3日目 放課後にクラシックを。
次の日の放課後、僕は家から引っ張り出してきたクラシックの楽譜を譜面台に並べた。宮西奏、彼女の希望でクラシックを僕が演奏することになった。いつから僕は彼女に構うようになったんだろうか。
「おじゃましま~す!」
やって来た。
「あ、ちゃんと楽譜、持ってきたんだ〜。偉いぞ〜。」
椅子に座る僕の頭を撫でてきた。
僕が今日持ってきたのはヨハン・ゼバスティアン・バッハの「主よ、人の望みの喜びよ」という曲だ。おっとりとした曲で僕にとっては眠気を誘う一曲だ。
「これ、知ってる。バッハのでしょ。」
「うん。」
ピアノが好きな人や弾く人、クラシックが好きな人ならたいてい知っていると思う曲だ。流石の彼女も知っていた。
「寝るのにちょうどいいね!!」
「まさか今から寝るつもり?」
「わかんなーい。」
「・・・。」
どこまでもマイペースな彼女が羨ましくなる。
放課後の音楽室の中、真っ黒のグランドピアノが鳴り響く。学校で使うようなリコーダーと比べてはいけないほどの値段のピアノをピアノしか価値のない僕が弾くんだ。
「聞いてて心地良いね。」
「・・・そう。」
校庭では野球部、ソフトボール部、陸上部、サッカー部が部活をしていて、その掛け声がたまに聞こえてくる程度。明るい夕陽を反射して、外で音出しをする吹奏楽部の音。その全てが彼女にとっては心地良いものになっているのだろうか。
「全然間違えないじゃん。」
「・・・慣れたもんだよ。」
ちょくちょく話しかけてくる彼女は五月蝿いに越したことはないが、今までたった一人でここにいるよりは安心している気がする。
「君はやっぱり一人が好き?」
答えられないことを聞いてこないで欲しい。
「さぁね。別に嫌いでもないし好きでもない。時によるかな。」
「そっか。君はいつも一人ピアノ部、堪能してるもんね。」
「だからそんな部活はないよ。」
僕の反発が面白いのかものすごく話しかけてくるようになった。
「明日もリクエストして良い?」
「・・・別にいいけど・・・。」
「やった!」
やっぱり明日も来る前提らしい。
彼女は何にしようかと頭を悩ませている。
「あ、ワルツとか!!」
「・・・ワルツ?」
僕、ワルツの楽譜持ってたっけ・・・。
「楽譜ある?」
「一曲くらいはあると思うけど・・・。」
家に帰ったら探さなきゃいけないのか・・・。
「じゃあ、明日、楽しみにしておくね!」
「・・・。」
まだ弾くとは言ってないんだけどなぁ。
時計が六時を知らせ、完全下校のチャイムが鳴った。