表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

女戦闘員に堕ちたヒーロー

ヒーローが無個性な女戦闘員になる話です。

第一章 女戦闘員に堕ちたヒーロー


――この都市には、二つの巨大な勢力が存在していた。

一つは、市民の平和と安全を守るために結成されたヒーロー組織『レギオン』。志を同じくする者たちが集い、悪に立ち向かっていた。

もう一つは、人類支配を目論む悪の秘密結社『ノワール』。徹底的な改造と洗脳によって兵士を量産し、着々とその勢力を拡大している狂気の組織だった。


渋谷真は、レギオンの中でもエリートと呼ばれる存在だった。

強い正義感と実力を持ち、後輩たちからも一目置かれていた。


作戦前、後輩の斎藤光が無邪気に笑った。


「ノワールの女戦闘員なんて、結局はただの雑魚ですよね、先輩!」


真も苦笑しながら答える。


「ああ、あんな無個性な連中、俺たちの敵じゃないさ」


黒の全身タイツに身を包み、無表情で動く女戦闘員たち。確かに数は多いが、一人一人の戦闘能力は高くない。そう信じて疑わなかった。


だが――その油断こそが、破滅への第一歩だった。


作戦中、ノワールの罠にはまり、一般市民が多数人質に取られた。

責任を感じた真は、交渉の場にただ一人赴いた。


冷たい空気が支配する巨大なホール。

人質たちは拘束され、目を潤ませて震えていた。


その中心に立つノワールの幹部。白銀の仮面をつけた男が、悠然と告げる。


「条件は一つ。お前がこちらに投降し、我々のために働くことだ」


言葉が鋭く突き刺さる。

真は無言で拳を握りしめた。


(俺だけが屈辱に耐えれば……この人たちは助かる……)


だが、心は葛藤で引き裂かれていた。

ヒーローとしての誇りを捨てるなど、本来ならあり得ない。


幹部はさらに追い打ちをかけるように言う。


「拒めば……彼ら全員、今ここで処刑する」


周囲の女戦闘員たちが、無機質に銃を構える。


(そんなこと……絶対にさせない!)


決意を固め、真は頭を下げた。


「……わかった。俺は、投降する……」


声が震えていた。屈辱に唇を噛み、膝を折る。


幹部は満足げに笑った。


「賢明だ。連れて行け」


無言の命令と共に、女戦闘員たちが真を取り囲み、暗い施設の中へと連行していった。



薄暗い改造施設。

金属製の椅子に手足を拘束され、真は動けなかった。


白衣を着た男たちが、無感情に準備を進めている。


「これより、適合処置を施す」


淡々とした声。


(適合……処置?)


胸の奥に、不吉な予感が渦巻く。


助手が無言で近づき、太い注射器を真の腕に突き立てた。


「う……っ!」


灼けつくような薬液が、血管を駆け巡る。


身体中に激痛が走った。

筋肉が痙攣し、骨格が軋みを上げる。


「ぐあああああッ!!」


叫び声が響き渡る。


(な、なんだこれ……!俺は……どうなる!?)


胸が膨らみ、腰が細く括れ、指先がしなやかに変化していく。


「あ……あぁ……っ!」


喉から漏れた声は、甲高く女のものだった。


(そんな、馬鹿な……!)


必死に自分を保とうとするが、身体は裏切るように変貌していく。


真は恐怖に震えた。

まさか、女にされるとは想像もしていなかった。

ただの服従、ただの戦闘訓練――そんな甘い考えは、跡形もなく砕かれた。


数分後。

そこにいたのは、ヒーロー・渋谷真ではなかった。

女の肉体を持つ、改造戦闘員428号だった。



「制服を着ろ」


冷たい命令が飛んだ。


テーブルには、黒の全身タイツ、紋章入りバックル、アームカバー、ブーツが無造作に置かれている。


真は、ただ呆然と立ち尽くした。


(俺が……これを……?)


惨めさと羞恥で、頭が真っ白になる。


女戦闘員二人が無言で近づき、肩を掴んだ。


「さっさと着ろ」


鋭く叱責され、真は震える手でタイツを手に取った。


つるりと冷たい、肌に吸い付くような素材。

その感触だけで、全身が粟立った。


(嫌だ……こんな格好……)


それでも、命令に逆らえば人質が危ない。

歯を食いしばり、片足をタイツに通す。

ひやりとした感触が、敏感になった素肌を這った。


もう片足も通し、腰まで引き上げる。

女のように丸みを帯びたヒップラインが、タイツに包まれていく。


(やめろ……やめろ……!)


叫びたい衝動を必死で押し殺しながら、上半身へタイツを引き上げる。


バストの膨らみをタイツが締め付け、呼吸が苦しくなる。


最後に、頭部をタイツで覆う。

目だけが開いた不気味な仮面の完成。


アームカバーを通し、ブーツを履き、腰にバックルを巻き、カチリと締めた。


鏡に映ったのは――黒一色の女戦闘員、428号だった。


「忠誠を誓え」


命令が飛ぶ。


(できるわけない……!)


