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第15話・生まれ変わって、僕は……

 アルハは何を考えてるか分からない。


 きっと誰にも分からない。


 ミステリアスな黒髪のボブカットに、ナイフのように鋭く意思の強い赤い瞳。顔立ちは良いのに無愛想で殺意が常に溢れている。



 そんな彼女と僕は昨日、初めて出会った。


 出会ってから一時間に満たない出来事の中で、命のやり取りから、恋愛関係になっていた。僕にとってはファーストキスの相手であり、初めての彼女だ。 


 彼女の言動と行動原理は意味不明だけど、なにか曲がらない芯と、目的意識がある感じはする。




「スゴミ、別れるわよ。」


 そして今、付き合ってから一日で別れを告げられた。終始狂犬のような顔をしたアルハから、悲しみに見える涙を見た。踵を返して向けた背中、その肩が震えている。


 廊下のギャラリーの存在も気にせず、僕は彼女を呼び止めていた。


「アルハさん! どこ行くんすか!!」



 アルハさんは足を止めた。振り返りはしないが、その場で回答する。


「帰るのよ、アンタはそのままアホみたいに、勝手にやってたら良いわ」


 強気に思えるその発言も、声が震えている。アルハは人殺しも平気でするし重機のようなパワーを発揮する危険な存在だ。そもそも関わりたくない。


 彼女になったのだって、彼女か死ぬかの二択だ。こんなのは選択じゃない。離れていくのは嬉しいはずだ。それなのに、何かに心がが引っかかる。


 アルハの紡ぐ言葉が震えている。


「私はね、約束したってあなたは逃げると思ってたわ、電車で逃げるのか、実家に行くのかは知らないけど、まさか本当に約束を守って学校に出てくるとは思ってなかった」



「だってそれはアルハさんが……!」


「分かったからいいわ、その場しのぎなんでしょ、ここまでで終わりよ。さようなら、ヒサヅカ スゴミ」




 アルハの『さよなら』に対して、首の刺し傷がジンとして反応する、殺されると思い、攻撃に対して思わず手を出して身構えていた。


 しかしアルハは何もしない。振りかえらず真っ直ぐ静かに、遠のいていく。


 喉の奥が熱い、何かを言おうとして言えない。そんな迷う時間も解消できないうちに、アルハの姿は廊下の奥に消えていった。




 すると一斉に廊下の一同がに盛り上がり始める。


「すごいの見ちゃったねー!」「別れんの初めて見た!」

「あれは修羅場ってやつよ! 修羅場!」


 何名かはスマホのカメラを向けていた。完全に見世物の処刑台だ。登校初日でゲームオーバー。セーブ機能なんてものは無い。



 肩を落としていると、ネオンさんが横から無遠慮に肩を叩いてきた。

「やっちまったな、ヒサヅカ。お前が悪いぞ。」



 【スキル名:追討。99999ダメージ・即死】



「………………」


 死人は何も言い返せない。



 するとネオンさんが踏み出して肩に手を置きなおし、僕の歪んだ顔を無遠慮に覗きこんでくる。まるで死体蹴りのプロだ。


「しっかし驚いたよ、アイツって不愛想で毒舌だろ、よく落としたよな」



 僕は静かにつぶやいた。


「アルハさんは僕が落としたって言うか、僕がアルハさんに落とされかけたというか……」


「はは、なんだよそれ、シロハネも意外と積極的ってか?」



 ネオンさんは呆れた顔をして、覗き込み体勢から顔を上げた。僕もネオンさんの顔を追いかけて顔を上げる。


「シロハネって……アルハさんの苗字っすか?」

「なんだよ、名前も知らないで彼女にしてたのかよ。お前やべえな」



 そこにヒメガミさんが、両手を揃えて左右に揺れながら割って入ってくる。


「私もビックリしちゃったよ! でもシロハネさんって暗いし怖いし、ヒサヅカ君はもう関わらない方が良いと思う!」


「……そうっすかね」


 関わりたくないのは事実だった。逃げたら殺すって言ってたから従って学校に来ただけだ。今だって殺されるかと思ったけど、今度はアルハの方から去っていった。僕は逃げてないから殺されない。


