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『このフンペサパ【鯨の形をした岩】は一体ーーー…!』
あれから…
浜で焚き火をしていた人達は一旦コタン【村】に帰り、丸木船の片付けをする為に仲間を連れてきた。
突如として現れた岩山に驚きを隠せないでいたが、経緯を聞いて更に驚いていた。
『其方があのショキナを岩に…!?』
疑う気持ちもあったが、目の前にある岩山が何よりの証拠。
『…あの、もし良かったらーーー』
呆気に取られていたが、カンナとウタリテがずぶ濡れになっているのを見て、コタンの人が好意で空いているチセ【家】を貸してくれる事になった。
そこで、ウタリテと今後の話をした。
「ーーそっか。」
自身の言葉を聞いて、ウタリテは満遍の笑みを浮かべて、こちらを見ては一言だけ言葉を放った。
そして、暖を取る為の火を無言で起こしている。
その反応を見て、本当にそれで良かったのかと不安に駆られた。
火がパチパチと音を立てて囲炉裏の中で燃えはじめた。
「俺さ。カンナに会う前まで、妻が死んだ事もあって虚空な日々を過ごしてた時期があったんだ。」
火を見つめながらウタリテは静かに、独り言の様に話しだす。
それを、ただ黙って聞いていた。
何をやるにも怠くて、面倒で、ひたすらに眠たくて。
子供達はそんな俺に愛想を尽かして、あっという間にフチと手伝いに来てくれていたアシカエッテに懐いたんだ。
自分を変えたかったのも心の何処かにあった。
そんな時に出会ったのがカンナだ。
カンナに会ってから、色んな事が有ったよな。
大熊や蛇、岩穴にフンペ…
小さな出来事を含めて諸々と。
正直、そのカンナカムイの力が有れば何だって出来ると思うんだ。
「あー。例えば、神の力で今ある大地を破壊し、暗黒大地を作りあげよう」
……そんな感じ?と、小芝居しながら照れくさそうに笑いながら話した。
だけども。カンナは仲間の為にその力を使ってた。
俺じゃ絶対無理と思っても、カンナは身を挺して解決しちまうんだ。
本当、すげぇと思ってる。
「だから。俺も名前に負けない様に、この先も仲間の為に尽くす事にするよ。」
ウタリテがこんな遠い旅路にも着いて来てくれたのは自分を仲間と思ってくれていたからなんだ。
だから、こんなにも優しく接してくれたんだ。
「カンナ、帰って来たくなったらいつでも来ていいからな。そして、自分の事が分かったら、いつでも遊びに来て話を聞かせてくれな!」
ウタリテは笑顔を浮かべながら泣いていた。
「ウタリテ…イヤイライケレ【ありがとう】」
カンナも小さく涙ぐんだ。
ウタリテは火を焚べて、火の神へお祈りを始めた。
それは、カンナが旅するこれからの道への祈りだった。
《カムイフチ チランケピト》
神なる媼 降臨されし御方
《アイヌ ミッポ オマナン》
人の子の旅を
《イシッカシマ ワ イコロパレ ヤン》
油断なく見守ってください
《アオンカミ ナー》
私は礼拝します。
二人の旅路はここで終わりになります。
カンナのお話はこの後も続きますが、ウタリテ側のお話を短編で書いていきたいという欲張りが出て来ています(^^;;
ゆっくりですが、更新がんばります٩( 'ω' )و