口が動かない。

だが、ためらった刹那、タイツ越しにビンタが飛んだ。


「私は……ノワールに……忠誠を……誓います……」


か細い声。

すぐに、叱責が飛ぶ。


「声が小さい!」


再び平手打ち。


必死に声を張り上げた。


「私はノワールに忠誠を誓います!!」


その叫びと共に、真の最後の誇りは砕けた。


女戦闘員として忠誠を誓わされた直後――

真の前に、新たな地獄が広がった。


薄暗い施設の中央に、次々と人質たちが引きずり出されてきた。

男女合わせて十名ほど。

彼らもまた、手足を縛られ、絶望に打ちひしがれていた。


幹部が冷たく告げる。


「これより、彼らにも適合処置を施す。貴様も見届けろ」


(そんな……!俺が身を差し出したのに……!)


目の前で起きる惨劇に、真はただ立ち尽くすしかなかった。


医療班が手際よく、人質たちに注射を打ち始める。

悲鳴と嗚咽が飛び交う中、彼らの身体がみるみるうちに変化していった。


男性も女性も関係なく、全員が統一された女体へと変えられていく。

胸が膨らみ、腰が括れ、肌は滑らかになり、髪が伸びる。


そして――無機質な黒い制服を着せられ、目元だけを残して覆われる。


「これより、順に番号を付与する」


幹部が淡々と宣言した。


「428号」


呼ばれたのは、真だ。


「429号、430号……」


次々と番号が与えられ、かつての人質たちは、無個性な女戦闘員へと堕ちていった。


彼らもまた、制服を着せられる苦痛と屈辱に震えながら、忠誠を誓わされた。


「私はノワールに忠誠を誓います!!」


次々と上がる声。

かつて市民だった彼らが、完全に敵の一員として生まれ変わる姿。


真はその光景を、ただ呆然と見つめていた。


(俺は……何のために……)


喉の奥から、呻き声が漏れた。


人質たちは解放されるどころか、永遠に敵の道具として生きることになったのだ。


真は絶望した。

自分の行動が、誰一人救えなかった現実に。



数時間後。

ノワールの拠点、地下演習場。


「初任務だ」


幹部の冷徹な声が響く。


黒い制服に身を包んだ女戦闘員たち――428号(真)を含む十数人が整列していた。


任務内容は、レギオンの偵察小隊を迎撃すること。


(まさか……レギオンを、俺たちが……!?)


心が凍りつく。

かつての仲間たちに、刃を向けることになるなど――


「出撃」


短い号令とともに、全員が一斉に駆け出した。



目的地は、廃工場跡。

薄暗い空間に、レギオンの若きヒーローたちが集結していた。


その中には、見覚えのある顔があった。


(……斎藤……!)


かつて、共に笑い合った後輩、斎藤光。

無邪気な笑顔で「女戦闘員なんて雑魚ですよね」と言っていた彼が、真剣な顔で立っていた。


女戦闘員部隊が一斉に襲いかかる。


真も、命令に逆らえず、斎藤たちに向かって飛び出した。


(嫌だ、やめろ……!こんなこと……!)


叫びたい気持ちを押し殺し、拳を振るう。


斎藤は一瞬たじろいだが、すぐに反撃してきた。


「うおっ、動き速いな……!」


互いに拳と蹴りを交錯させる。


しかし、真の動きには迷いがあった。

力を入れきれず、攻撃は空を切る。


(斎藤……こんなに、成長してたのか……)


油断した隙に、斎藤の拳が真の腹部を捉えた。


「ぐっ……!」


思わず後退する。


さらに追撃。

斎藤の蹴りが、真の側頭部を打ち抜いた。


「はあっ!」


強烈な衝撃。

黒タイツ越しに全身がしなり、真は地面に転がった。


視界がぐるぐると回る。


(俺……負けた……)


立ち上がれない。

全身が痺れる。


斎藤は深く息を吐きながら、目の前の女戦闘員(=真)を警戒していたが――

正体には気付く様子はなかった。


「何か……この戦闘員だけ、妙に動きが違ったな」


呟きながら、斎藤は去っていった。


残された真は、ただ黙って、薄汚れた床を見つめていた。


(こんな……こんなはずじゃ……)


胸の奥が張り裂けそうだった。



任務終了後。

ノワールの拠点に帰還した428号たちを、幹部たちは冷たい眼差しで迎えた。


「お前たちは道具だ。無駄な感情は必要ない」


命令が突き刺さる。


真はただ、頭を垂れるしかなかった。


(俺は……もう、ヒーローじゃない……)


胸に空いた大きな穴は、二度と埋まることはなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