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けものみち  作者: rival
アイヌモシリ
33/38


シュマリは村の子供達と仲良く遊んでいる。

カンナと男の二人は囲炉裏を囲んで、そんな様子を微笑ましく見ていた。



そんな傍には、カンナを襲った熊の毛皮が干されている。



その毛皮を見ているカンナに気づき、男は話し始めた。



「本来、熊は臆病で人間の生活圏に入ってくることはほとんど無かったの。狩をする自然の中で稀に出くわすくらいは有ったけどね…。」


「この村の一人が運悪く、熊に出くわしたの。抵抗虚しく、熊に食われてしまった。人の味を覚えたこの熊は、匂いを辿って村のすぐ近くを彷徨き始める様になったの」



「一度、人間を襲うと人間は弱い存在だと学習してまた襲いに来る。私は村の為に、この熊を狩る事にした。」


蛸と言い、熊と言い、この村は散々よねー。男は笑いながら話した。



「熊が賢く、また執着心が強いことは知っている。こことは別の、遠く離れたコタンで似た様な熊に遭った」


思い出すのはシシリムカ流域での大熊だった。

あの熊の恐ろしさは今でも忘れられないでいた。



男はカンナの話を聞いて、小さく「そう…」大変だったのね。そう言いたげに小さく呟いた。



「そんなこんなで、出会ったのがアナタ達よ。」



カンナは、村での事情を聞いて納得しているのも束の間、続けられる男の言葉にハッとさせられる事になる。




「アナタ何故あの時、生きるのを諦めたの?」



“あの時”

熊に襲われ、自身の上にのしかかり、確実に獲物を仕留める様にと頭を狙われていた。



「あの子が助けなかったら、今頃この熊のお腹の中だったのよ?」


この男の言う通り、シュマリが居なければ助からなかった…。

でも、決して抵抗を諦めたわけでは無い。

出来なかった…のではないか?


何故、しなかったのか。


一人で自問自答する。

そんなカンナに向かって、男はさらに言葉を続けた。



「あの時のアナタの顔は、この世界に生きてるのに、居ないって感じ。」




「アナタにはあの子と同じく熊に対抗出来るチカラがあるでしょ?どうしてソレを使わなかったの?」


『…っ。』


突然の言葉に驚きを露わにした。

と言うのも、自身の能力の事は話していない。

ましてや、妖刀イペタムの事もだ。


…勘繰り過ぎだろうか。

そう言い聞かせて平静を保とうとした。


しかし、ふふっと笑みを浮かべているが、なんでも見通す様な彼の真っ直ぐな眼差しが恐ろしくも思えた。



「アナタが歩んできたこの道のりには、この広い大地、自然と人間との共存を学んできたと思うけれど。」


「この先は、獣や自然現象の脅威だけでなく、人と人との醜い争いと言う見たくないモノをたくさん見る事になるわ。」



男は無邪気に遊ぶシュマリを見つめながら話をした。

“見たくないモノ”という物を恐らくシュマリには見てほしくはないのだろう。



だが、シュマリとはこの先、どんなに辛い事があっても共に生きると約束をした。


カンナは渋い表情を浮かべながらそんな事を考えていた。



「アナタ達はココに残って、このアイヌモシリで平穏に過ごす事も出来る。」



「どうする?」



どうするかと、そう聞かれても、答えは一つしか無いのを知っていながら

生優しい選択肢を与えてくれる。


この男は策士だ。


カンナが深いため息を吐いていると、シュマリがててっと駆けてきた。



「ねーね、アタシー?」


「あらヤダ。“アタシ”って…アタシの事?」


服の裾を引かれながら声をかけられて驚く男に対して、シュマリはニコッと笑った。


何かを伝えたくている様だったが、話題が名前になってしまいシュマリも何かを言いそびれてしまった様だ。


「まだアタシの名前言ってなかったかしら。」


男は思い返すと、自分のことを色々話しながらも肝心の名前を言っていない事を思い出した。



「アタシの名前はモレよ。」



男とシュマリは楽しく話しているのを見て決心した。



「モレ。私とシュマリならどんな事が有っても大丈夫だ。」


シュマリはカンナの決心を感じ取ったのか、ギュッと頭巾コンチを両手で掴みながら、大きな目でカンナを見た後に男を見た。



「だから、連れてって欲しい。この先へーーー」

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