お守り
卯月を出発して1日が経った。
ここは羊ケ丘。卯月と未申との間に位置する町だ。
未申に行く道中にある町はここしかないと言うので一泊することになった。
「まだ夕食には時間が早い。私は行きたいところがある。威斗も好きに見て回ると良い。ではまた夕食でな」
雪那と別れた後、聞き込みをするために町の中央部に来た。
「にしても、卯月と違って町に入るために許可証必要ねぇんだな」
『虎ノ門や卯月、未申は十二支が護っている土地だからだ』
「そこのお兄さん。お守り買ってかない?」
「この先絶対役に立ちますよ」
彪牙と話をしていると明らかに双子の男に声をかけられた。
「どうして絶対って言えるんだ?」
「俺達は未来が見えるんだー」
「制限はありますけどね」
胡散くせぇけど、嘘をついてる気配はねぇな。
「申し遅れました。私は牧雄と申します」
「俺は仁武だよー。よろしくね寅ちゃん」
「その呼び方やめろ」
「えー。やだ」
本当にそっくりな双子だな。名前を聞いてもどっちがどっちか分からねぇな。
「俺は虎牙威斗だ。そのお守り買わせてもらうわ」
「毎度ありー」
「貴方に幸運が訪れますように」
2人に礼を言って逆方向に歩き出す。
「また会おうねー。威斗ちゃん」
仁武に呼ばれた気がして振り返る。
「は?」
さっきまで店があったであろう所は跡形もなくなくなっていた。
「何がどうなってんだ?」
『威斗。雪那との約束の時間が近い。宿に戻ったほうが良いのではないか?』
「そうだな。下手に質問して怪しまれたら困るからな」
昨日の奴らの仲間なのか?怪しいやつが多すぎて訳わからねぇな。
「何か合ったのか?顔が暗いぞ?」
「怪しい双子に会った」
「怪しい双子?」
「そいつらは未来が見えると言ってた。そいつらからお守りを買ったんだが、意図的に俺等に接触してきたのは間違いねぇ。もしかしたら昨日の連中の仲間かもしれねぇ」
『どんな双子だったのー?』
「口調も行動も全然違うのに見た目がそっくりだから見分けがつきづらい。たまにどっちが喋ってるの分からなくなるって感じ」
「そんな奴らがお守りを売っていたと」
『どちらにせよ、この先厄介なことに巻き込まれるのは明白だな』
「明日も朝一で出発でいいのか?」
「あぁ。今日と同じくらいかかるからな」
「分かった」
夕飯を食べた後、雪那に黙って宿を抜け出して、双子と出会った場所へ向かった。
「彪牙は昨日の連中とあの双子無関係に思うか?」
『完全に無関係とは言い切れないが、私は無関係だと考えている』
「理由はなんだ?」
『予言、予知は未の得意なことだ。もし仮に、昨日の奴らと関係があったとしたら、私達に警戒されていると分かっているのに接触してくるだろうか。それにあの双子はお面を着けていなかった』
「なるほどな。つーことは未申でもう1回接触してくる可能性が高いな」
『そうなるな』
「もしくはあの双子のどちらかが未に選ばれたんじゃねぇか?」
『どうだろうな。微かに未の気配はしたが、あの双子のどちらからも感じた。関係は絶対あるはずだ』
「まぁ、行ってみればいずれ分かるだろ」
『そうだな』
宿に帰ると寝間着に身を包んだ雪那が玄関に立っていた。
「こんな時間に散歩か?」
「少し気になった事があってな」
「私に秘密でか?」
「黙って出ていったのは悪かった」
「まぁ、無事なら良い。明日は早いぞ」
「あぁ」
翌日の夕方、昨日と同じ時間帯に未申に到着した。
「はー。やっと着いた。意外と長旅だったな」
「これからまだ2人だぞ。十二支は12の動物が居るから十二支と呼ばれているのだ。後10人も居るじゃないか」
「先は長いな…」
いつも通り、門で許可証を見せる。
「虎ノ門からいらっしゃったんですね。ようこそ未申へ。許可書も何も怪しいところは無さそうなので、このままお進みください」
門を潜って未申へ入った。
「私は未申で用事があるので、後で合流する。すまないが、先に聞き込みを始めててくれ」
「分かった」
「思っていたよりも人が多いな…」
正面から物凄い勢いで俺に向かってフードを被った子供が走ってくる。
ドンッ。
避けても子供が転ぶだけなので避けずに受け止める。
「ご、ごめんなさい…」
ぶつかってきたのは不思議な目をした女の子だった。
「雪の結晶みたいな目だな…」
思わず本音が口から出てしまった。
しまった。もし、この女の子が自分の目が好きじゃなかったら、嬉しくないよな…
「お兄ちゃん、ありがとう。羊菜の目綺麗でしょ。羊菜のお兄ちゃんもそうやっていつも褒めてくれるの」
羊菜はそう言ってにんまりと笑った。
「羊菜って言うのか。俺は虎牙威斗だ」
「羊菜知ってるよ。お兄ちゃん虎ノ門から来たんでしょ?」
「とうしてそれを知ってるんだ…」
「羊菜お兄ちゃんにお遣い頼まれたんだった。羊菜悪い大人に追われてるの。お兄ちゃん強いから、羊菜のこと守ってほしい」
