第4話 人は見た目が十割
「今分かっていることを改めるぞ。お前は異世界からやってきた少女で、俺が10年前に捨てたガラクタを持っている」
「待って、私がこれを拾ったのは3年前」
おじさんは眉を動かした。
「考えられるのは3パターンだな。一つ目、こちらとそちらで時の流れ方が違う」
「相対性理論とかいうやつ?」
「待て、いちいち興味深いことを言って話を止めるのをやめてくれ。後で教えろ。二つ目、時の流れは同じだが『年』の長さが違う」
「そこは翻訳機能で計算してくれないの」
「その翻訳器にかけた魔法は、同じ意味合いの言葉に置き換えるだけだ。機能を増やせば術式が複雑になる。三つ目、世界の移動時に時間のスライドも発生した」
おじさんは足を組み替えた。
「どれが正解かは、俺も分からん」
「二つ目だったらいいなあ」
「なぜだ」
私はお茶の最後の一口を飲んだ。
「たぶん、私の両親もこの世界に来ているから」
「ほう」
「一つ目でもいいや。単純に計算すると3倍ちょいだから、元の世界で一週間くらいの時差だから、こっちの世界では一ヶ月くらいでしょ。それくらいならなんとか探せる」
「お前は両親を探しに、こっちに来たのか」
「分かんない。本当に異世界があるかは、こうなってみるまでは半信半疑だったし」
ペンダントを見つめる。
「元の世界では両親は爆発事故で死んだことになってるし」
「でも、半信半疑とはいえ、お前は両親が死んだのではなく、異世界に行ったと考えたのだろう。何故だ」
私はおじさんに、私の分かる範囲で両親がしていたワームホールと異世界の研究について話した。相対性理論のことも分かる範囲で話した。
「だから、きっとこのペンダントが何かの鍵なんだろうって。それで、これを持ったまま自室で寝てたら、いつの間にか私もこうなってたの」
「なるほど。では最悪の場合、お前の両親はここでは見つからない可能性もあるな」
「なんで?」
「お前の場合はそのペンダントを握っていたから、元の持ち主だった俺に引き寄せられてここへ来たんだろう」
おじさんは足を組み替える。考えてる時の癖なのかな。
「しかし、お前の両親の場合は、そのペンダントはそちらの世界に置いてきてしまったんだろう。なら、どこに漂着したか分からない」
「そんな……」
「まあ、きっかけが同じものならば、この世界にいる可能性が一番高いがな。あくまで最悪の場合、だ」
おじさんは膝を崩した。
「一つ事実を述べるなら、俺は今まで、お前以外の異世界人を拾ったことはない。そういう噂も聞かない」
私は、自分が気落ちしているのを感じた。
「しかし、ここは僻地だ。情報が入ってこない、あるいは遅れているのは良くあることだ」
おじさんは、私をまっすぐ見据えた。
「お前は、両親を探しに行きたいか?」
その質問は、私の中ですとんと答えが出た。
「行きたい」
「では、行こう。俺もそろそろ引っ越そうかと思っていたんだ」
「付いてきてくれるの?」
「少女一人を見知らぬ世界に放り出すほど、人でなしではないつもりだ」
確かに、普通に会話してたけど、本当はこのカフスとチョーカーがなければ、言葉さえも分からない世界なのだ。事情を知っている大人が付いてきてくれるのはありがたい。
「ありがとう、おじさん」
「あー、俺は『アダム』だ」
「分かった、アダムおじさん」
「ぐっ……、しかし共に旅をすると名を知らぬのは不自然だ。教えてくれるか。ああ、フルネームは教えなくていい」
「なんで?」
「名前には力が宿る。フルネームを知られるということは、相手に魂を握られるようなものだ」
やっぱり陰陽道の考え方っぽい。
「ふーん、じゃあ私は杏だよ」
「アン、か。ふむ、こちらの世界の平民の少女の名としても違和感がない。そのままでよいか。違う名で呼ばれるのも不安だろう」
「いいよ。でも、おじさんと少女って絵面やばくない? 誘拐犯に間違われそう」
「では、兄妹ということにするか」
「14才と38才だよ? 無理があるでしょ。叔父さんと姪が限界だよ」
「……検討の結果、妥当だと判断した。では、まずは一番近い町まで行って、旅支度を揃えてくるか」
そういって、おじさんはもう出掛けようとした。
「ちょっと待って! その前に、髭を剃って髪をとかして!」
身嗜みって、大事だと思う。