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コタンに戻ると
カンナの話題で持ちきりだった。
「お前が大層ふざけた名前を付けるからどうなのかと思ったが…」
「まさか、あんな大きな熊に立ち向かえるなんて」
「いや、そこじゃないだろ。あんな事が出来るなんて」
「だろ〜?だからあの名前にしたんだよ。カンナはアイヌラックル【人の姿をした神】だ。」
熊を退治した男たちで盛り上がっていたが、中でもウタリテは誇らしげだった。
「ミチ〜カンナ〜」
「おかえり!カンナ…この間は間抜けって言ってごめんなさい」
出迎えてくれたのはウンマシとルテルケだ。
ウンマシはカンナの服にぎゅーっと抱きついた。
ルテルケは何やらばつが悪そうに話していた。
身に覚えはないので、微笑みながらルテルケの頭をポンポンと撫でてあげると、しょんぼりした表情が一気に明るくなった。
無事に帰った事を神に感謝する。
カンナの勇姿を讃える様にエムシリムセ【剣の舞】が行われた。
様々な舞いがある中で、男2人の踊り手による舞いだ。
舞が終わるとウタリテが声をかけてきた。
「カンナよぉ、俺はこれから他の地域のコタンに向かうつもりだが…一緒に行かないか?」
「他の地域?」
「あぁ。シシリムカ流域の他にも、海や湖の近くのコタンもあるんだ。もしかしたら、カンナの事を知ってるヤツも居るかも」
「行ってみたい」
海って…?湖って…?気になる言葉がたくさん出たが、それよりも真っ先に答えが出た。
ウタリテはそれを聞いてグッと喜びのポーズを決めた。
「そう言ってくれると思ったんだ!身支度も済ませてあるし、いつでも行けるぞ」
気づくと大荷物と一緒に、フチやルテルケ、ウンマシがそこに居た。
「カンナ〜」
ウンマシがギュッとカンナを抱きしめた。
「これ、フチが作ったんだ!ここのコタンの仲間って意味の模様なんだって」
ルテルケが見せてくれたのは、アイヌ模様の刺繍が施された布だった。
コレをこうして…っと。
ウタリテが、カンナの左腕に巻き付ける様に結んでくれると、とてもあたたかい気持ちになった。
「カンナの居場所はここに有る。いつでも戻って来ると良い。」
アマッポロカの声が聞こえて振り返ると、いつの間にかコタンの皆んなが見送りに来ていた。
そして
フチの言葉が心の中に響いた。
『天から役目なしに降ろされたものは一つもない。貴方がいる場所、向かう場所にもまた何かしらの大切な役割と意味があるでしょう。』
『スイ ウヌカラアン ロー《また会いましょう》』