「悪い大人?」
その瞬間、羊菜が走ってきた方向から黒い服に身を包んだ奴らがこっちに走ってくるのが見えた。
「しょうがないな。そのお遣い俺も手伝ってやる。悪い大人からも守ってやる」
羊菜を脇に抱えて走り出す。
「羊菜、お兄ちゃんから頼まれたって言うお遣いは何なんだ?」
「……」
さっきまで元気だった羊菜が急に黙る。
「どうした?」
「お兄ちゃんにお遣いなんて頼まれてない」
「どういうことだ?」
「お兄ちゃんたちご飯も食べずにずっと話し合いしてるから、夜ご飯ぐらいちゃんと食べてほしくて、家から出るなって言われてたのに羊菜、1人で出てきちゃったの…」
言い終わると羊菜は泣き出した。
「お兄ちゃんのことを考えた結果、夕飯を買いに外に出たのか。1人で偉かったな」
羊菜の頭を撫でる。
「お兄ちゃんが心配してるだろ、一旦家に帰るぞ」
羊菜が無言で頷く。
「見つけたぞ!」
狭い路地裏に人が雪崩込んでくる。
「逃げるぞ、羊菜!」
さっきと同じ様に羊菜を脇に抱える。
「待て!!」
追いかけて来てる人数はざっと5人か。このまま撒いた方が得策だな。
「お、お兄ちゃん!!」
大人しく脇に抱えられていた羊菜が声を上げる。
「どうした?そんな大きな声を出して」
「この先行き止まりだよ、」
「未来予知か?」
「そんなとこ、このままだと捕まっちゃう、」
「大丈夫だ。次の角を曲がったら一旦羊菜のこと降ろすからな」
「うん」
角を曲がってすぐ、羊菜を降ろして背中にやる。
「観念したのか!?」
追いついた男がニヤニヤしながら言う。
「喧嘩売る相手を間違ったな」
男を思いっきり蹴る。
「ぐ…」
その男は壁に突き刺さったまんま動かなくなった。
「今のうちに逃げるぞ」
羊菜を抱えようと手を伸ばす。
「お兄ちゃん!後ろ!!」
振り返ると俺に向かって刃物を振り上げた男が立っていた。
流石にこの距離じゃ防ぎきれねぇ…
羊菜を庇うように抱きしめる。
「うちの妹に何してんだよ?」
次の瞬間、刃物を持った男は真横に飛んでいった。
「迎えに行くのが遅くなってしまい申し訳ありません。羊菜」
「あれあれー。どっかで見た顔だと思ったらら、羊ケ丘で俺等のお守り買ってくれた寅ちゃんだー。未申に来てたんだねー」
「あの時の双子じゃねぇか!待てよ、さっき妹って言わなかったか?」
「言いました」
「羊菜は俺らの大事な大事な妹だよー」
「守っていただきありがとうございました」
牧雄が頭を下げる。
「それにしても、何で急に家を出たんですか?あれほど危ないと言ったのに」
「お兄ちゃんたちちゃんとご飯食べないから、夜ご飯ぐらいはしっかり食べてほしくて…」
「そういえば最近、全然羊菜とご飯を食べられてませんでしたね」
「気づけなくてごめんね」
「大丈夫!お兄ちゃんが守ってくれたから羊菜、大丈夫だった!」
「それは良かったですね。本当にありがとうございました」
「お兄ちゃんに会えたなら良かった。待ち合わせている奴がいつから俺はもう行くな」
3人に背を向けて歩き出す。
「探し物が見つかるといいですね」
「貴方に幸運が訪れますよーに」
結局、羊菜が追われてた理由は何だったんだろうな。聞き込みも1回も出来なかった。
待ち合わせた宿に着いたものの、雪那はまだ着いて居なかった。
先にチェックインを済ませて部屋に入る。
「雪那遅くねぇか?」
『満兎が付いているから大丈夫だろう』
「にしてもだろ。結局行きたいところがどこだかも聞いてねぇし。未申は卯月と違って洋風な物が多いんだな」
『完全に洋風と言うわけでもないだろう?この宿だって和洋折衷だ』
「まぁな。雪那が来ないかな。全員揃わないと飯食いに行けねぇしよ」
『そうだな』
「腹減ったし、何か買ってくる」
ドアを開けて廊下に出る。
やけに静かだな。この時間帯はご飯を食べに出かける人も多いはず。なのに部屋を出てから誰ともすれ違わない。
なんとも言えない違和感を感じる。
彪牙を部屋に置いてきたのは間違いだったかもな。
2人ぐらいか?
気配を感じて身構える。
まさか雪那もやられてたりしないよな?
走って廊下を駆け抜ける。
もう少しで階段という瞬間、吹き矢らしき物が体に刺さり体が受け身も取れずに転がる。
麻痺の類か。動けない。まずいな。
何とか体を動かそうとしてみるも、指一本すら動かせない。
そうしているうちに、男2人がよってくる。
「さっきはよくもやってくれたな!」
「指一本すら動かせないだろ?特別にお前の分だけ強力な麻痺薬を用意したやった」
「よへいなことを」
「さ、薬が効いてるうちに運び出すぞ。これで寅、卯、未が手に入った」
やっぱり雪那は捕まってたのか。道理で帰りが遅いわけだ。
「道を覚えられると厄介だからな」
黒い布で目を隠される。
これから何処に連れてかれるんだ。
威斗と雪那はどっちも18歳で同い年です。