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第3話 知的好奇心旺盛同士の会話はすぐ脱線する

 いつまでも外にいるのもなんだかな、ということで場所をおじさんの家に移すことになった。

 元々居たのは山奥の開けた場所の小さな草原って感じだったけれど、おじさんの家は案外近くにあった。逆に言うと、おじさんの家は山奥のポツンと一軒家だった。


「おじさんは何でこんな辺鄙な所に住んでいるの」

「……人と関わるのが煩わしいだけだ。ここも住み慣れれば快適に暮らせる。まあ座れ」


 おじさんは一人暮らしらしく、家具は最小限しか置いていなかった。椅子も一つしか見当たらない。


「私が座っちゃったら、おじさんはどうするの」

「俺の家だ。遠慮はするな」


 そう言いながら、おじさんはキッチンで薬缶を火にかけた。


「まあ、最低限の清潔は保っているつもりだ」


 あっという間に沸いた湯とカップとお椀を持ってきてテーブルに置く。魔法を使ったのかも知れない。


「若い娘が気に入るようなもてなしはできんが、まあ飲め。落ち着く」


 薬缶からカップに注がれたのはどうやら緑茶のようなものだった。それを受け取ると、おじさんはお椀にも緑茶を注ぎ、それを持ってベッドに腰掛けた。


「さて、何から話すか」

「まず、ここどこ?」

「ここは龍哭山脈(りゅうこくさんみゃく)のダァトの近くだ」

「全くどこだか分からない」

「ふむ、おそらくまずは俺の質問に答えてもらった方が、お互いのためになりそうだ」


 おじさんは、スッと形見のペンダントを指さした。


「お前はそれを、どうやって手に入れた?」


 思わずペンダントをぎゅっと握りしめる。


「ああ、勘違いするな。それを寄越せなんて言うつもりはない。俺はそれを捨てた。それなのに、目の前に現れて驚いているだけだ」

「これは……」


 私は悩んだ。さすがに14才にもなれば、空間から突然現れたなんて話、現実味がないことが分かる。それをそのまま話して、信じてもらえるだろうか。


「……そもそも、これは何? 何で捨てたの?」

「質問で返されたか。まあ、いいだろう。実はおおよその推測はできているが、それが馬鹿げた妄想でないか確認したいのは俺の方だ」


 おじさんは、お椀からお茶をずずっと啜った。


「それは、俺が昔作ったガラクタだ。要らなくなったから、異世界に投げ捨てたんだ」

「今、しれっと『異世界』って言ったわね」

「言った」


 じっと、手のひらの中のペンダントを見つめる。


「……これは、ある日私の目の前に突然現れたの。本当に、空間から急に」

「放り投げたガラクタが、異世界人に危うく当たるところだったのか。すまない」

「『異世界人』」

「ああ。お前から見たら、この世界の方が異世界ってことになるな。ハハッ、もしかしたらとは思っていたが、まさか本当にそうだったとは」


 おじさんは額に手をやりながら天を仰ぐ。


「絶対に見つからないようにと異世界に捨てたのに、戻って来てしまうとは、これが俺の運命なのか。それで、異世界の娘。今ならお前の質問にも、分かるように答えてやろう」

「なら、改めて。ここはどこ?」

「お前達の住んでいる場所とは異なる世界だ。地名としては龍哭山脈の麓にあるダァトという村のはずれだ。龍哭山脈ってのは、ナヴ帝国とセフィラムの国境でもある。ここはセフィラム側だ」


 おじさんはテーブルに手を伸ばしてきて、少しうねった線を描き、その脇をとん、と指した。地図のつもりなんだろうか。


「ふーん、この世界の名前は?」

「逆に聞くが、お前のいた世界に名前はあるか?」

「地球……んー、それは星の名前だわ。世界には、名前がないかも」

「お前達は星に住んでいるのか」

「え、普通にそうだけど」

「『普通』ときたか。我々はこの世界が星の上にあるとは考えていないな」

「天動説の世界観ってこと?」

「おっと、興味深いワードが出てしまったな。『天動説』とは?」


 おじさんの目が、興味深そうに私を見ている。


「私達の住んでる地球が宇宙の中心で、その周りを他の星が回っているっていう、こっちの世界では古い考え方のことよ。今は地動説、地球は動いているっていう考え方の方が常識だよ」

「ほう、宇宙の成り立ちの考え方からして異なりそうだ。こちらの世界では、今の世界を形作ったのは、光の神と闇の神の二柱だ」

「良い神様と悪い神様が戦って良い方が勝ったとか、そんな感じ?」

「いや、光と闇は善悪ではない。光の神は発展と破壊を、闇の神は停滞と修復を司る。どちらも大切なものだ」


 西洋っぽい世界だと思いこんでいたけど、これは日本の陰陽道の考え方っぽい。異世界なんだから、地球の感覚で考えてはいけないのかもしれない。


「こっちの世界にも神様はいるけど、でもぶっちゃけ存在してないじゃん。そこらへんはどうなってるの」

「そちらの神は存在していないのか。こちらの神は存在している。俺は一度だけお目にかかったことがある。最近は二柱とも引きこもっているのか、あまり姿を見たという話は聞かないな」

「いるんだ、神様」

「もしかしたら、神の定義がそちらとは違う可能性もあるがな」


 二人ともお茶を飲んで、一息つく。


「しかし、お前は元の世界では貴族階級だったのか? 学があるように感じる」

「こっちの世界に身分はないよ。あ、いや、外国にはまだあるか。少なくとも、私の居た日本では貴族はいないよ。天皇はいるけど。義務教育っていって、子供は全員学校で勉強するの。あとは、うちの両親は揃って学者だったから、ほかの家よりはそういう会話が多かったかも」

「ほう、『教育』。いや、またその話をすると脱線しそうだ。話を戻そう」


 おじさんは空になったお椀をテーブルに置き、足を組み替えて顎に手をやった。

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