 ひとまず今は、命の安全が保証されている。



 僕が立ちすくんでいると、ヒメガミさんが腰を曲げて覗き込んで来た。ツヤツヤの縦ロールとはち切れんばかりの胸が重力に従って揺れている。


「私ね、姫神ヒメガミ真理亜マリアって言うの! みんなマリアンって呼んでくれるから、ヒサヅカ君にもそう呼んで欲しいな!」


「はあ、マリアン……?」


「そう! 私もヒサヅカ君の事は、スゴム君って呼んでも良い?」


「スゴム……? 僕はスゴミですけど。」


「あれ、そうだっけ?ごめんね! 私は記憶力悪くて! だったらよろしくね、スゴミ君!」





 昨日フェンス越しに会った時も、苗字をクヅカと間違われた。ヒメガミさんの中では『久塚クヅカ凄夢スゴム』だったらしい。僕は『久塚ヒサヅカ凄巳スゴミ』です。


 すると、ヒメガミさんの接近に、ネオンさんも同調してきた。


「私もシロハネには、関わらない方が良いと思うよ、性格悪いし、あいつもそんなに学校来ないしな」


「そうだったんすね」




 そんな僕らを尻目に、近くの女子が僕をみてヒソヒソと話して笑っている。


「でもさぁ、学校で朝から破局はヤバすぎでしょお」

「ねぇ、やることやってるのにねぇ」

「いきたくて必死はウケるよねー!」




 それに対してネオンさんがにらみを効かせた。


「おい」


 その一言の圧だけで女子達は黙り、教室に入っていった。凄まじい威圧艦、間違いなくクラス女子のボスなんだろうと感じた。


 そしてヒメガミさんがまた一歩近寄る。


「スゴミ君、なにかあったら言ってね! 私達はもうお友達だよ!」




 崩れ落ちていた僕の心に投げかけられたヒメガミさんの優しさに涙が出そうになった。


「あ、ありがとうございます、ヒメガミさん……」


「マリアンって呼んでくれないとお友達じゃないよ!」


「あ、ごめんなさい、マリアン……」


 そういうと、ヒメガミさんは唇をキュッとむすんでニッコリと笑った。なんて可愛らしくて、潤っていて、浅いピンク色の唇だろうか。


 この二人がついててくれれば心強い。コロシアムの敗北者となった僕への、まさに死の淵からの救済、女神様の【リザレクション】が炸裂して、この学校というダンジョンを祝福していた。



 ───しかし


 首の傷が痛み、再び廊下の奥に目をやる。アルハの事が何故かどうしても引っかかる。自分を殺そうとして脅してきたけど、自分が学校に居るのは彼女のおかげでもあった。殺人未遂は犯罪だ、それを荒療治なんて言葉で片付けたくはないけど、彼女は紛れもなく僕の始まりに位置する存在だった。




 キーンコーンカーンコーン


 学校のチャイムが鳴り、生徒達が教室になだれ込む。僕は9年ぶりの学校生活を送った。


 ヒメガミさんは休み時間になるたびに机に来てくれて、お昼もネオンさんを連れて一緒に来てくれた。


 会話の内容は、ご飯の話、テレビの話、動画配信者の話など、話題をどんどん出してくれて、少しでも分からない反応をすると即座に話題を切り替える。


 自分の事も色々聞き出されたが、それがだんだん心地よくなっていき、放課後になる頃にはヒメガミさんが席に来てくれるのを期待している自分がいた。


「じゃあ、私は部活あるから、今日はここまでだね! 明日もよろしくね!」


「はい、本当にありがとうございます、ヒメガミさん」


「ヒメガミさん……?」


 ヒメガミさんはワザとらしく頬を膨らます。




「あ、マリアン、また明日」


「うん、じゃあね!」


 一瞬でニコッと元気な笑顔。


 まるであだ名呼びの答え合わせをする儀式のようだった。手を振りながら教室を出ていくヒメガミさん。僕は座ったまま、ニヤけた顔で手を振りつづけていた。教室から出る寸前、もう一度こちらを向いて手を振り、壁の奥へと去っていった。



 彼女の姿が見えなくなった、その瞬間だった。



 ギシッと机が揺れた、正面を見るとネオンさんが大胆に太ももを机に乗っけて、顔が目の前にあった。その圧に萎縮し、ニヤけた顔から一瞬でビクッと背筋を伸ばす。



「な、なんすかいきなり……!?」



 僕の焦った反応に、ネオンさんははニヤケ顔をさらに近づけてくる。



「ヒサヅカ、お前さ……マリアンの事、好きだろ」



 一瞬で体温が上がり、椅子がガタンと揺れた。机と椅子の間が狭くて、机を動かさなきゃ逃げられない。



「……えっ!? あ、いや……! いい子だなあ、って思いますけど……って、いきなりなんですか!!」


「はははっ! 分かりやすっ! 思い切り顔に書いてあるじゃん!!」



「いや、なんすか! またそうやってイジりに来たんすか!」


「違う、違うって!」



 ネオンさんは、一旦腰を引いて両手を振って否定したのち、僕の両肩に無遠慮に両手を置き、再び顔を近づけた。さっきより近い。ネオンさんの前分けの髪が僕の額をくすぐり、息が当たる近さで、その凛々しい瞳をを合わせて提案してきた。





「お前さ、マリアンに告れよ」


「は……?」


 突然の無茶振りだった。どうやらガッコウ編、地獄の第二ステージが幕を開けたようだ。


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