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けものみち  作者: rival
アイヌモシリ
35/38



モレの身体を改めて見る。

大岩の様なその巨体。


そして、周囲に居る面を付けている人物たちの中にも。


モレの様に身体に特異な点の有る人物。


全身の体毛が長く、シュマリの様に獣感を感じる人物。



今まで巡って来たコタンでは見たことのない特徴を持つ人物ばかりだ。

自分と違うと言うだけで、何か違和感を覚えた。



『初めて見る事柄に関しては、人間誰しもが恐れを抱いてしまうだろうね。』


ふと、トヤ水源で出会ったサウランケの言葉を思い出した。


あぁ。

これが偏見と言うやつなのか。と。



そんなものふける様子を知ってか知らずか


「じゃ、チョット待っててちょーだい♪」

ウフっ♪と、モレは笑みを浮かべると、ルンルンと楽しげに巨体を弾ませながら駆け出して行った。






モレが向かった先には、半面を身につけた一人の人物が木彫りをしている。


その彫刻といったら見事な物だ。


「あら♪相変わらず美しいわね。コレは馬ね」


「相変わらず見る目が無いね〜。鹿シシだよ」


誰がどう見ても鹿の彫刻だ。


モレは、ハッとしながら口元を押さえた。



「で?なに?久しぶりに戻ったと思ったら。何か嫌なモノを連れて来たね」


相手は半面のため、表情は口元でしか読み取れないが、明らかに機嫌が悪い。


「んもぅ。怒らないの。」

寂しい思いをさせてごめんなさいねぇと、大声を上げながら抱きつき始めた。


それを無愛想にされるがままの半面の人物。


周囲もその様子を見慣れているのか、この二人の愉しげな様子を微笑ましく見ていた。




さて。

話を戻して。



「アナタも会ったら驚く様な人物よ♡」


「だって。アナタと同じ、絹の着物を着ているんだからーーー」




半面の人物は、微動だにしなかったがモレのその言葉に、目を丸くし驚いた。










「ぉ〜いたいた。君たちだねぇ〜新入りさんは。」


おっとりとした口調でカンナに声をかけてきたのは猫の半面を被った人だ。

目元は面で表情を読み取れないが、口元には面は無く、口角を上げて薄ら笑みを浮かべている。



「え…と……。」


「ボクはチャペ。君らの面を作ってくれって頼まれたんだ」


チャペは自分の面を指さしながら話をした。

面から見える目は、どこか冷たさを感じる。

シュマリはそれを察してか、遊んでいた棒を持ったままカンナの後ろから離れなかった。



「面を…?なぜ?」

シュマリの素顔を隠すにはちょうど良いかもしれないが…。



「…ふぅん。キミ、何処の地方から来たんだ?」


チャペは首を傾げながら、カンナの質問を無視して話を続けた。

口ぶりからして、どこか機嫌が悪そう…な気がする。


カンナは眉間に皺を寄せながら旅の始まりを思い返した。


「シシリムカ流域から」

「そ〜んなワケないでしょ。キミ、何処の貴族?」



「庶民なら刈安色かりやすいろの服を着るのが基本だ。そもそも、庶民は麻の服。貴族しか着れないその服は、誰でも着れる代物じゃない。それに、キミのその服ーーー」


「では、貴方も貴族なんですね。」



畳み掛けた言葉がピタリと止まった。

先ほどまでの勢いは何処へやら。少しの沈黙の後にゆっくりと口を開いた。



「あぁ。ボクは、都に住む藤原の血族。このコタンからすれば厄介者だ。だが、それ以外は言えない…。」


チャペは俯きながら、声を低くした。



「私はシシリムカから来た。その前の記憶が無い。何故、この服を着ているのかも分からない。この服が他と違うと言うことも、各地のコタンを回って知ったんだ。」


申し訳なさそうに話すカンナの言葉は、嘘を吐いている感じはしない。



チャペは何か言いたげだったが、ふうっと大きなため息を漏らした。





「何故、面を付けるのかと聞いたね。」


ちゃんとこちらの問いかけを聞いていたのかと少し驚いた。



「身体の特徴を隠せない者は、人から隠れて過ごさねばならない。ボクの様に、身体に特徴が無い者は人の真似をして生きることもできる。」


「でも、ボクらが人の真似をして過ごしても、いずれ気付かれる。」



「気づかれたら最後、生きながらにして地獄を味わうんだ。」


チャペは服を脱ぎ、自身の上半身を見せた。

露呈した華奢な身体には、みみず腫れになったしま柄の模様が痛々しく付けられている。



「この傷はね、鬼の血を入れ替えねば普通に戻れないだとか、鬼の血を使って儀式をするだとか。色々な理由を付け切り刻まれた。」



「だから、普通ヒトとは違う。と言う証として面を付けるんだ。」



「面を付けて居れば、向こうがボクたちを勝手に恐れてくれる。」



チャペは多くを語らないが、モレとは違う苦しみを持ってこの場所に居るんだ。


人と違って何が悪いのか。

普通とは一体…。



木の棒を持ったシュマリは、ててっと駆けてチャペの顔をじーっと見つめる。


チャペは不思議そうな様子でしゃがみ込み、シュマリと視線を合わせた。


「フッサ、フッサ」と、チャペの事を棒で叩き、時には強く息を吹きかけていた。

その息は冷んやりとして身震いするほどだ。



チャペは叩かれているにも関わらず、怒りもせずに受け入れている。

何とも不思議な光景だ。



「どーおー?話はでき……た?」


モレが勢いよく声を掛けたが、シュマリとチャペのやりとりを見て立ち止まった。

そして、微笑ましく眺める。



「ありがとう」


チャペは、小さく笑みを浮かべながらシュマリにお礼をした。

シュマリはニコっと笑い返して、満足そうにカンナの元へと戻った。




「ウウェポタラ。元気になる《おまじない》よ」


何が起きたのか解らないカンナにモレは答えた。

そして、チャペに声をかける。


「どーお?少しはスッキリしたかしらー?」


「そ〜だね。早速、面作りでも始めるよ。」


鋭かったチャペの目は、シュマリのおまじないによって優しくなった気がする。

言葉尻も柔らかだ。


「じゃぁ、後でね。小さなまじない師さん。」


チャペはシュマリの頭を優しく撫でて行った。

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