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けものみち  作者: rival
アイヌモシリ
3/38

まだ夜が明ける前

5人男たちは弓や槍、網を持ってけもの道を進む。


「聞いた話だと、中々姿を見せないそうじゃないか。熊の居場所に心当たりでもあるのか?」

ウタリテがアマッポロカに疑問を投げかけた。



「襲われたチセの住人のうち、頭だけをやられた人を熊は連れ去っている。今行く場所に埋めているのを俺と襲われたコタンの仲間で見つけた。あの時は2人だから何も出来ずに戻って来たが次こそはーーー」




クォォ…ウォォ……



小さく熊の鳴き声が聞こえると、男たちは弓と槍をサッと構える。

辺りは徐々に朝日の光が届き始めた。



「声が聞こえたと言うことは近いな。 少し急ぎで向かうぞ」



足音を立てない様、風の音に紛れて小走りで向かう。




途中、ふと鼻につく血生臭い匂いに気づいて思わず鼻を袖で覆った。



「いた…!」



ウタリテが見つけて立ち止まる。

熊は音に気づいたのか仁王立ちしてこちらを見ていたが、すぐに地面を掘り起こし始めた。


地面から出てきたのは骨が剥き出しになった人の足だった。


「…っ!」

仲間の1人が思わず弓を目一杯引いた。


「待て!早まるな…!」

アマッポロカが静止するが、止めることが出来ずに矢が放たれた。


矢は真っ直ぐに向かうが、熊の目の前の木に突き刺さる。



ビックリした熊は手を止めて、唸りを上げてこちらを見ては前足をバタバタと動かして威嚇してきた。



「マズイ。失敗だ。一旦仕掛けた罠の所まで引こう!」

アマッポロカがみんなを引かせようとするが、弓を引いた男はガチガチと震え固まってしまって動けなくなっていた。



そうこうしているうちに、熊が走って向かって来た。



咄嗟に体が動いたのはカンナだった。



「カンナ!無理だ!」

ウタリテが叫ぶ。

その声が届いていない様で、仲間を庇う様にカンナは熊に立ち向かった。


熊は目の前まで来て立ち止まるが、立ち上がって強さを誇示する。

立ち上がった熊は十尺(約3メートル)はあるだろうその巨体に驚いた。


熊は右前脚を大きく振りかぶる。


アマッポロカは熊の動きを見て急ぎ弓を引き、右前脚の腋の下に矢を当てた。


矢毒はすぐに効かず、脚はそのまま振り下ろされるが、熊の体格が大きかったのが幸いし、カンナはそのまま懐中へと入り込む事が出来た。




カンナは腰に携えた蝦夷拵えの刀を抜き、熊目掛けて一突きする。

熊の分厚い毛皮にもかかわらず、髪の毛に櫛を通す様に軽い刺さり心地だった。




胸部に刺したが心臓には届いていない様子。


熊は懐中に居るカンナに噛み付こうともがいていた。




熱雷ネツライ




カンナは刀をギュッと握りしめて、一言つぶやく様に言葉を放った。



轟音と共に瞬い光が辺りに広がった。





ウタリテ達は突然の光に目が眩んだ。



閃光と轟音は一瞬で止み、目の前には黒い塊がぼんやりと見えた。




まだ目が眩んでいる様で、何度も瞬きをしたり目を擦った。




ようやく視力が戻り、見えたモノ。

塊に見えたのは熊だった。



「カ…カンナ…?」

ウタリテが辺りを探す様に声をかけた。

ゆっくりと熊に近づくと、ピクリっと動きが有り思わず身構えた。


よくよく見ると

熊の背に刺さっていた矢は焼け焦げていた。

熊の顔をそーっと覗き込むと、口をあんぐりと開けて絶命している。


「…テ…。ウタ…テ」


「カンナっ!熊の下にカンナが!」

ウタリテが声を上げると仲間が駆け寄って来た。

押しつぶされて苦しそうな声を出していたカンナだったが、熊を除けると無傷の状態で出て来た。



「カンナ…お前、本当に…」

驚いた様子のアマッポロカが熊を見ると、仰向けになった熊の胸にはカンナが突き刺した刀がピリピリと電気を帯びて残されていた。



「あぁ。そうかもしれないな。」

ウタリテが安渡した様子で、アマッポロカに寄りかかった。





「アマッポロカ、みんな…すまない…。俺のせいで皆んなを危険な目に合わせて」

泣きそうな声を出して謝るのは、先に矢を放った人物だった。


アマッポロカは、そんな人物の頭に手を置いた。


「危険だったが、皆んな無事なんだ。なによりじゃないか。それに許せなかったんだろ?」

「身内を殺されて平常で居られるはずがない」



話を聞くと、殺された兄夫婦の弟だそうだ。


兄の無惨な遺体を目にして、尚、泣きじゃくった。

その遺体を丁寧に回収した。



真逆に扱われたのは熊の方だった。



「…?この熊は昨日みたいに儀礼は行わないのか?」

野晒しにされている熊の亡骸からは虚しさが感じられた。


カンナの何気ない言葉を聞いて、泣いていた人物が槍を取り出して熊に投げつけた。



「もともと熊は、山の神【キムンカムイ】と言って俺たちに恵みをもたらす存在だ。だから丁重な儀礼を行って、またこの地上に戻って来てくれる様に神の国に送り返すんだ。だが、この熊は人を襲って食べた悪い神【ウェンカムイ】だから、神の国へは送らない。だから何もしない」


ウタリテは冷ややかな視線を熊に向けて話した。



「仮に、襲われた人物の行いか悪いと熊が人に審判を下す場合もある。その場合の熊は生かしておく事もあるが…今回は、もう一方のコタンとも話し合ったが、それに当てはまらなかった。」

アマッポロカがウタリテに続いて話を続けた。





怒りや憎しみもそこに置いて



男たちはコタンへと戻る事にした。

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