、国民を一人も犠牲になんて捧げないわ。掟を変えるためにはね、今は、私がルールになるしかないの」


 キリノさんが顔をあげた。

 「そんな事……本気で出来ると思ってるの……?」


 「どんな大きな国だって、最初は一人が国だと言ったはずよ」


 ブリアンは僕の手を引いて槍を共に掴んだ。


「こうしてスゴミが意志を注いでくれていれば、ずっと魔法少女の技が使えるって事なんでしょ? 私、水を押し返す為なら、何時間でも働くわよ!!」


 その強い声には、一点の曇りも迷いもなかった。

 純粋だった。

 出来る出来ないより、そうしたいという熱意。

 それがブリアンの原動力なのだと、ドグマ越しに伝わる温度から感じていた。


「いいと思うっすよ! 何時間でも付き合うっすよ……!!」


 僕はブリアンに足並みを揃えた。


 そこにネオさんが手を上げて、ブリアンの歩みを止めた。

「元栓を閉めない限り止まらないって言ったろ。それは逆に言えば、護岸工事で元栓閉めれば止まるって事だ」


 ネオさんはニヤけた笑顔で親指を立てた。

「開発工事は得意なんだ。国絡みは嫌いだけどな」


 ブリアンはネオに対してピースサインを送った。

「それじゃあ、新ブリディエットの初の公共工事、バッチリお願いするわね……!!」

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