第8話 聖女モノ?
「……はい?」
見城さんがいっぱい喋ったことは分かったが、何をいっぱい喋ったのか、脳の処理が追いつかない。ゆっくりと、見城さんの言ったことを頭の中で巻き戻していく。見城さんは第1王子狙いで、それから、追放者じゃなくてドキドキ、聖女モノでテンションが上がって、異世界に来ちゃった私たち……。
「見城さん」
「はい。おねーさんは第2王子狙いでいいですかぁ? でもタイプじゃなかったら譲ってください。私、逆ハーレムモノも好きなんです。」
「私たちは異世界に来たのね?」
「はい。え? 今さらそれ聞きます?」
なんということだ!見城さんはなんだか状況を把握しているらしい。昨日私が起きる前、それとも、今日部屋に集まる前に、先に説明を受けていたのだろうか。見城さんは呆然とする私を見ると、何か察したようであった。
「おねーさんアニメとか漫画とかあまり見ないタイプの人ですねぇ」
「ジ○リとか、鬼○の刃とかは見てたけど……」
「あー、じゃあ知らないですよねぇー。乙女ゲームとかラノベとかって聞いたことあります? 今そーゆーので流行ってるんですよぉ。異世界に急に転移して、貴族になったり勇者になったりする話が! 私たちが飛ばされたこの世界は、聖女がヒロインの乙女ゲームが舞台、つまりイケメンとイチャイチャできるってことですよぅ!!」
そんなのが今は流行っているのか。仕事が終わって家に着くのは21時を過ぎていたし、食べてお風呂に入って寝たら私の1日は終わっていた。自宅と職場の往復しかしていなかったし、休みの日は、溜まった家事と日用品の買い出し、たまにある用事で潰れていた。ゲームとか久しくしていない。
「仮に見城さんのいうゲームの世界だとして、なんでゲームの世界って分かるの?」
「おねーさん。こーゆーのにはテンプレがあるんですよぅ! おねーさんもこの世界に来た時轢かれてきたでしょ? これは絶対何かの乙女ゲーですよぅ!」
「轢かれる?何に?」
「えぇ? トラックに轢かれませんでした? 私轢かれてこの世界に来ましたよぅ。定番の転移方法ですよぅ」
「私は……何か黒い影に食べられるというか、飲み込まれるというか、そんな感じだったと思うんだけど」
私と見城さんではここまで来る方法が違ったようだ。私の来たルートは通常の方法とは違ったらしい。見城さんは時々あることだと話していたが、司祭様が言っていた、想定外に2人が聖女として呼ばれたことと何か関係があるのだろうか。
「私たちこれからどうしたら良いんだろう? 世界の危機ってどうなるか分かる? 聖女って何しなきゃいけないんだろう?」
「世界崩壊までの期限付きのゲームってことですよねぇ。聖女だし、お祈りとかぁ回復とかぁ。あ、魔法あるし魔物倒しに行ったり?」
「魔物倒しにって……死ぬかもしれないってこと?」
「うぅーん。難易度がどれくらいかは分からないですけどぉ、乙女ゲームだしそんなにだと思いますよぉ。きっとキャラが守ってくれると思うんですよねぇ」
見城さんはなかなかに恐ろしいことを口にしたと思うが、ケロっとしている。そもそも、何をするか分からない状態でも聖女します宣言するような肝の据わった子だしなぁ。それでも、王様や司祭様に、せめて聖女は何するのかきちんと聞いてから了承するように、見城さんを説得し約束する。喋ってみると、見城さんは自分の欲望に素直で少し楽観的な子だった。それに、何も知らない私にいろいろ教えてくれる、いい子だ。たぶん見城さんは年下だから、私が守っていかなくちゃ。
「今更だけど、私、板川 千春。24歳。東京で会社員してます。」
「ふふっ。今更ですねぇ。ちはるさんって呼んでいいですかぁ? 私はぁ見城 芽依っていいますぅ。22歳の大学生ですぅ。メイちゃんって呼んでくださぁい」
「メイちゃん…これからよろしくね」
「はぁい。こちらこそよろしくです。ちはるさん」