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親分の視界には、小綺麗な格好の小男が身構え、それに対峙して狼狽える仲間と手首が綺麗に切り落とされ喚き叫ぶ男と地面に落ちた手が映る。
事態を知るや否や包丁刀をカンナに向けた。
「貴様!何をした!!」
大きく包丁刀を振りかぶると、再び、鳥の様な影がスッと通り過ぎた。
それは刀の刃の真ん中を通った様だ。
親分は身構えていたが、上げた腕が急に軽くなった事に違和感を覚える。
カラン…と、刃の半分が切り落とされ足元に転がった。
「この太刀筋…まさか、トコタン【廃村】にしてやった時に生き残りが話してた妖刀か…?」
「まさか。そんな法螺話あるわけねぇだろ」
「ヤツの手には刀はねぇんだぜ?」
仲間の一人が斬られた刃を見て、とある事を思い出して話をするが、それは違うと言わんばかりに親分の後ろでコソコソと仲間達が押し問答していた。
カンナは男たちがザワザワしている隙をついて、縛られていた男性を支えて逃げ出すが、すぐに気づかれてしまう。
「捕まえろ!」
親分は鬼の様な形相で怒鳴った。
動ける仲間は急いでカンナの後を追った。
自分一人だと逃げ切れたかもしれないが、男性を置いて行くわけにもいかず…すぐに追いつかれてしまう。
服の裾を捉えられ、そこから腕を掴まれてしまう。
「つーかまーえたぁ。」
「服装が女物だったら、女と見分けがつかねぇくらいイイ顔してんじゃねぇか」
男たちは舌舐めずりをして、ニタニタと気持ち悪い笑みを浮かべながらカンナの顔を見た。
振り払おうとするが、腕を掴んで離そうとはしない。
「大船に乗ってた時以来だな。男でも良いって思うのは。」
カンナの細腕を握りしめながら、ため息を吐きながら恍惚な表情を浮かべた。
「ククッ。海の向こうでは男色も好まれてるらしいぜ。」
ぉー怖っ。と、呟きながら、もう一人の男はカンナの頬に手を当て耳元でそう囁いた。
「私に触れるな…っ!」
キッと睨みつけて、頬にある手を握りしめた。
静かに強い言葉を述べると、カンナに触れた二人の男達は小刻みに震え出した。
衣服はプツプツと針で刺された様に穴が空き、口からは泡を吹き白目を向いた。
ドサッと二人は地面に倒れ込む。
カンナは荒々しい呼吸を整えて、二人に息がある事を確認した。
…虫の息だったが辛うじて生きている様だ。
カンナ自身が意図しない状況に、震える手のひらを見つめながら困惑していた。
そんな中
荒々しい足音と、怒鳴り声を上げながら迫ってきた。
「お前ら!何寝腐ってんだ!!たかが小僧一人に、大の大人三人も負かされたなんて許さねぇぞ!」
後から追いついた親分は、カンナを捕えていたはずの二人に怒号を浴びせた。
寝転がり、動く素振りを見せぬ仲間に更に苛立ちを覚える。
その様子を見て、カンナは逃げるのをやめた。
「貴方達は…何故、人から奪う?」
息を切らせながら親分に問いただした。
「俺たちが奪う理由ーーー?」
はぁ?と、一瞬、腑抜けた表情を浮かべて周囲の仲間に視線を送った。
そして仲間たち皆んなでガハハハッ!と、大笑いした。
「んなモン、決まってんじゃねぇか。奪われる前に奪う為だよ。」
そう話すと、男たちはカンナに向かって一斉に襲いかかってきた。




