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けものみち  作者: rival
アイヌモシリ
13/38



海岸に着くと、何やら揉めている声が聞こえた。




「アズミニシパ、ワシらがどうして貴方達の仲間を隠したと言うんだ!」


「アイツらが勝手に消えるはずが無い!隠してないなら殺したか!!」

一人はアイヌの人で

一人は格好から見て和人だとすぐに分かった。



そんな騒動を横目に、カンナがふと何かに気がついた。

「ウタリテ、シコッペッコタンの仲間が話してたの覚えてるか……?」

カンナが指差した物は漁で使う篝火用の鉄籠だった。


《岩穴のところには物珍しい籠状に加工された何かがあった。その素材は木でも石でもない何か。》


「……!」

ウタリテもすぐにピンと来た。

話に聞いていた通り、目の前にある籠の中にも薪が入っていた。



恐らく同じ物だろう。



でも、このクッタルシ海岸からシコッペッコタンまではかなり距離がある。


「…何かのきっかけで、こちらの入り口から入り、向こうの岩穴に出た可能性もあるんじゃないか?」


「神の仕業か……。」


漠然的な仮説。

繋がってるとしても、地上と同じくかなりの距離がある。

…それこそ、神隠しにでも遭ったのか。


ウタリテも散々自分に神の伝承を語ってきたが、まさか、そんな事があるわけ…と、言いたげに考えていた。




「我らはコタン同士争う事もあるが、話し合いで解決する事を一番だと考えている。その我らが殺しをするとでも思うのか……」


アイヌの人は和人の放った言葉に対して小さく怒りの炎を燃やしていた。

グッと手を握りしめて耐えているのがうかがえる。



「私たちが通ってきたコタンの周辺に貴方達の仲間が居たかもしれない。」

一触即発の雰囲気に耐えかねて、確証は無いがつい声を上げてしまった。


「どう言う事だ!何処にいる!!」

物凄い剣幕で怒鳴り散らし、カンナに掴み掛かった。

カンナは冷静に、掴まれた手に自身の右手を添える。


「私たちは平原と一つ山を超えたシコッペッ流域から来た。そこの岩穴で、貴方達が使っているその篝火の入れ物を見た。 その中には薪も残っていた。」


「あ”ん?」

カンナが右手で指差した先を見て、またカンナを見やる。

真っ直ぐな目は嘘を付いていない気がして、ゆっくりと掴んだ手を下ろした。



「何だ。そんな遠くに馬も無くてもどう行ったってんだ。“神隠し”にでも遭ったってのか?」

男はチッと舌打ちをしながら苛立ちを隠せないで居た。



「そうだ。この岩穴はアイヌ達の間では妙な事が起こる岩穴なんだ。」

船の近くにある岩穴を見て話をした。

あの世の入り口。

ウタリテの昔話も本当ならば、神隠しも同然だろう。


納得のいかない様子の和人は腕を組みながら少し考え込んだ。





和人の男は押し黙っていたが、考えが落ち着いたのか男が口を開いた。


「俺ぁこの船を仕切ってる安曇だ。実は、アイツらが居なくなる前に妙な事を言っていた。」


『亡くなった俺の子供が岩穴へと駆けて行った』

『俺も。あれは俺の母に違いねぇーーー』



カンナはその話を聞いて更に驚いた。

ウタリテの話していた昔話の通りなのだから。


「あの岩穴はアイヌ達の間では、あの世の入り口と言われていて滅多な事がない限り近づいてはいけない場所だ」


安曇は腕を組んで黙ってウタリテの話を聞いていた。

なるほどな。と、呟きどこか納得してくれた様だ。



「その後を追ったかどうかまでは分かんねぇが…あの言い方なら岩穴に入って行ってもおかしくねぇ」

安曇は、行方不明の仲間の話していた内容とその行動を頭の中で整理していた。

探すべき場所はこの岩穴かーーー

そう思えば、揉めていたアイヌの男性に「悪かったな」と一言謝った。


アイヌの男性も小さく頷いて、カンナとウタリテに揉め事を収めてくれた事への感謝を伝えた。


「そろそろ日も落ちる。早くコタンへ戻りなさい」

アイヌの男性はカンナ達にそう言うとコタンへと戻って行った。



気づくと辺りは薄暗くなって来ていた。



「貴方達は何処で寝泊まりを?」

カンナは辺りを見回しながら安曇に聞いた。


「俺たちぁ、船で寝泊まりしてる。普段からもそうだが、今回はアンタらの仲間の村でドンパチしちまったから入れてもらえなくてな」

手当こそしてもらえたが…と、どこか申し訳なさそうに答えた。

行方不明になった仲間の他にも居るのだろうか。


船の上には灯りが灯されていた。




「船頭!あーずーみー船ー頭!」

船の上から声が聞こえた。

灯りを持って、こちらに手を振っていた。

安曇はそれに応える様に手を上げた。



「アンタら、少し船に来てくれないか?仲間達に紹介したいんだ。」


それを聞いてウタリテと顔を見合わせて考えたが、悪い人ではなさそうだったので返事をした。



船の上は物が散乱していて、顔に傷を負って横たわる人や単純に寝ている人、慌ただしく動く人が居た。

安曇も含めて八人ほどだ。


船の上は物が散乱していなければ広く感じる。


安曇は船の仲間を叩き起こして集め、私たちを紹介しウタリテの昔話を皆んなに話した。


仲間達は「またまた〜」と、本気にはしない様子だったが一人がスーッと手を上げた。



「お…俺も、死んだ女房が見える…」

何とも気の弱そうな細身の男だった。


……。

見え“る”?

ウタリテや周囲の人はその言葉の意味に気づいて居ない様だが、カンナは引っかかった。


男は何処か遠くをジッと見ている。

カンナも視線と同じ方向を向くが…そこには何も居ない。



「わ…わ……悪かった…! そんなつもりで殺した訳じゃないんだ…」


その言葉に驚いた船員達は「何を言ってるんだ…?」とヒソヒソと話していた。

安曇の表情が一気に曇った。

そして、仲間に縄を持ってくる様に話した。



「おい、お前!誰をどうやって殺したんだ?」

安曇は男を縛り上げながら問いただす。

男は無抵抗に、ただ遠くを見つめてうわ言の様に話していた。



「お前が…後妻嫉妬(うわなりねたみ)で仇討ちに行くと言うから……だから!」



「だから。お前の頭を殴って井戸に落としてやったんだーーー」




周りの人間は《不慮の死》だと同情してくれたよ…

井戸は暫く使えなくなったがな…

ブツブツと呟き薄らと笑みを浮かべた男に不気味さを感じた。



安曇は話を聞いて怒りに煮え滾っていたが、黙々と縛り上げて柱に磔にした。



「こんな不道なヤツを船に乗せて数日一緒に居たと思うと寒気がする」

オイ、お前らも手伝え!と、乗組員にも指示していた。


船と言う狭い空間の中では“何か”が起こっては命は無い。


男の不気味な笑みを見てカンナもそう感じた。

ウタリテも同じ様に思ったのかは定かではないが、不気味な男を直視することが出来ずに視線を海へとやっていた。

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