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MORE THAN BLOOD  作者: 藤倉崇晃
ゲームの顛末
9/19

殺人鬼イルカラ

旅に出た渉は、順子の通夜を思い出していた。順子の父親は渉に優しかった。渉は、いままでよくしていた事に感謝され、線香をあげた。美術部だった順子と祥子は絵をよく描いていた。祥子は描きかけの絵の前で泣き崩れていた。母親も、ずっと泣いていた。




順子の父親は、




「本当は渉君のような男の子が好きなんだよ。少し育て方が悪かったのかな、女の子が、祥子さんが恋人だったけれどね」




と言った。








渉は、順子が生前身に付けていたお守りを譲られた。








「渉君が王子様過ぎたんだな。きっとそうだ」








順子の父親は寂しそうに、渉に言うと、妻である順子の母親を慰めていた。




渉は、




「吸血鬼…ぜってぇ許さねぇ…!」




と思った。




渉は、陰陽術で、お守りに残存する順子の未練や憎悪から、殺した張本人・吸血鬼ギゲルフの現在の居場所は特定できるかもしれなかった。そこに真っすぐ討ち入りを仕掛けても構わなかったが、他に仲間がいたらどうしようかと悩んだ。仇を討つには勝たなければならない。吸血鬼はタイマンを張るとは限らない。








確実に勝てるタイミングで復讐したい。




確実に勝てる実力が欲しい。








悩みに悩んで渉は旅に出た。




何かが解決すると思った。








渉は、順子の通夜から2ヶ月以上も続いた放浪の旅の果てに埼玉県の大宮駅に立ち寄った。







自分にとって重要な出会いがあればいいなと思った。たとえば探知機のような物で吸血鬼を探し出す事が出来ればいいなと思った。ギゲルフが一人でいる所を狙いたい。いっそギゲルフでなくとも吸血鬼に先制攻撃をしたい。日頃は人間に上手く扮している吸血鬼を殺したい。








その日の夜。




渉は、大宮駅の東口を出てすぐの所にある南銀座という繁華街の路上にいた。順子が死んだ気晴らしに丁度いい、景気のよさそうな人通り、風のような街並みで心を癒していた。








すると路地裏で出くわしてしまった。




高校生くらいの不良数名が、成人男性をカツアゲしていた。




相手の成人男性は困っているようだった。




不良は、見物する渉に気が付くと、




「あ?なんすか?君は…この大人にはちょっと俺達は用があるんですよ…」




と言う。




「カツアゲか?困ってるだろ…辞めろよ…!」




すると成人男性は、




「あ…!君は…!ほ、ほら…!僕の親戚の子だ…!」




と嘘をつきながら、渉の元へ駆け寄って、




「えっと…ほら…おじさんだよ…助けておくれ…」




と言う。




渉は、




「許してやってくれ!」




と不良達に言った。




不良は一歩二歩、渉に近づいて威圧したが、すぐに引き返して逃げて行った。




「ちっ…強そうだ…」




順子の死以来、渉は、闇雲に不良たちを打ち据えるのを辞めていた。




以前であれば、不良を見かけては先制攻撃を仕掛けて殴る、蹴るのオンパレードだった渉も、順子の死がそんな自分の軽率さが災いした気がしてならなかった。




成人男性は、




「ありがとう…!僕は、飛切いまおといいます」




と名乗った。








渉は、




「渉です」




と名乗った。








飛切は、




「御礼をします!」




と言うと、コンビニで晩御飯を買ってくれた。








「家出でしょ!高校生くらいだものね!今日は助かった!」








渉は、




「飛切さんはなんの仕事していますか?なんで俺を信用したり、家出だと見抜いたりできますか?」




と言った。




飛切は、




「探偵だよ」




と言うと、照れくさそうに、




「ある男の行方をずっと追っている」




と言った。








飛切は探偵になった後、妻と結婚して娘が一人いた。娘は3年前に5歳だった時に犯罪被害に遭って殺害されていた。犯人は指名手配中の「殺人鬼イルカラ」だった。








飛切は、




「探偵業なんてやっていたら愛する娘が殺されてしまった。なんの因果だとして、殺人鬼イルカラは捕まえて警察に引き渡したい」




と言う。




渉は、立場がどこか自分と重なる飛切に味方する事にした。




「飛切さん。吸血鬼って知っていますか?」




飛切は、少し悩んでから、




「知ってる」




と言った。




「なんでそんな事まで正直に話すんですか?」




「正直に話す事にしている。正直に話す人を疑う人が嫌いだからな」




「飛切さん。吸血鬼について教えてくれたら、俺が殺人鬼イルカラを絶対捕まえて警察に引き渡します」




「渉君は吸血鬼に恨みがあるのかな?」




「つい先日友達が殺されました」




飛切は渉の目をジッと見ると、




「高校生の君に危ない橋を渡らせるわけにはいかないよ…」




と言った。そして渉を置いて帰ろうとした瞬間だった。








ビーッ!








