9日目 星のプライド
「昨日、夜の空、見た?」
「昨日?」
音楽室に入った途端、すでに待っていた彼女が聞いてきた。
たしか、昨日はものすごく晴れていて月も満月に近かったし見渡す限りの星屑が美しいと言われていた。
「それが?」
「だから、見てないのか、って」
「見てない」
「なんで!?」
甲高い声が耳の奥まで響く。
鼓膜と耳小骨が破裂しそうだ。
「星には興味ないだけだよ。曲もそうだし、キラキラ星も弾かないよ」
「へぇー・・・」
僕がそう言うと彼女がなにか考えている。
僕が今日は何を弾こうかと迷っていたときに、彼女が煽り発言をしてきた。
「じゃあ、キラキラ星変奏曲できないんだぁ〜」
「え?」
「かの有名なモーツァルトの変奏曲。できると思ってたのになぁ〜」
ここでばっちり僕のプライドがきずついた。
たしか持っていたと楽譜を漁る。
「できるし」
楽譜の山からキラキラ星変奏曲の学付を取り出し、譜面立てに立てた。
もう何年ぶりに弾くかわからない。
「できるじゃん」
ニヤニヤと笑う顔を横目で見る。その顔はまるでちょっとしたいたずらをやり遂げたような顔だった。
「プロにキラキラ星弾いてって言ったら簡単なのか変奏曲、どっち弾くと思う?」
「簡単なのでしょ」
「どうして?」
謎の質問に僕はため息をついた。
「誰しもが変奏曲を知っているわけでもないし、変奏曲とも言われてない。だったらプロのピアニストでも簡単なやつをして終わらせるはずだよ」
「やっぱりねぇ。君はそういうやつだ」
「はい?」
まるで心理テストをしていたようだった。
僕の心理確かめるような質問の答えに僕の性格を理解したようだった。
「さては君、極度の面倒くさがり屋だね?でも、プライドはある」
「・・・ノーコメント、です」
はっきり言って大正解である。面倒くさがり屋だし、プライドは高い。
それに比べ彼女はおそらくプライドも低いし極度の面倒くさがり屋でもない。
単に、人にちょっかいをかけるのが大好きな破茶滅茶な人であることだった。
僕のことに関しては聞きまくってくるのに彼女のことは彼女から言ってくれない。
クラシックが好きなのはわかっている。ただ、それだけだ。