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第8話 フードファイター幼女閣下

 私達が向かいの席に座ろうとすると、少女は食事の手を止めてこっちを見た。


「おっウチの隊以外の人も居たんだねー。気づかなくってごめんね。ちょっと寄せるねー」


 口をもぐもぐさせながら、並べられた皿を手元に寄せていく。まるで彼女の前だけビュッフェ会場だ。これ、本当に彼女一人で食べきるんだろうか。


「すまない、ありがとう」

「ありがとう」


 私達も並んで席に着く。彼女が寄せてくれたおかげで、二人とも目の前に定食一人前くらいなら置けるスペースがある。すかさず女将さんがメニューを持ってきてくれた。当然のごとく文字は読めない。


「なるほど、さっぱりわからない」

「食べられない物はないか」

「辛い物は苦手かな。アレルギーとかはないと思う」

「ならば、無難に本日のおすすめ定食が良いだろう。女将、定食を二つ」


 おじさんが奥に引っ込んだ女将さんに向かって声をかける。奥からは女将さんの「あいよー」という声が返ってきた。

 向かいから視線を感じて目を向けると、先ほどの少女が手と口を止めないままこちらを見ていた。それにしても気持ちがいい程の食べっぷりである。


「何か用かな?」


 少女はしばらくもぐもぐしていたけれど、やがて食べ物を飲み込んだ。


「お姉さん、文字が読めないのー? もしかして、スラム出身?」


 スラム。聞いた事はある。ホームレスとか荒くれ者とかがすんでいる町、みたいなものじゃなかったかな。この世界にはスラムが普通にあるのかな。

 思わず隣にいるおじさんを見上げる。

 その視線を受けて、おじさんが代わりに答えてくれた。


「いや、コイツは遠くの国出身なんだ。だからこの国の文字が読めないだけだ」


 また設定が増えた。しかし、嘘は言っていないし説得力がある。私は確かにこの国出身じゃない。


「そうなんだー。じゃあ、お姉さん達は旅行でここに来たのー?」

「俺は一応この村の住人だ。コイツは俺の姪で、居なくなった両親を探しにここに来たんだ」

「ふうん。お父さん達、見つかったー?」


 もぐもぐ食べながら器用に喋る。最後の質問は明らかに私に聞いてきたから、私が答えた方がいいのかな。


「ううん、どこに居るのか全然分からない。だから探しにおじさんと二人で旅に出ようと思っているの」

「旅かあー」


 少女はコップに入った薄緑色の飲み物を飲んだ。お茶のようなものかな。

 そういえば、私達用にお冷とか持ってきてくれてない。こういうのってセルフサービスなのかな、こっちの世界ではそういうサービスないのかな。

 ぷはあ、と一息つくと、少女はまたフォークを手にして、今度はパスタを巻きつけ始めた。


「そっちのおじさんは傭兵の経験とかあるのー?」

「いや、無いな」

「うん、そんな気はしたよー。じゃあ、二人旅は危ないかもねー」

「戦闘経験はないが、俺はいくらか魔法が使える」

「攻撃魔法が使えてもダメかもー。今、国中に瘴気が溜まってて、あちこち危ないんだよー。瘴気を払おうとした魔法が吸収されちゃったなんていう話も聞くし。わたし達軍がここに派遣されたのもその関係だよー」

「邪竜とやらか」

「さすが、地元では有名な話なんだねー。そう、わたし達はそれを退治しに来たのー」


 大きな口を開けて、巻きすぎ気味のパスタを頬張る。お嬢ちゃん、気づいてるかな。口の横にソースついちゃったよ。


「軍ではお前のような子供も戦っているのか」

「ううん、10才くらいの子はわたしだけかな。わたしはちょっと特殊な事情があってねー」


 そう言って彼女は唐揚げをひとつ頬張った。

 そこへ一人の青年が近づいて来た。他の人達の制服よりちょっと豪華な軍服で、ゲームでは軍師とかやってそうなイケメンだ。


「お話中失礼します。そろそろお時間です、隊長」

「ああ、もうそんな時間? まだ唐揚げとか残ってるんだけど。まあいいや、お姉さん達にこれあげるねー」


 ほとんど手付かずだった唐揚げの皿をこちらの方へ寄せて、少女は立ち上がった。

 少女の着ている軍服は、他の人達の軍服とはデザインが違った。たぶん、他のみんなと違う軍服を着ている理由は、子供サイズが無いからじゃないんだ。おじさんも、僅かに目を見開いている。


「今、隊長と言ったか」

「いひひ、びっくりしたー? そう、今更だけど名乗らせてもらうねー」


 ふっと子供らしい顔つきから凛々しい顔つきに変わり、ピシッと背筋を伸ばす。


「わたしはセフィラム軍第6分隊隊長、ルゼである。こちらは副隊長のライだ」


 キリッと決め台詞をキメてくれたんだろうけど、口の横のパスタソースが残念だ。

 副隊長のライさんが、ルゼちゃんにナプキンを差し出す。


「格好つけたいお年頃なのは分かっていますが、ソースが付いていますよ」

「んむ、すまない」


 ルゼちゃんはナプキンを受け取って口元を拭った。


「さて、我々は明日の討伐に向けての最終調整がある。これで失礼させてもらう」


 ルゼちゃんは踵をカツカツと鳴らし、ライさんを伴って食堂から出て行った。

 入れ替わりに女将さんが定食を二つ持ってやって来た。


「へい、定食二つお待ちどお! あれま、隊長さんは結構お残しがあるね?」


 日本の10歳児の平均よりはよっぽど大量に食べていたけれど、流石に一人ビュッフェは多すぎたようだ。

 女将さんがため息をつくと、すかさず周りから隊員達が集まって来た。


「ご心配なく! 我々、食べ盛りなんで!」

「残飯処理と見せかけて、俺らの食費を浮かせてくれる隊長の心遣いっす!」

「オレ、ローストビーフが欲しいっす!」

「どさくさに紛れて図々しいな。おれはポテト」

「隊長、唐揚げはお嬢さんに差し上げていましたね。おいお前、唐揚げはダメだって」


 そうしてあっという間に、大量の料理はそれぞれのテーブルに持ち去られて行った。


「別に、定食一人前あるし、唐揚げも持って行ってくれてよかったんだけどな」

「せっかくの皆からの心遣いだ、いただくとしよう。何ならマジックバッグに入れておけば非常食にできる」

「腐らないの?」

「ああ、こいつの中では時間経過は止まるんだ」


 へえ、便利。


「じゃあ、遠慮なく」


 そうして、私は異世界二日目の夕食にありついた。

 昨日のおじさんのご飯が異世界のスタンダードなのではと少し心配していたけれど、そんなことはなかった。食べ慣れない味や食感もあったけれど、普通に美味しかった。

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