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けものみち  作者: rival
アイヌモシリ
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囲炉裏を囲いながら事の経緯を話した。



「私が中島へ行きたかった理由は、今は亡き人から託けを頼まれたんだーーー」



話して良いのか少し悩んだが、シュマリの事を相談したかったので隠さずに話す事にした。


ナラの生き様と、想い人の白の君。


彼らが何故、離れなければならなくなったのか。


そして何故、死ななければならなくなったのか。


「“娘を探して欲しい…”そう言われて、トヤに来た。」



サウランケは死人が託けを頼むことが出来るとも思えず、俄かには信じがたい内容に、うーん…と小さく声を上げて考えていた。

一方、イアンパナは優しい眼差しで親身に話を聞いてくれている。



「中島に着いて出会ったのは、白い獣と、このシュマリだった。

白い獣は人の姿に変わり、シュマリを守る様にしていた。

ナラの想いを伝えると、その人は消え、周囲の雪も溶けていった。」





後ろに隠れているシュマリの頭を撫でてやると、心地良さそうに笑みを浮かべる。



「もしかすると、この子の母になる獣は何らかのカムイだったのかもしれないわね。人の姿に化けるカムイも居ると伝承にはあるけれど」


「まさか本当にあるなんて……。」


目の前にいる獣耳の付いたシュマリの姿を再度見ては、疑う余地もなかった。



「ほら、ヘビの神やハチの神は女に化けるのよ?」なんて、二人は顔を見合わせながら話していた。



「それにしても、その子には変わった特徴があるね。」

サウランケは改めてシュマリを見ては、顎に手を当て興味深そうにしていた。

手を伸ばして獣耳に触れようとすると、シュマリは敏感に察知してカンナの後ろに素早く隠れ、じと…っとした目で様子を伺った。


「もぅ。怖がらせないの。」と、イアンパナは優しく注意した。



「やはり、他人ひとが見るとこの子は変わって…ますか?」


「うーん…。確かに、初めて見る事柄に関しては、人間誰しもが恐れや驚きを抱いてしまうだろうけれど。」


「……。」



何を言われるか予想はして居たが、改めて言われてしまうと返す言葉が見つからなかった。



「まぁ、その…なんだろう。偏見。偏った考えを持ってる者には恐怖でしかないかもしれない。見た目にばかり捉われず、内面を知れば何ら恐る事も無いんだけれど。私達の様な考えの人が他のコタンにも居ると良いが……。」



「そうよ。もし、耳だけを隠したいのなら良い物があるわ。」

イアンパナは棚から何かを持って来た。

アイヌ紋様の入った薄手の布。


頭巾コンチよ。これなら顔を出しながら耳を隠せるでしょ?」


イアンパナは頭巾を自ら被って見せてくれた後に、まじまじと布地を見ては少し物足りなさそうな表情を浮かべる。


「貴方のその腕に付けている見事な刺繍布も少し貸して頂けるかしら?」


カンナは言われるがままに、布を解いてイアンパナへと渡した。


「見事ね…。」

「コレは、ここより大分遠い、シシリムカの紋様だね。」


そんな事を二人で話していた。


大人たちの話しが退屈だったのか、シュマリがソワソワしている事にイアンパナは気がついた。


「少し、この子とお話しても良いかしら?」

「……。」


カンナの事をじっと見て服の裾を掴んで離さなかったシュマリだが、イアンパナの呼びかけにゆっくりと向かっていった。


「お願いします。」


くっついて離れなかったシュマリが居なくなると、少し寂しい様な…。そんな気持ちが何処かにあった。



「カンナはこの先、何処へ行くんだい?」


「私は宛てもなく色々なコタンを回っているんです」


サウランケは少し不思議そうな顔をした。


「私が何処で生まれて、何処で育ったのか。それを知る旅。誰か、私の事を知っている人がいるのではないかと思って。」


カンナの話を聞いて野暮な事を聞いてしまったと、申し訳なさそうに沈黙していたが、重い口をゆっくり開いた。



「……もし、その旅路にあの子がいない方が良いのなら、私とイアンパナで面倒をみようか?」



チセの奥の方からは、シュマリとイアンパナの楽しげな声が聞こえる。



思い返せば、危険が付きまとう旅路だ。


任せた方が良いのかもしれない…

《小さな世界から連れ出してくれませんかーー…?》



…とも考えたが、瞬間的に、彼女の言葉を思い出した。


「危険が伴うのは百も承知だ。シュマリには広い大地を見せると約束した。」


「(お気遣い)イヤイライケレ【ありがとう】」と、お礼を言った。



それを聞いたサウランケは微笑みながら小さく頷き、遠くを見つめた。

カンナも合わせて同じ方を向くと、そこには

イアンパナがシュマリに言葉を教えてくれている姿があった。



「こ れ は?」

「〜〜♪」


シュマリの耳を指差しして尋ねると、シュマリは何やら答えている。

ふふっと笑みを浮かべて、次は質問する側と答える側を入れ替えながら楽しんでいた。


「コれは?」

「コレは、ニマ【木製の器】」


そう言うと、食べる真似事までして丁寧に教えてくれている。

「に…にマ?」器を手に取りながら、言葉を覚えようとしていた。


それに飽きたかと思うと、また違う物に興味を持ち質問をする。


「こレは?」

「私は イ ア ン パ ナ」


イアンパナに向かって「コレ」と質問したのは良かったが、どうやら衣服を指していた様だった。

イアンパナの着ていた服や干してある服に向かって「いあンパな」と、楽しそうに話している。



「あぁっ。。そっちだったのね。これは衣服アミプ

これは失敗した…。と、慌てて言葉を訂正した。

そんな様子を、カンナとサウランケは楽しく笑いながら眺めていた。



「私たちにも子供が居たら、こんな感じだったのかもしれないな……」



サウランケは微笑みを向けながら、カンナに聞こえないくらいの小さな声で呟いた。


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