朝食
威斗や雪那たち獣人は自分たちのことを人と呼びますが、人間=人ではなく、獣人=人だと認識しています。
「起きろ威斗」
俺を起こす声で目が覚めた。
「何で雪那が俺の部屋に居るんだ!?」
「何度呼びかけても威斗が起きないからだ」
「え、俺そんな起きなかった?」
「先程から10回ほど呼びかけていたぞ」
「嘘。そんなに…」
確かに家の布団よりも柔らかくて熟睡しちゃったけど…
「ごめん。家のより布団が柔らかくてつい。久しぶりに熟睡出来た。ありがとな」
「それはよかった。着替えと朝食を済ましたら出かけるぞ」
「どこに?」
「決まっているであろう?情報収集に行くぞ」
なんか遊園地に行く前の子供みたいだな…
「威斗が起きたぞ!さっさと着替えを手伝え!朝食の準備もだ!」
「かしこまりました雪那様」
待っていましたというように俺の部屋にゾロゾロと兎が入ってくる。
「威斗様、どうぞこちらへ」
兎に言われるままに支度を済ませていく。
「威斗様こちらはいかがですか!?」
「威斗様にはこちらの方がお似合いよ!」
「威斗さまぁー。朝食は何にいたしましょうかー?」
次から次へと寝起きで頭が回っていない俺に問いかけてくる。
「もう全部任せるから朝から頭を使わせないでくれ…」
発展した虎ノ門に住んでいても、本家がある中心地から離れたところに住んでいたし、ご近所付き合いもそんな頻繁じゃなかったから朝からこんなに人と話す機会なかったんだよな…
だからあんまり気にしてなかったけど、俺朝超弱いんだよな。
「なんとも情けないな」
「お前は…」
この屋敷で俺に冷たい態度を取るのはこの女だけだ。
「昨日自己紹介をするのを忘れていたからな。私は卯満月兎詩だ。卯月家当主である雪那様直属の護衛官だ。此度の旅には私も同行する。私は雪那様のためについて行くのだ。貴様の生死などこれっぽっちも気にならん。自分の身は自分で守れ」
んなこと言われなくたって分かってる。
「わざわざ言われなくたって期待してないから安心しろ!」
「はっ。せいぜい雪那様の足を引っ張らないことだな」
そう吐き捨てると兎詩は部屋を出ていった。
「一生あいつとは仲良く出来ない気がする…」
『そうか?意外と気が合いそうではないか』
「どこをどう見たら仲が良い様に見えるんだよ…」
ぼーっとしてる間に朝ごはんが出来たらしいのでそっちに移動する。
「ほんと、この屋敷無駄に広いよなー」
「無駄にとはなんだ。無駄にとは。この広い屋敷こそ、卯月家の財力と権力を示しているのだ。それを無駄にとは…。不敬極まりない。万死に値する!!」
「面倒くさ。てか、俺の独り言にいちいち反応しないで頂けますかー?」
「私は卯月家を護るのが仕事だ。たとえ雪那様の大切なお客様だとしても私が居る限り卯月家への侮辱は私が許さない」
イかれてる。今の俺の発言のどこに卯月家を侮辱する要素があった?
「さっさと行くぞ。雪那様がお待ちだ」
「誰の所為でこの無駄な時間が出来たと思ってるんだ!」
当の本人は知らん顔して俺の横を通り過ぎていった。
争うだけ無駄だって分かってるのに突っかかっていってしまう…
「遅かったな3人共。ご飯が冷めてしまうぞ」
大きな机の上に並べられた超豪華な朝ごはんたち。
ん?今3人って言わなかったか?
