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けものみち  作者: rival
アイヌモシリ
36/38

ーーーーーーーーーーー



『ふふっ。彼がアナタに自分の事を話すなんてね。アタシにも話さなかった事なのに』


モレは小さく笑いながら話した。


『藤原の血族と言うのは?』



『この先にある大陸は、アナタが通ってきた旅路よりももっともっと広大。

その大陸で最も崇拝されている帝を中心として、帝を支えるために働いているのが源氏、平氏、藤原氏、橘氏の四つの氏族の様よ。その氏族の下には更にたくさんの人々が使えているわ。』



『そして、大陸を切り分けて各地を統治しているわ。』



『このアタシたちの住む土地を除いてね。』


モレはそう付け足した。

モレは棒切れを使って図を描いて説明をしてくれたので、何となく意味を理解できた。



チャペはその大貴族の一人ってこと。』



『色々とおしゃべりしすぎたわね。』



モレは顎に指を置いて、うーんと小さく唸った後に、そうだわ!と一声あげた。



『面が出来るまで、コタンを見てらっしゃい』


ーーーーーーー

ーーーー


そうモレに言われたので、シュマリと二人で村を歩く事にした。



面を付けている人物ばかりに目が入ってしまったが、アイヌの服を着た人物の他にも、和人シャモの姿も数人見かけた。


ふと、クッタルシ海岸で会った安曇の事を思い出す。


『元気にしているだろうか…』


そんな事を考えていると「わいは、どってんした(これは、驚いた!)」と、声をかけられた。


「…わいは……?」

珍しい言葉だったため、何を話しているのか分からず、不思議そうな表情を浮かべながらその人物を見ると数人の老父がこちらを向いて、物珍しそうにシュマリをじーっと見つめている。



「これほどまでに、獣とのえにしが深い者を見た事がない。」


まるで、孫を可愛がるかの様な声で「ほぉー、めんこい、めんこい」と、言葉を続けシュマリの頭を撫で回した。



シュマリは慌てて獣耳を隠す様に頭巾を深々と被って、カンナの後ろに隠れて様子を伺う。

そんな姿を見て、老父たちはワッハッハと大きな声で笑った。



そんな賑やかな声を聞いて、その周辺の人たちもまた振り返り二人を見る。


その中で、慌てた様子でこちらに駆け寄る一人の人物が居た。



「おーい、旅の人!俺だよ俺ぇ!!」


大きな声を上げて


……。

誰だろう?と考えていたのも束の間、ふと一人の人物を思い出した。



「あ。椀をうっかり焼いた…!」


モルランで出会った人物だった。


何故、この場所にーーー?



「旅の人がショキナを伏せてくれたお陰で、海は穏やかになり、漁を再開する事が出来たんだが……あまりの穏やかさに漁の途中、船の上でうっかり寝てしまって。。」


先ほどまでの元気はどこへやら。

ばつが悪そうにしょんぼりとする男の声は小さくなる。

その真横で「だーーーっはっはっは!!」と大笑いする男たち。


そのうちの一人が、しょんぼりとする男の肩に腕をかけた。


「アンタ、流されてココまで来た上に、椀を焼いたって?なんと間抜けな話だが、まぁ何かの縁で来たんだ、すぐには帰れんべし、ゆっくりしてくべよー」



わっはっはっは!

賑やかな笑いと、楽しげな会話の中「なぁ、兄ちゃん。」と、一人の男が小さく声を掛けてきた。



「兄ちゃんは遠くから来たと見た。何処を通ってきた?」


「この海岸沿いからその先のシシリムカから。」


何故小声で話すのだろうと、多少の疑問はあったが、釣られて自身も小さな声で答えた。



「ふむ。シシリムカ?聞いたことは無いが、この先の辺境の地か。して、何か変わったことは無かったか?」


変わったこと……。

ざっくりとした質問に何と答えて良いのか悩みだながらも、旅路であった怪異の事を思い浮かべた。


「ショキナ【海の怪物】やアフンルパロ【黄泉洞】の事か…?」


「いやいや、そんなんじゃなく。儂みたいな」

儂。と和服姿である自分を指さした。


何だそのことか。と目を丸くしながらカンナは話をする。


「大きな船が一隻、クッタルシに来ていた」


「二隻じゃないのか?」


「いや、安曇の乗る船、一隻だったはずだ。」



「…チッ。あの安曇か。」

聞こえないくらい小さな声で悪態をつく。

カンナは男の表情が一瞬曇った事を諭した。


けれど、表情をコロッと変えてヘラっと笑った。



「いやぁね、兄ちゃんこの先に行くんだろ?儂も南下する予定なんだが、兄ちゃんに少し頼み事をしたくてな」



「また、どこかの村でまた会う事があったら、兄ちゃんの旅の話を聞かせてくれないか?」


何を頼まれるのかと身構えたが、何だ、そんなことかと肩の荷が降りた様に安堵した。



たった一瞬、シュマリの様子を確認するのに男から視線を外したのだが、男は音もなく姿を消していた。



周囲の人たちは男が消えた事も気にならないくらい、賑やかな声で話している。


まるでその男が初めから居なかったかの様に、周囲の人たちは男が消えたことを気にも止めていなかった。




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