〜けものの小道《迷子》〜
さて。
どうしたら良いのやら…。
カンナは、何も無い草原に一人で佇んでは周囲を見渡して熟考していた。
と、言うのも。
《ん。まずは、この道を行くといい。途中、海岸から少し離れた山側への分かれ道を進むとコタンに着く》
ウタリテは地面に手を当て、遠くを見ながら話した。
いつも思うのは、この、幾重にも枝分かれしたけもの道を何故迷う事なく進む事が出来るのか。
それは本人に聞いても“何かを感じる道”だと言うこと。
…聞いたら益々よく分からなかった。
ーーーと言うのを思い出した。
ウタリテの言う通りに進んだハズなのだが、小高い山にある何も無い広い草原に出るとは聞いていない。
この先には続くけもの道も見当たらない。
どうしたら良いのかと、途方に暮れていたところだ。
ただ、悪いことばかりではない。
海はこの日もキラキラと宝石の様に輝いて、真っ新な草原は風が吹き抜けるとそよそよと葉を揺らし、風の通り跡を作っている。
周囲の景色はとても綺麗だった。
取り敢えずは、左手側に海があるので方角は間違ってはいない……と思う。
空を見上げると鷹がしばらく弧を描いて悠々と飛んでいたが、スーッと真っ直ぐに進んだので空を見上げたまま同じ方向を進む事にした。
ガサガサっ
風の音とは違った音が聞こえた。
立ち止まって音のする方をよくよく見ると、草原の中にひょっこりと耳が見える。
次第に、愛らしい顔が出てきた。
「ユク【鹿】か。」
警戒する様にジッとこちらを見つめて動かずに居る。
群れを成さずに一匹で居る姿を見ては
私も迷子なんだ。と、笑いかけながら小さく呟いた。
鹿は逃げるそぶりを見せなかったので、近づいて頬を撫でる。
しばらく気持ちよさそうに撫でられていたが、外方を向いて歩き出した。
カンナは名残惜しそうに立ち去る鹿を見ていたが、鹿は振り向いて、まるでついて来いと言わんばかりに小さくキュッと鳴いた。
背後に並ばない様に隣を付いて歩く。
…また蹴られてはたまったものでは無いからだ。
隣に並ぶと、何故か鹿とウタリテの雰囲気が似ている気がするのは、人が恋しいからだろうか。
鹿の顔を見るとウタリテの面影と重なり、思わず口元に笑みが溢れた。