「遅れて申し訳ございません。雪那様。この馬鹿が支度に手間取った所為です」
支度に手間取ったのは間違いないんだけど、今俺のこと馬鹿って言ったよなこいつ。
『おはよー雪那。あれ、みんな揃ってるんだね、もしかして僕が1番最後ー!?』
「満兎!?お前も一緒に飯食うのかよ?」
『勿論だよー。ここの料理は美味しいからねー。彪牙は起きてるー?』
『私は起きているぞ』
「お前ら神様も飯食うんだなー」
『絶対食べなきゃいけないわけじゃないんだけど、美味しいからさー。みんなに食べて貰いたくてねー』
全員が用意された席に着く。
「本日も御一緒させていただきますこと光栄に思います」
兎詩が胸に手を当てて綺麗にお辞儀する。
『そんなに畏まらなくてもいいのにー』
「いつものことだろ?今日は威斗達も居るが」
『私にもそんなに気を遣う必要はない』
俺も何か言わなきゃと口を開こうとした瞬間、兎詩が口を開く。
「貴様には言ってない」
「あ゙ぁ゙ん゙???」
ほんっとこいつ失礼だな。
「こら兎詩!威斗はお客様だぞ」
「失礼いたしましたお客様…」
雪那の前だから仕方なくって感じだな…
ここで事を荒立てても得策じゃないな…
「まぁ、どうだっていいさ。さっさと飯食べようぜ。超腹減ってるからよ」
「そうだな。せっかく出来立てのご飯を用意させたのに冷めてしまっては意味がない」
全員でいただきますの挨拶をして食べ始めた。
『このような食べ物は初めて食べたがとても美味しいな』
『でしょでしょー。ご飯を食べ終わったらでざーとっていう甘いものも食べられるんだよー。僕は甘いものが大好きだからいつも楽しみなんだー』
「口に合った様で何よりだ。彪牙様」
『彪牙で良いぞ。これから長い時間を共にする仲間なのだからな』
「分かりました。では、彪牙とお呼びしますね」
『それでさー……』
雪那が満兎と彪牙と話をしている一方、俺と兎詩は黙々と料理を食べ進めていた。
「何私を見つめている。寂しいのか?雪那様に構ってもらえなくて」
「お前こそ。雪那が居なきゃ誰とも話そうとしないだろ」
「単純に貴様と話すことがないだけだ」
兎詩が俺と目が合わないように反対側を向く。
「私達だけで盛り上がってしまってすまなかった。彪牙と満兎と話すのはとても楽しくてな…」
話が一段落したのか雪那が俺達に話しかけてきた。
「兎詩は人見知りだったな。威斗には大丈夫なようだから安心していたが、その様子を見るに単に強がっていたみたいだな」
「雪那様、それは言わないお約束ですよ!!!こいつが調子に乗ります!!」
へぇー。ちょっとは可愛いところあんじゃん。
「貴様!その下品な笑みを浮かべるのを今すぐやめろ!!次その顔で私の事を見たら庭に埋めてやるからな!!」
「別にー。言うほど下品な笑み浮かべてねぇよー。失礼だな!人見知りなら何で俺に構うんだよ?」
「ふんっ。仕事だ仕事。仕事をしているときは大丈夫なだけだ。雪那様と朝食をともにしている時間が1日の中で1番好きな時間なんだ。はぁ…。悪かった。少し意地悪をしすぎた。これでいいか?」
少し申し訳なさそうにした後、すぐにあの顔に戻る。
「別にいい。これからよろしくな兎詩」
「よろしくしてやってもいい…」
「何で上から目線なんだだよ」
「仲良くなれたようで何よりだ。本題に入るが、昨日十二支に関する噂についてよく知っているやつに連絡を取った。やつはこの町の外れに住んでいるらしいからな。朝食を食べたらすぐに出かけるぞ。町外れに言って帰ってきたらすぐに夕飯が食べられるよう私の方で手配しておく」
「助かる。それにしても、卯月の町外れってどんなところなんだ?虎ノ門で言うと俺の住んでたあたりがそうなんだが…」
「そうなのか。そうだな、町並みは卯月の中心とそう変わらん。人口と年齢層が違うだけだな」
「そっか」
朝食を食べ終わると各々支度を始める。
『今日も馬車で移動だろう?』
「まぁな。当主が使う馬車だから乗り心地はそんなに悪くないんじゃないか?」
『それもそうか』
「何でも協力するって言ったのによ、その日の中に親父は本家に帰っちまうし、旅費だって渡してきたのは食料を買うので飛んじまったし。もうちょっと持たせてくれたってよくねぇか?」
『あの馬車は私も2度と乗りたくはないな…』
「同感だ」
準備を済ませて玄関に向かうと玄関に雪那と兎詩が立っていた。
「遅くなった」
「あまり待っていないから安心しろ。揃ったようだから出発するぞ」
俺達は町外れへと出発していった。