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けものみち  作者: rival
アイヌモシリ
25/38

〜トヤ水源〜

同じ景色の続く山道を進む。


『本当にこの先に行く宛はあるのだろうか…』


いつも道に迷ってばかりだ。





気づけば、徐々に徐々に気温が下がってきていた。

木々は枯れ、葉が落ち、空からはヒラヒラと真っ白な羽毛の様な雪が降る。


雪道になっても薄らと、けもの道が見えるのが救いだ。

足を取られながら山を登った。




山頂に着き、見えた景色はーーー



白く染まる大地の中

青く澄んだ空と同じ色をした湖と、その中心には小山が浮かんでいる。



「アレが……トヤか。」



この景色は美しいが、どこか違和感を感じた。

そう思うのも束の間、風がブワッと通り抜けると寒さが身に染みる。


ここで立ち止まってはダメだ。と、寒さで小さく身を震わせながら、歩みを進めた。





山頂から、ゆっくりとした下りの山道を歩いた。

時折、雪に足を取られ、とても歩きづらい道だった。



ふと、さっきまでポカポカだった足の先の感覚がない事に気づく。


雪を踏みしめるも、踏ん張りが効かずフラフラする様になってきた。





次第に力が抜けて、ドサっと雪の中に倒れ込んだ。




寒い。そして、眠い。

ガチガチとした震えも、ピタリと止んでしまった。

助けて欲しいけれど、声も出ない。




「…オイ!大じょーーーー……」



幸運にも、薄ら人影が見え声が聞こえたが


次第に意識が遠のいていくーーーーー





ハッと気づいて横を見ると、真横には囲炉裏があった。

火はパチパチと音を立て、心地よい暖かさを与えてくれていた。


足元が温い。


起きあがろうとすると、誰かが足に湯で温めた布を置いてくれている姿が見えた。



「まだ起きない方が良いですよ」

その人もカンナが目が覚めた事に気がついた様だ。


「サウランケ。」

「……ん?おぉ、気がついたかい。」


女の人が声をかける先に、何やら作業をしていた男の人がこちらを振り返り見た。


カンナもまた、壮年の男の人と女の人を交互に見た。

二人は夫婦なのだろうか…。


そんな事を考えていると、二人は少し心配そうにカンナを見た。



「こんな薄着で雪の中を歩くなんて…」

「チェプケリ【鮭皮の靴】で何処へ行こうとしてたんだい?」


男の人は心配の言葉を遮って、カンナの履いていた靴を持ちながら問いかけてきた。



「え……と、トヤのナカノシマにーーー」



「ナカノシマ…?トーノシケモシリの事か」

「そんな格好でこの辺りを歩くなんて、死にに行く様なモノよ?」


呆れてため息を吐いては、優しくカンナの事を叱った。

カンナは返す言葉も無く、しゅん…として、ただ黙って項垂れた。



「ウスヌプリを越えてきたなら、分かると思うが、今の季節は夏。だが、ここはもうずっと雪と氷に閉ざされてしまっているんだ。他の季節は来ず、同じ冬をもう何度過ごしたことか…。」


山頂で感じた違和感はそれだったのか。と、心の中で納得した。


「同じ冬を何度もーーー…?」



「そう。あの時からずっと……」



《いつもと変わらぬ春の季節。》



《その日、私は仲間と共に山菜を取りに来ていたーーー》



『今日も充分取れたな』


籠いっぱいになった春の山菜を眺めていると、ひんやりとした風が通った。


その寒さは、寒の戻りかとも思う程だ。



吹き抜ける風の風上を見ると

真っ白な狼にも似た獣が山道を駆け、湖へと向かった。




その獣が湖に足を入れると、たちまち水面はこおり、道になり…そのままトーノシケモシリへと姿を消した。



冷たい風は止まず


湖のこおりは広がり


大地へ、木々へ、そして空へと凍れをもたらした。



氷った大地では植物はおろか、獣も姿を見せず、コタンの皆は住みやすい場所を求めて行ってしまった。



「残ったのは私たち夫婦二人だけなんだ。」

「私たちは、遠いけれど山を越えて食材を集めてはここに戻って過ごしているの。いつか、この氷が溶ける事を信じて……」



二人は囲炉裏の炎をじっと見つめた。


サウランケと呼ばれた人物の話を聞く限り

獣がこの雪を降らしている…動物にそんな事が出来るのか……?

かと言って、この話が嘘にも聞こえない。



「だから、あそこに行くのは諦めた方が良い。」


男の人はそう語りかけたが、カンナは首から下げていた小さな袋をギュッと握った。

その中には、“ナラ”から託された勾玉が入っている。

その想いを感じると諦めるなんて事はできなかった。


「それでも私は何とかしてあの島に行きたい」


カンナの決心した表情を見て、これ以上止めても無駄だと感じた。

二人は顔を見合わせて、小さく話した後に立ち上がって何かを探し始めた。



「分かった。でもそのままの姿では外に出す事は出来ない。このユクケリ【鹿皮の靴】を使いなさい。」


毛皮で作られた防寒具を手渡してくれた。

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