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四十九小節のカノン  作者: 雪白鴉
13/13

17日目 夢遊

お久しぶりです!

 何だか最近、高速な曲しかやっていない気がする。いや、高速な曲しかしていない。これでは僕の指がおかしくなる。なので、今日はちょっと指に優しく接してあげようと思う。


 カバンからファイルを取り出し、楽譜を引っ張り出した。


 定期的に弾きたくなるこの曲は、シューマンの「トロイメライ」。名前の通り、とろい曲である。モデラート、つまり76〜96のゆっくりとしたテンポの美しい曲である。


「あれ、今日は何だか静かだね」


 そこへ西宮奏がはいってきた。今日はいつもより来るのが遅い気がする。


「何だっけ、この曲・・・。聞いたことあるんだけど名前が出てこない」

「トロイメライだよ」

「あ、そうそう!とろいやつ!」

「とろいやつで覚えてるの・・・?」


 言っておくが、「トロイメライ」は日本語ではない。そりゃそうだ。


 トロイメライの意味はドイツ語で「夢」や「夢心地」という意味を持っている。そして、シューマンのトロイメライは「子供の情景」第七番。ふわふわとした、幻想的な曲なのだ。


「たまにはこういうのもいいね」


 お気に召したのか外を眺めながら僕の演奏を聴いてくれている。たまにこうやって聞いてくれるのは本当に嬉しい。別にBGMのために弾いているわけではないのだけれど、何だか嬉しい。これを心地よいと、そう思ってくれるだけで。


「そういえば思ったんだけど」

「なに?」

「君の演奏って、外で部活やっている人たちにも聞こえてるよね」

「そうだよ?」

「じゃあ、私だけのものじゃないのかぁ」


 小さな声でそういう。


 別に彼女のために弾いているわけではない。だけど、最近は彼女のために弾いている気がする。でも、意識しているわけじゃない。彼女が弾いてとせがむからだ。僕は彼女のわがままに付き合っているだけ。そう、付き合っているだけ・・・。


「いつか、私だけのために弾いて欲しいな」


 そういう彼女は何だか今日は儚げで、綺麗な花のようだった。


「ねぇさ」

「なに?」

「この際だから聞くけど、樹くんって幽霊とか幽体離脱とか信じる?」

「なんでこの際なの?」

「なんか幽霊っぽい曲弾いてるから」

「あっそ」


 幽霊か。考えたこともない。


「・・・まぁ、いるんじゃない?」

「何でそう思うの?」

「この世には科学では示せないものがあると思うから」


 神とか仏とかキリストとか、今やだんだんと嘘だったり科学で解明されたりしてきたけれど、見つかっていないだけで科学で解明されないものだってこの世にあっていいと思う。


 全ての元を辿れば、どう考えても説明がつかにものがほとんどだ。分子は何でできているのかとか、どうして進化ができたのかとか、何で音楽が生まれたのかとか。そんなもの、偶然か偶然じゃないかなんてわからない。


「幽霊がいてもおかしくはないんじゃない?」

「怖くはないの?」

「幽霊が?」

「そう」


 あったことがないからわからない。別に怖くないと言っても、本当に会ってしまったらどうなのかわからない。色々な漫画では、グロ系の異質などうみても元人間とは思えない幽霊だったり、ポンヤリとしたほのぼの系の幽霊がいる。わからないものは想像で生み出すしかできない。


「そっかぁ・・・」


 彼女はそのまま僕のピアノを聴きながら夢へと誘い込まれていった。



 今回は、ピアノを習っている人のほとんどが知っているだろうシューマンの「トロイメライ」でした。本文で出てきたように、「とろい」という日本語と「トロイメライ」の関係性は一切ありません!日本語ネイティブにとっては覚えやすい曲かもしれませんね。

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