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船を降り、長い間船を引いてくれた人物たちに感謝を伝えると、海に浮かぶ彼らは笑顔で見送ってくれた。
「アンタ達もアシㇼ イポルセ《お疲れ様》」
エンカリベは、労いの言葉をかけるとカンナの腕にそっと布を巻いた。
その布には新たに刺繍が増えていた。
「ふふっ。私の故郷、トヤの紋様の隣にこの荒海の紋様を入れさせてもらったよ」
満足気に話すその刺繍は見事な物だった。
カンナは荒波に揺れる船の上で、この様な繊細な作業が出来る事に感服していた時だった。
エンカリベは、バッと手を広げて満遍の笑みを浮かべる。
まるで、ようこそ!と言わんばかりに。
「ここはね、蝦夷が守る地 ツガルだよ。」
「蝦夷?」
「木面を身につけるヒト、身につけないヒト、共に分け隔てなく力を合わせ生活しているヒトたちの事を蝦夷と呼んでるのさ」
辺りにはたくさんの人物が 捕った魚を運んだり山菜を運んだりしている。
中にはシュマリと同じくらいの子供も走り回る姿も見られた。
その人たちの容姿は一人一人異なるも、何も違和感を感じさせず、村の中はとても活気に満ちていた。
「アンタ達をココへ連れて行って欲しいと頼まれたから連れて来たけどーーー」
長く船の上で過ごしたせいもあって、地上に居るにも関わらず海上にいた時と同じ様に足元がフラフラと蹌踉けた。
へたれ込む様に座ると、エンカリベは何かを察した様に大笑いした。
「陸酔いしたのかい!まぁ、今すぐ出発しなくても良いんなら少しゆっくりしていきなよ」
ふふっと笑みを浮かべると、何処かへ行ってしまった。
シュマリは周囲をキラキラした目で黙って見ていたが、カンナへと視線を向けた。
カンナが目配せをすると、半面を被るなり子供達の輪に混ざって行った。
子供達は突然現れたシュマリを「新しいオニさまだ!」と、喜び迎入れた。
そして、一緒になって置いてある草の束に木の枝を投げ刺して遊び始めた。
大人達の狩りを模倣した遊びだ。
そんな様子を微笑ましく眺めていると、エンカリベが戻ってきた。
「さすが子供だね。もう馴染んでる」
シュマリが村の子供達と楽しそうに遊んでいる様子を見てそう話した。
「私の役目はアンタ達をツガルまで連れてくる事だから、ココでお別れだね。」
「……」
カンナは、エンカリベの言葉を聞いて何処か寂しそうに、返す言葉もなく押し黙った。
「この先に見える山の近くに、モレの仲間が居たはずだから頼ると良いよ。名前は…何て言ったっけね……?まぁ、あっちも木面を身に付けているから、面を付けたシュマリちゃんを連れていれば向こうから気づいてくれるはずさ」
そんな気の抜けた話をしている中で、はっ…と何かを思い出した表情を浮かべた。
「一つ忘れてた!あの山はウショロと呼ばれる山。草木も生えない所もあって、死の山と呼ぶヒトも居る一方で、私達がイオマンテで送る魂たちが集まる場所でもある。カムイモシリ《神の国》に一番近い所とも言われてるのさ。」
「立ち入ればカムイモシリに連れて行かれちゃうからね、だから、麓をぐるっと歩いて回るんだよ。」
近道だからってゼッタイに山に入っちゃダメだからね!
エンカリベは何度も念押しする様に話した。
それくらい危険な場所なのだろう。
カンナはシュマリを呼び戻し、軽く身支度を済ませた。
この海を渡るまでの少しの間だったが、ずっと一緒に旅をしてきた様な。
そんな思いもあってか、2人の身支度をどこか寂しそうにエンカリベは見守っていた。
そんな中で、シュマリはニッコリと笑みを浮かべて居る。
「エンカリベ!へばナっ!《またね!》」
シュマリは子供達から覚えたのだろう言葉を投げかけると、エンカリベは目を丸くして驚いた後には大きく笑った。
「カンナ、シュマリ、へばね!!《またね!!》」
大きく手を振って、離れていく互いの姿を見送った。




