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第5話 感覚が地球人とは違うのか、それともおじさんがズレているのか

 おじさんは髭を剃るのをものすごく嫌がった。それはもう、38才のいい年した男がここまでゴネるかってくらい嫌がった。

 仕方がなかったので、煙突から落ちたサンタクロース状態から伊藤博文になったところで勘弁してあげた。

 ちなみに今はまた外に出て、私が美容師の真似事をしている。


「おじさん、思ってたよりもイケメンなのでは? 髭も剃り落として、ちゃんとしたらすごくモテそう」

「誉め言葉と受け取っておく。しかし、これ以上は1ミリたりとて剃らんからな」


 見た目に気を使わないタイプに見えたのになんなのだ、この髭への異様な拘りよう。


「仕方ない。博文度を上げるために、前髪を大きく剃って、おでこを広くしてみましょうか」

「ヒロブミ度とは、何だ」

「気にしないでオッケーです。じゃあ髪の毛剃っちゃいますねー」


 私は剃刀をおでこに近づけた。おじさんは怪我しないようにか、身じろぎ一つせずに待っている。


「……禿げにされかかっているのに、抵抗しないのね」

「村に行く前に身綺麗にしろと言ったのは、お前じゃないか」

「髭には拘るのに、髪には拘らない……だと……」


 普通の男性ってのは、禿げを異常に怖れるものではないんですか、思い込みだったんですか、もしかして異世界クオリティですか。


「つい地球基準で考えちゃってたけど、こっちの常識だと髭がもじゃもじゃしている方が偉いとか、そういうことある……?」

「いや、そういうことはない」

「髪も、つるっぱげの方が偉いとか」

「それもない。各々が好きにしている」

「よかったー! いたずらしようとしてごめんなさい。普通に整えとくだけにするね」


 私は気を取り直して、左手にもじゃもじゃの髪の毛を、右手に剃刀を持った。しょりしょりと主に枝毛のある所を剃っていく。ちなみに鋏は持ってないらしい。不便じゃないのかな。

 無心で剃っていれば、ずいぶんとおじさんの横幅が小さくなった気がする。実際に肩幅なんかは全然変わってないはずなんだけどね。目の錯覚ってふっしぎー。


「だいぶさっぱりしたわね。これくらいならいいんじゃないの」

「頭が軽い」

「あれだけ伸ばしたい放題してたら、そりゃね。どうする? 着替えたら村へ行く?」

「いや、もう太陽がだいぶ傾いている。やめた方がいい」

「え?」


 燦々と輝く太陽は、まだ頭上にある。確かに南中は通り過ぎていた。午後二時くらいってところだろうか。


「おじさん、この世界って時計ってある?」

「ある。しかし、家にはない」

「ないのかー。今って何時くらいなんだろう」

「14時ぐらいじゃないのか」


 おお、少なくとも1日の感覚は同じくらいっぽい。


「私の感覚だとまだ十分昼間だと思うんですけど、村行くの無理っすか」

「無理だな。山は日が暮れるのも早い。村に着く前におそらく暗くなる」

「ここってとんでもなく僻地なのでは」

「俺の足で4時間くらいかかるぞ」


 人の歩く速さは、だいたい1時間で4キロメートルだから、ここから村まで16キロくらいあるってこと?

 計算してみたけど、いまいちピンとこなかった。ええと、家から4時間歩いたらどこまで行けるかな……中学校は余裕で越える。ダメだ、4時間も歩いた記憶がない。小学校の遠足とかが最後かも知れない。


「とりあえず、村までとんでもなく遠いのは分かったわ」

「納得してくれて何よりだ。明日、日が出たら向かうとしよう」

「そうしましょう」


 そんなわけで、おじさんの家にとりあえず一泊する事が決まった。少し早めの晩御飯は、おじさんが用意してくれた燻製肉と干し野菜のシチューとよんでいいのか微妙なとろみの付いた汁物だった。

 作ってもらっておいて何だけど、私は一刻も早く料理の主導権を得なければと決意した。




 翌朝。寝袋の中から小鳥のさえずりを聞いて目が覚めた。時計がないので、時刻がまるで分からない。

 でも、なんだかとても明るい気がする。

 寝袋から抜け出してベッドを見れば、おじさんはもういなかった。家主なのでおじさんがベッド使うのは当たり前だし、同衾とかあり得ないし、だから私が寝袋なのは合理的なんだけど、納得いかない。

 そんなことは置いといて。


「おじさん? どこ?」


 目が覚めたら見知らぬ場所に一人というのは、思ったよりも堪えた。最初に目の前に髭もじゃが居てくれて、本当に良かったかも知れない。

 この家の間取りはいわばワンルームに近い。屋内にいれば分からないなんてことはないだろう。

 外だろうか。

 そっと外を覗くと、巨大な猪みたいな生物を捌いているおじさんがいた。


「!? おじさん、何しているの」

「ああ、村で売ろうかと思ってな。路銀の足しになるだろう」

「ちなみに、その生物は……?」

「『猪』だ、肉が食用になる」


 そのまんまだった。もしかしたら、私が猪みたいって思ったから、この世界の猪的生物の名前が『猪』と翻訳されることになったのかもしれない。まあ、伝わればいいか。


「さて、こんなものでいいだろう」


 そう言うと、おじさんはウエストポーチに捌き終わった猪肉を入れた。

 待って、容積が明らかにおかしい。ウエストポーチは普通にウエストポーチである。それに対して猪は軽く自家用車くらいの大きさがある。それなのに、全部入った。たぶん魔法か何かなんだろうけど、普通にびっくりする。

 全部しまいきったおじさんが、驚きで硬直した私にやっと気づいた。


「ああ、マジックバッグだ。専用の亜空間に繋げてあるから、見た目以上に入るぞ」

「マジックバッグ……上限はあるの?」


 ゲームとか、異世界転生ものにお約束のストレージとかみたいに。とは言わないけど。


「アンも欲しいか。では、村で適当な鞄を見繕うか」

「マジックバッグって市販なの? めちゃくちゃ高かったりしない?」

「買うのは普通の鞄だ。それに俺が魔法を施す」


 なんと。セミハンドメイドだった。お約束的には容量が大きくなるほど値段が高かったり消費魔力が大きかったりするものなんだけど、おじさん謹製ならあんまり心配なさそう。


「そういうのって、魔法の材料集めて皮とかから作るんじゃないんだ?」

「オーダーメイドが良かったか? しかし、買った方が安くて早くて綺麗だ」


 すでにあるものを活用する。合理的だ。


「じゃあ、気に入った鞄があったらお願いしてもいい?」

「承ろう。それでは、アンの支度ができたら、村へ行くか」


 支度と言っても着替えも何も無いので、顔を洗ってご飯を食べたら出発だ。

 いざ、異世界の村へ!

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