ブザー音が鳴った。




飛切の携帯電話だろうか。




飛切はポケットからアンドロイド端末を取り出すと、訝し気な顔をして、渉を見た。




渉は、




「…なんですか?」




と言う。




「渉君。いま僕の半径200メートル圏内に吸血鬼がいる。入って来たようだ」




「え?」




飛切はアンドロイド端末を渉に見せると、それはあるアプリがインストールされていた。警察、消防や自衛隊などが所有する「吸血鬼探知機」だった。吸血鬼の脳波と人間の脳波は周波数帯が異なり、吸血鬼が近くにくると人間には無い脳波の周波数を検知して知らせてくれるアプリだった。




飛切は、




「吸血鬼に勝てるかい?」




と言った。




渉は、頷くとアプリの示す位置まで吸血鬼を追って行った。




吸血鬼は、




「な…なんだ…犯罪クレジットはまだ上限に達していないだろう…大人しく暮らしているぞ…何も悪さはしていない…」




と言う。




渉は、




「うるせぇ!!!順子を返せよ!!!吸血鬼がよ!!!」




と言うと、思いっきり吸血鬼の頭部を蹴とばして、吸血鬼は頭と胴体が脱離して死んだ。








「七変化☆一式」








飛切は、




「凄いな…!強いんだね…!陰陽師だったんだね…!」




と言う。




渉は、




「飛切さん…殺人鬼イルカラを捕まえます…!その見返りにこのアンドロイド端末をください…!」




と言う。




飛切は、




「いいよ。娘の供養ができるなら。そもそもこの探知機は、娘の死が吸血鬼の仕業かもしれないと思っていた時期に警察を買収して手に入れたものだ。その後は護身用だったけれど、殺人鬼イルカラが捕まれば、もう必要もないかもな」




と言った。




飛切は、吸血鬼について知っている情報を渉に教えた。政府公認の地下組織である事、掟の事、「製造」の事、犯罪クレジットの事、そしてその他の事を丁寧に教えた。飛切は、娘の死が吸血鬼の仕業だと思っていた時期に調べ尽くしていた。




「渉君の友達がそのような目に遭ってしまったのは、たぶんゲーム感覚の掟破りだろう。おそらく血で『製造』したのだろう」




渉は、




「ふざけやがってよぉ…!」




と怒鳴った。




飛切は、




「気分を害したならすまなかった」




と言った。




渉は、




「娘さんの形見はありますか?」




と言う。




飛切は、




「あるよ。娘が大好きだったアニメキャラクターのキーホルダーだ。陰陽師らしく陰陽術でも使うのかな?」




と言う。




渉は、




「形見に霊力が宿っています。娘さんの霊魂は霊界にいるようですが、未練や憎悪の塊がこのキーホルダーに残存しています。殺した張本人の居場所であれば霊力の共鳴を利用して特定できます」




と言うと、




「これをお借りします」




と言って、去って行った。




形見のキーホルダーは、飛切の娘の霊力だけでなく、小児性愛者の殺人鬼イルカラの嫉妬心もこびり付いていた。おそらくこのキーホルダーのせいで目を付けられて被害に遭ったのだろうが、それは飛切には言わなかった。




これなら直ぐに見つかる。




渉は陰陽術で居場所を特定した。飛切との約束を守って殺人鬼イルカラを埼玉県の指扇で捕まえた。高架下の公園で子どもを狙っている所だった。警察を呼んで、不審人物として職務質問をして貰った。殺人鬼イルカラは、幸か不幸か違法改造スタンガンを保持していた為、取り調べになった。殺人鬼と判明するのは時間の問題だろう。




殺人鬼イルカラは、




「子どもたちは…神の国で…皆お友達になって永遠の幸福に包まれるんだお…そして森羅万象の神によって大自然の精霊に生まれ変わるんだお…」




と言っていた。




渉も、飛切の持つ探知機など無くても順子を殺した張本人・吸血鬼ギゲルフであれば居場所がわかるかもしれなかった。しかし確実に勝てるタイミングと実力が欲しかったし、他の吸血鬼の居場所を逐次特定する方法も欲しかった。飛切の持つ探知機は渡りに船だった。




その後、渉は、埼玉県内で吸血鬼探知機を駆使し、吸血鬼の居場所を特定しては闘いを挑んで経験を積んだ。




吸血鬼には特殊能力があって、それが非常に厄介である事がよくわかった。




身体を鋼鉄に変える魔装機




動物の膂力を借りる七変化




この二つの使い方を改めて徹底的に学んだ。




埼玉県内で吸血鬼の数が目に見えて減っていくと、日本政府は埼玉県内の「掃除係」に何が起きているのか尋ねた。犯罪クレジットを超過したコミュニティを駆除するのは警察、消防や自衛隊が銃器や重火器を用いて速やかに行う。ただ吸血鬼の能力によっては駆除が速やかに行われない事もあった。「掃除係」とは退魔師の事で、この退魔師には渉のような陰陽師の系統の者もいるが、吸血鬼を殺害する事に長けた人間の実力者である。




埼玉県には郷田アシッドレイラという退魔師がいて、政府系の退魔業務を一手に引き受けていた。一回の報酬は数百万から数千万円に上り、渉のしている事は商売仇だった。

ネオページで連載中の作品一覧


「MORE THAN BLOOD」

https://www.neopage.com/book/30874543123193800


「また君に会うための春が来て」

https://www.neopage.com/book/30065518320038800

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