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けものみち  作者: rival
アイヌモシリ
38/38

〜けものの小道《船出》〜



ザバン…ザブン……




荒波に負けじと船は進む。




「アンタ達!!大丈夫かい?」


船の揺れに慣れない二人を見て、エンカリベは声をかけた。




「…まぁ。もう少しの辛抱さ。」


涼しげな顔をして答えるエンカリベ。


シュマリは少しづつ揺れに対応しつつあり、時折、揺れに負けて転げる事すらも楽しんでいる様だ。



沖に出るにつれて波も和らいだのか、カンナも船の揺れに慣れてきた。



「アンタ、カンナって言ったっけ?面白い布を持ってるね。見せてくれない?」


エンカリベはカンナが身につけていた刺繍の入った布が気になった様で、カンナは腕から解いて渡した。



「この紋様……っ!」



懐かしい!と言わんばかりの声が聞こえた。

それはトヤ水源で出会ったイアンパナに刺繍してもらった物だった。


「スツやオタオル、フレピラは元気にしてたかい?」



どの名前も聞いたことがなかった。




「……トヤの村は天災に遭ってしまい、私が訪れた時にはサウランケとイアンパナの二人しか住んで居なかった」



「他の者は住みやすい場所を求めて出て行ったーーと、その二人から聞いた。」


天災の内容までをも話すか一瞬悩んだが、特に話を深く聞かれなかったこともあって言葉を濁した。


「そう……。」


カンナの表情を見て何かを察したエンカリベは、どこか寂しそうに刺繍を撫でていた。



ところが、パッと表情を変えて「私もコレに刺繍しても良いかい?」と聞いてきた。



カンナは小さく頷いて応えた。



何処からともなく刺繍の道具を取り出して早速取り掛かった。





「アンタ達は何処に向かってるんだい?」


「目的地は特に……自分を知っている人を探して歩いてるんです。」



「自分を知っている?」


不思議そうに首を傾げるエンカリベに、自分には近々の記憶しか無いことを伝えた。




「ーーーそれは大変な旅になるねぇ。でも、アンタ達は運が良いよ。何せモレが見つけてくれたんだ。この先に居る彼も力になってくれるはずだよ。」


「彼?」


「彼は先の刻を観ることが出来る人さ。誰がどう行動したら良いのか、その人にとっての最善の道を教えてくれるのさ」


名前を語らない人物に、まるで恋をしているかの様にキラキラした眼差しで話した。


先の刻…?


とは、一体何のことを指しているのか。




「カンナっ!ーーーラクコっ!!」


考える間もなく、船首の方でシュマリが大騒ぎしていた。

見れば、身を乗り出して今にも落ちそうになるくらい前のめりにはしゃいでいる。



カンナが近づくと、シュマリは更に興奮しながら指を向けて教えてくれた。



海には船に繋いだ綱を引いて駆ける様に泳ぐ数人の姿。


カンナは思わずギョッとした。




「誰だって驚くさね。彼らはアトゥイと共に生きる者達だからね。」

カンナ達の反応が面白かったのか、エンカリベは大笑いしながらそう言った。



海を泳ぐ人と目が合った。

すると、彼らは微笑みながら手を振ってこちらに合図をしたので反射的に振返した。



「私も最初は驚いたさ。」


「私らは海に浮かぶ事は出来ても、こうも海を駆ける事は出来ない。彼らは私らの様に、大地を駆ける事は出来ない」



「住む場所が違えば、色んな生き方が有ったっておかしくはないさ。」



空には船と共に進む鳥。

その鳥は海に浮かぶ事は出来ても早く泳ぐ事は出来ない。

海面には跳ねる魚。

その魚は空に向かって跳ねる事しか出来ない。



その姿がどこか自分らと重なって見えると、特に疑問を抱く事もなく、エンカリベの言葉がストンと入って来た。





「……ソーラ…!…ソーラ!!」



綱を引く掛け声なのか、水面から顔を出したタイミングで彼らは声を高らかに揚げている。




薄らと聞こえる声は波の音に交え、まるで唄のようでもあった。

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