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四十九小節のカノン  作者: 雪白鴉
11/13

12日目 ソナタと自由とロンド

 今日は天気が曖昧である。何だか風が強かったり突然止んだり。あまりにも自由な今日の天気はまるで彼女のようだ。


「ねぇ、君さ、さっき失礼なこと考えてたでしょ」

「・・・人聞きの悪い・・・」

「それ言ったらあってるんでしょ!!薄情なさい!!」

「わかったわかった・・・ごめんって」


 ほら、やっぱりそうだ。


「それでそれで、今日はなに弾くのぉ?」

「何で毎回毎回、違う曲弾かなきゃいけないの。僕の自由じゃん」

「でも、私がいるでしょ?だったら聞いてあげてるお客さんにはちゃんとサービスしないとね!」

「何だよ聞いてあげてるって・・・勝手に来て聞いてるだけでしょ?」


 このはちゃめちゃな性格をどうにかしてほしい。僕だって弾きたい曲はある。それを毎回毎回邪魔される身にもなってみてほしい。


「・・・わかったよ。弾けばいいんでしょ、弾けばー」

「よぉし、わかってんじゃん!い・つ・き・くん♡」

「うわ」

「うわってことはないでしょ。この薄情者」


 暴言を吐き散らし合いながらいつもの楽譜が入るファイルを覗いた。外の天気は荒れていて校庭の木々はコウコウと音を出しながら揺れている。風で揺れるガラスは下手なピアノ奏者と同じくらい雑音でうるさい。


「なんかいいのあった〜?」

「いや、まぁ・・・一応あったよ」


 僕がファイルから取り出したのは「テンペスト」だ。まさに今日にぴったりの曲だと思う。そしてその中で僕は「第一楽章」を選んだ。本当は全楽章やりたいところだが僕の腕と手が持ちそうにないので今日は第一楽章で済まさせてほしい。


「なにそれ」

「テンペスト」

「誰の曲?」

「ベートーヴェンだよ。ピアノ・ソナタ第17番ニ短調作品31-2」

「あのねぇ、そんなこと言われてもわからんよ。いや、ベートーヴェンはわかるけど」

「あはは、わからなかったら恥だね」

「言うねぇ」


 彼女がテンペストを知らなくてもベートーヴェンを知らないよりは全く恥ではない。とかいう僕も中学に入るまで知らなかった。知ったのだってピアノの先生がやってたからと言うよくある理由だ。なんかすきみたいな感じで楽譜をもらったわけじゃない。


 ただ、最近は結構気に入っている。難しい曲ではあるもののそれを変換できるほどに美しい嵐のような曲である。突然、混沌とでてくる連符がいいアクセントだ。ベートーヴェンの革命と感情が描かれる痛感な曲だ。


「でも、ベートーヴェンのソナタの中で特に人気が高いらしいから音楽の先生とか知ってるんじゃない?」

「へぇ〜。私は演奏会とか行かないからわかんなーい」

「右に同じく」


 「テンペスト」は第一楽章から第三楽章まであるがそのレパートリーは恐ろしく広いと言っていいと思う。第一楽章はLargo-Allegro、第二楽章はAdagio、第三楽章はAllegrettoという速さからの違いももちろん、形式だって違ってくる。

 第一楽章は序奏・提示部・展開部・再現部・結尾部からなるソナタ形式で、第二楽章は自由形式、そして第三楽章は同じ主題を三度以上繰り返し、その間にエピソードを挟んだ形式、ロンド形式である。


 僕が気に入っているのは第一楽章から第二楽章に入った時の変わりようだ。多重人格の人を前にしたかのように、この荒れ狂う面倒な天気のように変わるのだ。


「へぇ、なんかすごいジェットコースターみたい」

「うん」

「やっぱり君の曲を選ぶセンスはいいと見える〜」

「そうかな」


 別にそうでもないし、今日に見合う曲があるから僕のセンスになる。すなわち、これは僕のセンスではない。

 今日は結構語りましたね。

 皆さんはこの「テンペスト」という曲をご存知ですか?人気曲らしいのでぜひ聞いてみてください。個人的には第三楽章がおすすめです。フィナーレに見合う曲です。スタカートが強調されるまさに混沌の中にいるような感じです。ピアノでしか出せない味も出る美しい曲ですよ。ロンド形式なので気持ちよく聴けます。どうぞ、お暇でしたら、ご鑑賞ください。

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