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周囲の氷が溶けた事で、この島から脱出する術を失ってしまった。
「どうしたら良いのやら……。」
いつだかも同じ様に路頭に迷った事が有った。
その時は、道なき道を歩いて何とかなったのだが、今回ばかりはそうもいかない。
何故なら、周囲は湖で囲まれているから。
うーん…。と、頭を抱えて悩ませていると、シュマリに服の裾をちょいちょいっと引っ張られた。
「……ん?」
返事をすると、口をパクパクしながら何処かへと引っ張って行こうとする。
そこで、そのまま着いていく事にした。
足元は雪解けによって泥濘み、雪や氷の時と違う歩きにくさがあった。
一方シュマリは慣れているのか、平気な顔をしてあるいている。
歩みを進めていくと、小さな祠の様な物があった。
シュマリはピタリと動きを止めて、ジッと一点を見つめている。
「祠を見せたかったのか。」
小さくとも立派な祠だと感心していたのだが、シュマリが祠の近くに有る一本の木の方へと走っていった。
「どうした…んだ……?」
カンナは、木に近づくとある違和感に気がついた。
木と同化して分かりにくかったが、木の幹に立てかける様にしてあるのは丸木船だった。
「コレなら…!」
大人一人が乗れる程度の大きさだが、自身の軽さとシュマリの小ささなら何とか乗れない事もないだろう。
ザバっと音を立てて、湖に浮かんだ船を見ながらそう思った。
シュマリは獣耳をピコピコと動かして喜んでいる様だ。
櫂は、落ちていた太く、長めの木の枝でどうにかする事にし船に乗り込んだ。
やはり、二人で乗るには少し狭いが、沈む様子はない。
船はゆっくりと動き出した。
「〜〜♪」
シュマリは楽しそうに湖を覗き込んでいたので見てみると、透き通った水の中に魚が泳いでいるのが見える。
時折、湖に手を触れて水の感触も楽しんでいた。
「シュマリ。私はカンナだ」
「アタシ?」
「違う。わたしは自分の事を指す時に使う言葉だ。名前はカンナ。」
「……?」
シュマリはどの言葉も意味が分からない様で、首を傾げていた。
自分の事をどう説明したら良いのか…カンナもまた悩んでいた。
「シュマリ。カンナ。」
余計な説明を省いて単語だけ話し、自分とシュマリを指差しながら説明した。
すると、獣耳をピンと立て、表情は、ぱぁっと明るくなった。
「シュまり、かンナ!」
言葉の高低が若干変だが、理解してくれた様で、何度も指をさして口にしては喜んでいた。
そのやり取りは、笑みが溢れてしまうほど穏やかな時間だった。
そして、対岸に着き、船から降りた時に気づいた。
サウランケとイアンパナへは、この子の事をどう説明すべきか……。
第一印象で特に目立つのが、この獣耳。
隠した方が良いのか
隠さない方が良いのか…
そんな事で頭を悩ませていたのだが、自身も変わった風貌にも関わらず、彼らは何も聞かず“普通に接してくれていたこと”を思い出した。
「シュマリについては私も分からない事が多い。だから、隠さずに行こう」
大きな独り言を吐いた。
シュマリは不思議そうな表情を浮かべながらその様子を見ていた。
チセへと向かう道も雪が溶け、遅れて出てきた山菜が顔を出している。
その、一つ一つを物珍しそうにシュマリは見ていた。
「サウランケ!イアンパナ!」
「おぉ!君か。聞いてくれ、急に辺りの雪が溶け始めたんだ」
二人の姿が見えて、声をかけた。
急な温暖な気温と、雪解けに驚いた様子で辺りを見ていた様だ。
「おや?その子は……?」
驚いたシュマリは、カンナの後ろに隠れたが、頭隠して耳隠さず、その姿は丸分かりだった。
「色々と驚くことも多いけれど、まずはチセで休みましょう?」
色々と聞きたい気持ちを抑えながら、イアンパナは皆をチセへと案内する。
シュマリは少しばかりチセに入るのを嫌がったが、イアンパナの優しい接し方に獣耳を垂らして、仕方ない。と、言った様子で付いて来てくれた。
火を焚べた囲炉裏を囲んで各々が一息ついた。
シュマリは初めて見る火を怖がりながらも、興味深々で見つめていた。




