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けものみち  作者: rival
アイヌモシリ
14/38

海を見ていたウタリテだったが、急に驚いた顔をして船から身を乗り出していた。



「ウタリテ……?」

カンナの呼びかけが聞こえなかったのか、返事もなくただ一点を見つめている。


そして、ゆっくりと動き出した。

船を降りて海辺を歩く。

そんなウタリテの後をカンナは付いて歩いた。



ふと目の前にはアフルンパロと呼ばれた岩穴がそこにあった。



「待て、行くな!!」

空に向かって手を伸ばし大声を上げたウタリテ。

そして岩穴へと駆け出したのでカンナは慌てて前からしがみ付いた。


左腕がズキズキと痛む。



「ウタリテ!ダメだ……っ」

岩穴は目と鼻の先。

左腕を怪我しているカンナではウタリテの力には敵いそうにない。

遠くからは安曇が船を降りて走って来るが、ウタリテが岩穴に入ろうとするまで、どうにも保ちそうにない。



カンナは、押し除けようと右の手のひらをウタリテの胸あたりに当てた。



「ウタリテ!止まれ!!」



大声で言うと、手のひらからはバチバチバチッと雷の様な光と衝撃が走った。

後から来た安曇も、辺りが暗くなってからの突然の光に目が眩む。


ウタリテは安曇の方へと衝撃で飛ばされた。


カンナは反動でアフルンパロの中へと飛び込んでしまった。



ーーー漆黒の闇色の岩穴。



岩穴から出ようともがくが、足場が有るのか無いのか分からない。

月夜に照らされるカンナだったが、徐々に闇色に飲まれていく。



闇色からは、カンナを引き摺り込もうとしているのか、無数の手が絡みついている様だった。


「な…なんだ、あれは…」


目が眩んでいた安曇もその異様さを目の当たりにしていた。




光に向かって伸ばしていた手も闇に飲まれる様に消えてしまった。





周りの全てが闇。


音もなく、光もなく。

立っているのか、落ちているのかも分からない。


伸ばしていた自分の手さえも見えない。





その中で一つ雷がほど走る。

一瞬の光の中には、雷を恐れている人々の姿。


また一つ雷がほど走る。

雷は大地を焼き尽くした。

人々は燃え盛る炎から逃げ惑った。


また一つ雷がほど走る。

大地の木々は燃え集落は焼け落ち、人々は飢えに苦しんでいた。



沢山の人間が死んだ。




「何だ……これは。」


乾いた大地と雷火の中で響き渡るのは

人々の嘆き、悲しみの声。



もうたくさんだ。

もうやめてくれーーー


耳を覆い、目を閉じるが頭の中に響き渡る様に伝わってくる。



《シロカニペ ランラン ピシカン(銀のしずく 降る降る まわりに)》


 《コンカニペ ランラン ピシカン(金のしずく 降る降る まわりに )》



優しい歌が聞こえた。



歌は光の雫となって身体に触れる。

炎は消え、大地に染み渡る。


周囲は光の雫がチカチカと瞬き、その輝きが集まる方へと手を伸ばした。






光の中に居たと思ったが、周囲は暗かった。






ウタリテと安曇の他に数人の和人が目の前に居た。


「…ウタリテの旦那、カンナの坊ちゃんは一体どうしちまったんだ?」

安曇は意識が朦朧としているウタリテに問いかけていた。

皆んなの表情は同じで呆気に取られている感じだった。

和人が持っていた篝火を落としてしまい、火が消え更に暗さが増す。


「い…稲光の中から人が……」

あやかしか!?」


和人がヒィィ…っと怯えた声を上げた。


その声を聞いて思い出したのはアフンルパロで見た阿鼻叫喚。


「…この岩穴の中は《魂の安住するたのしい世界》じゃない。アレは亡者の嘆きの穴だーーー」


カンナはポツリと呟いた。思い返しても悍ましい。

忘れたくても脳裏に焼きついて離れない。

あの夢?は一体何だったのだろうか。。



「どー…!船頭ーー!!」


遠くから声が聞こえるのでそちらを見ると、柱に縛られていたはずの人物が銛を持って走って来ていた。

声を上げていたのは、その後を追う血まみれの人物だった。

どうやら、この銛を持った男にやられたらしい。



「俺がぁぁあ!殺したはずなのに!!また殺してやるううぅ!!!」


銛を持った男は安曇に向かって殺意の言葉を述べて向かって来た。

ウタリテを押し除けて、安曇は受け流す構えを取っている。


アレじゃ避けきれない…

そう感じたカンナは、ジッと男の動きを見定めた。



何故か脳裏に浮かぶのはアフンルパロで見た乾いた大地に稲光と炎…



ズキッと片腕が悲鳴を上げ、表情が歪む。



突き出された銛に向かってカンナは痛みに耐えながらイペタムを引き抜いて構えた。



一瞬の稲光がカンナの身体から発せられる。



稲光は真っ直ぐに銛へと向かい、男の身体を電流で捉え動きを止めたかと思う間も無く発火した。


「あ"あぁあ"あ"あぁぁあ"!!!」

身体中が火だるまになり、もがき苦しむ男はゆっくりと歩きながら岩穴へと入って行った。



カンナの放つ光は人間の所業ではないことに驚いた和人達は

「お…悍ましい…妖だ……」と、言って怯えた。


安曇も驚いて言葉が出なかったが、仲間の声を聞くや否や

「いいや、妖じゃねぇ。カンナの力は火雷神ホノオイカズチノカミそのものじゃねぇか」


そう仲間に向かって呟いた。



カンナはハッとした様子で燃える男を助けようとするが、既に遅かった様だ。

男の姿はあっという間に岩穴の闇に呑まれてしまった。


呆然と立ち尽くしイペタムを持つ手に急に力が入らなくなって、思わず砂浜へ落としてしまう。

自分の手のひらを見つめては、自身の力が恐ろしくなった。

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