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けものみち  作者: rival
アイヌモシリ
29/38

〜アプタペツ流域〜

『小高い丘へ丘へと進めばやがて海が見える。海辺のコタンは近くだとモルラン。少し遠くなるが、シャマンべ流域のあたりになるだろうね』


『取り敢えず、少しづつシャマンベの方へ行っててみます。』


『あ、待ってカンナ。』

『……?』


小さく会釈をし、シュマリを連れてチセを出ようとすると、イアンパナに呼び止められた。



『この子は色々な事に興味を持ち、覚え、たくさんの事を学んでいくわ。

だから良い事や悪い事もたくさん教えてあげて。』


『悪い事も?』


『そう。何故、悪いのかを教えてあげるの。他にも、愉しい事、嬉しい事、悲しい事、辛い事も。色々な経験をさせてあげてね。

それがこの子の人生の糧になるからーーーー。』



そう話すと、刺繍が施された頭巾コンチをシュマリに被せた。

質素だった生地だったが、白地に鮮やかな紋様が彩られ、とても可愛らしい見た目になった。



そして、カンナの持っていた布もまた、シシリムカの紋様、シコッペッの紋様に加えてイアンパナが鮮やかな色の刺繍を施してくれた。


息を飲む程に美しいその布をまた腕に巻いてくれた。





「〜〜♪」

上機嫌で歩くシュマリは、イアンパナから貰った頭巾コンチを身につけ、時折、頭巾がズレていないか確認しながら楽しそうに歩いていた。


「とれぷ!と レ プーー!」


シュマリは大きな百合トゥレプを指差して教えてくれた。その百合の方へと駆け寄ると、百合の周りに咲く小さな花々に止まっていた蝶たちがヒラヒラと飛ぶ。


物珍しそうに、また、目をキラキラさせながら蝶と戯れはじめた。


はたはた…と、空を飛んでいってしまった蝶を見送ると、次に目に入った物があった様だ。



「コレはー?」

鹿ユク


「はぁっ♪ゆくーーー!!」


ニコニコの笑顔で走り寄ると、鹿は跳ぶようにして逃げていった。

追いつかなかったシュマリは獣耳を垂らしてしょんぼりとしている。


「また会えるさ。」そう頭をポンっと撫でた。



むうっと膨れっ面を浮かべていたかと思えば、また直ぐに次の興味へと移った様だ。


「コレはー?」


「ん?コレ…は……」


それを目にした瞬間、思わずシュマリの口を塞いだ。


視線の先には、黒い獣がモゾモゾと動いている。


キムンカムイだ…」


向こうはこちらに気づいて居ない様子。


何とかこの場をやり過ごせれば…と、じっと身を固めたのだが、シュマリは訳も分からず突然動きを封じられてしまったので、モガモガと苦しそうに動いた。



シシリムカで見た熊よりだいぶ小ぶりではあるが熊は熊。


山菜探しに夢中になっている様で、鼻息を荒くしながら地面の匂いを嗅いでいる。



「んゅっ!」


カンナの手から脱したシュマリが声を上げた。

熊はその声に反応して顔を上げる。



無闇に動くと、熊は逆上しかねない。


しかし、シュマリはお構いなしに興味が勝る。


「〜〜??」

ピョンピョンっと跳ねて、謎のアピールをしていた。

慌ててシュマリを取り押さえるが、熊はグオオォっ!と低い雄叫びを上げながら向かって来た。



真っ直ぐに走って来た熊に対して、シュマリを抱き抱えながら横へと飛び避けたが、勢いで別々に地面へと転がった。


倒れ込んだカンナに、熊は容赦なく前脚でのしかかり、カンナに喰らいつこうと首元に鼻を当てた。



「あ"っ…く…っ!」

カンナの苦しそうな呻き声を聞いたシュマリは、飛び上がった勢いで頭巾コンチが外れた。

頭巾コンチの中に隠されていた獣耳を立てて威嚇する。


四つん這いになり、怒りの表情を浮かべて熊を睨み見たかと思うと「クォォォ!!」っと声を上げた。



すると、周囲の空気はパキパキと音を鳴らして凍てつき始める。



吐く息は白く

吸う空気は冷たく肺に入ると痛みを伴う。



呼吸を荒くしていた熊には効果てきめんだった。


熊は突然の違和感に何度も首を振り、立ち上がっては鼻先を手で何度も擦った。



熊がカンナから離れた隙を見て、シュマリは駆け寄った。

そして、苦しそうに呼吸するカンナの頭をぎゅっと抱きしめる。




熊は、ある程度カンナたちから離れると、空気が温かくなる場所がある事を察知した。

体勢を整え、二、三度身体を震わした後に二人を見る。

近づくには、再び息も凍る様な寒い領域に入らなければならないため、寒さと温かさの中間辺りを探りながら、ゆっくりと彷徨き始める。



シュマリと熊の睨み合いは続いた。




「どぉぉぉーーー!!せぃっ!!!」




突然現れた男が、大きな雄叫びを上げながら熊の側面に体当たりをした。

熊は軽々と吹っ飛ばされてしまった。

熊は吹き飛んだ勢いのまま地面の岩に頭を打ちつけ、その場に倒れ込んだ。


脳震盪でも起こしているのか、口をあんぐりと開けて物凄い量の涎を垂らして動かない。



その人物は留めを刺すため、持っていた槍で一突きする。



「んふ♪アナタ達、無事で何よりね。」


助けてくれたのは、熊と見間違うほどの大きな体型をした人物だった。

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