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「カンナ!これがね、キトピロ!」
ルテルケが山菜を持って見せてくれた。
目が覚めてから数日経った。
ウタリテから、たくさんの事を教わった。
同じコタンの仲間や、この流域には他にも複数のコタンがある事。
自然との共存のため、狩りや採取については山菜や魚、小動物や鹿などは無闇に獲りすぎないようにすること。
取れた物は余す事無く使うこと。
そして、自然にも道具にも神が宿ると伝えられている事から、カムイノミ【神々への祈り】は色々な事で行われた。
平和への祈りだったり
日々の恵みへの感謝だったり
食への感謝も忘れない。
中でも熊に対しては盛大に送り儀礼をする。
「アンタが神の名を冠するってヤツか。俺はアマッポロカだ」
腕や顔に傷を負った大柄の男が声をかけてドカッと隣に座った。
アマッポロカはイオマンテ【熊の霊送り】の燃え盛る炎を見つめながら独り言の様に話し始めた。
この熊の近くに、もう一頭大きな熊が居た。
恐らく、この雌熊に付いて歩いていたんだろう。
一旦は逃げていった様だが、こことは別のコタンの家がその熊に襲われた。
残された遺体の惨状や、叫び声を聞いて駆け付けた仲間からの話を聞くと、熊は人狩りを楽しんでいる様だったと言う。
1人は頭を噛み砕かれていた。
1人は目を潰されて腹の中の子を喰われ。
1人は腕と足、そして頭部を残して消えた。
消えた部分は恐らく熊の腹の中に収まってしまったのだろう。
更に、武器を持った仲間にも攻撃した後に姿を晦ました。
その熊がこのコタンの近くを彷徨いているーーーと。
「その熊を狩るのか?」
「あぁ。そのつもりだが、何分人手が足りなくてな。やられたコタンにも協力を頼んではいるが、あちらも熊を追って負傷者が出てな」
「……私はウタリテから狩りを教わったが、弓の扱いは上手く無い。足手纏いになりかねない」
「狩りも出来ないとはお優しいカミサマだな。」
「その熊は襲ったコタンで複数の矢毒を受けているはずだが、なかなか絶命しないんだ。動きは鈍っている様だが、賢いヤツで日中は中々人前に出てこない。今回はスルク【トリカブト】をたっぷり塗ったのをくれてやろうと思う。その為には、罠を仕掛けたり気を逸らしてくれる仲間が必要なんだ」
鹿に仕掛けた様な罠で良いのか…?
と、少々の疑問もあったが
何とかなりそうだと思い頷いた。
「カンナ、フチから話があるってよ」
ウタリテがお婆さんを連れて来た。
その手には布に包まれた蝦夷拵えの刀が有った。
「この刀はイペタム。人喰い刀と呼ばれている」
フチの手の震えなのか、その刀はカタカタと音を立てていた。
「イペタムが音を立てる時、たちまち鞘から抜け出して生ある者を斬り殺すと言われた怖しい刀。不思議な事に、其方が来た日に薄らと灯りを帯びていた。まるで待ちわびていたかの様に…」
フチは話を終えると刀をカンナに手渡した。
カンナが持つと、一瞬、刀の震えは有ったもののピタリと止んだ。
フチはニッコリと笑みを浮かべて去って行った。




