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第6話 私は第一級フラグ建築士になるつもりはない

 おじさんの家からダァトの村までは、おじさんの足でだいたい4時間くらいという話だったけれど、おじさんは割と歩くのが速かった。最初のうちは追い付くのに必死だった。しかし、おじさんも途中でコンパスの長さの違いに気づいてくれたのか、今は余裕を持って歩けている。

 それにしても、おじさんは「村のはずれ」と表現していたけど、完全に道中に民家は無い。ずっと森が続いている。しかも、割と手入れがされていないから、枝やら葉っぱやら蜘蛛の巣やらが蔓延っている。背の高いおじさんは、それらに高頻度で引っかかっていた。

 途中に休憩を挟みつつ、4時間以上は歩いた頃だろうか。急に道が格段に歩きやすくなった。ここら辺までは、ほかの村人達が普段から来ているに違いない。

 案の定、人影を見かけた。


「第一村人、はっけーん」

「ひいいぃぃぃ! あ、なんだ人間」


 山菜取りか何かに来たらしい村人だった。背中に籠をしょっている。


「なんだいお嬢ちゃん、驚かせないでくれよ。こんな所を一人でうろうろしてたら、邪竜に食われちまうぞ。早くお帰り」


 私が一人に見えたらしく、心配してくれる。良い人だ。

 その私の後ろから、おじさんがぬっと現れる。


「待て、邪竜とは何だ。そんなもの、以前来たときにはいなかっただろう」

「ひいいぃぃぃ、増えた! なんだ、あんたダァトの悪魔のツレだったのか」

「ダァトの悪魔?」

「若気の至りというやつだ、アンは気にするな。それよりも、邪竜とは何だ」


 すごく気になるあだ名が飛び出してきたけど、おじさんが怖い顔をしていたから、私は賢明にも黙っていることにした。


「前にお前さんが村に降りてきたのは一年くらい前だったか」


 村人のおじさんが、話し始めてくれた。


「その頃にはまだ話題になっていなかったか? 魔物が発生したり、疫病が流行ったりというのが、各地で頻発していたんだ。この村の近くにも、邪竜が住み着いたなんて噂が、そうだな、三年くらい前からあってな」

「俺は聞いた覚えがないな」

「おれもはっきりと見たことはない。まあ、それぞれの話単体で聞いても、それだけでは良くある噂話だ。記憶にも残るまい。しかし、一年くらい前から、それらの場所に教会と軍の両方から人が順番に派遣されているとなりゃ、世の人達は何かあるって思うものよ」


 村人のおじさんは、どっこいしょと籠を背負いなおした。


「もういいか? おれも仕事しなきゃならん」

「ああ、引き留めて悪かった」


 村人一号は藪の中へ消えていった。


「おじさん、邪竜だって。ドラゴンみたいな生物も、この世界にはいるの?」

「いや、今の世界ではお伽話のはずだ。しかし、教会と軍が動いているとなれば、実体の無いものではないんだろうな」


 おじさんはふむ、と顎に手をやる。


「ひとまずドラゴンは横に置いておこう。今はお前の両親を探す旅支度が優先だ。それに村まで行けば、もう少し情報も入ってくるかもしれん」

「それもそうだね。村まであとどのくらい?」

「ここまでくれば、本当にあと少しだ。しかし、想定より時間がかかったから、今日は村で一泊だな」


 それは、暗に私の足が遅いと言っているのだろうか。身長も違えば足の長さも違うんだから仕方ないじゃん。この股下5メートル! ムサい格好に騙されてたけど、このおじさん割とスタイルも良い。


「私、ベッドに寝るからね」

「ああ、ツインルームだな」

「しれっと同室にするつもり?」

「叔父と姪ならば、別室の方がおかしくないだろうか」

「えっどうなんだろう。でも乙女心的に無理」

「そうか……。しかし、部屋が空いていなかったら諦めてくれ」

「空いてたら二部屋取ってよね!」


 そんなこんなで、村に着いた。いや、村って。街じゃん!

 想像では、舗装されてない広場があってそれを囲むように茅葺きとかの平屋が建ってるみたいな村だと思ってたよ。

 道は舗装されてるし、家も普通に煉瓦づくりで平屋じゃない。すごいゴージャス感溢れる馬車とか停まってる。白馬めっちゃ綺麗。


龍哭山脈りゅうこくさんみゃくは急峻な山脈だ。外との往来がしづらいため、生活がすべてこの村の中で完結するように発展してきたのだ」

「もう村じゃなくて国じゃん」

「さりとて独立しているわけではない。あの馬車は、紋章から判断するに軍所属だな」

「きな臭くなってまいりました?」

「関わらなければ良い。しかし、あの馬車が停まっているところが宿だな」


 周りの建物と比べると、ほんの少しこじんまりした印象の建物だ。看板が出ているようだけど、文字は読めない。


「翻訳君、書いてある文字には効かないんだね」

「音では無いからな、視覚情報への干渉は難しい」

「せめてg○○gleレンズみたいなのがあれば」

「なんだそれは、後で教えろ」

「後でね。それにしても、街の発展ぶりに対して、宿が小さすぎない?」

「外との往来があまりないから、泊まる客もいないということだ。だから、道楽で民宿を開いているあの家くらいしか宿がないのだ」


 そういうことなら仕方がない。

 ところで、私はさっきフラグを立ててしまったのではないだろうか。


「さて、眺めていたところで仕方ない。ひとまず、買い物の前に宿を押さえよう」

「二部屋だよ」

「承知している」


 そうして、私達は宿の扉を開けた。

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