第6話 呼ばれた理由
「……あーぁ、空を飛ぶ魔法のある設定だったら良かったのになぁ」
見城さんの小さな呟きは、私の耳には届かなかった。少しの沈黙の後、再び司祭様が喋り始めた。
「クレイン王子が仰ったように、代を増すごとに聖霊の力が弱まっていることが問題でしてーー。その上、今から30年前に聖霊達からお告げがあったのです。再び、世界が危機に陥ると……」
な、なんだってー!? 力が弱まってるってことは結構ヤバいのかな? でも……世界の危機って…なんかアバウトだな? 実はあんまり大したことなかったりして?
「あの、世界の危機って、具体的に何がどうなるんですか?」
私は手を挙げて質問する。返ってきた答えは、思っていた以上に深刻だった。
「最終的にどうなるかは誰も……何も分かっていないのです。しかし、お告げのあった30年前から、確実に王国は悪い方向に進んでいるのです」
「司祭よ。詳しい話は宰相からさせよう」
「畏まりました。王よ。……はじめに起こったのは、女児出生率の低下です。男女合わせた出生数自体は大きく減少していません。しかし、将来的に人口の大幅な減少、国力の低下が生じるでしょう。また、女児や女性の誘拐・連れ去り事件が増加しています。
次に、魔物の増加・凶暴化です。以前に比べ、魔物の観測数が約3倍、被害件数も1.5倍ほど増加しています。魔物被害による死亡事件も起きています。
最近ですと、1年程前から異常気象に見舞われています。大雨や干ばつによる農作物の不作、流星群による建築物の破壊など様々ですーー」
話を聞いて、サリーとマリーが言ってた男装うんぬんに合点がいった。また、この世界では、聖霊だけではなく魔物もいること、流星群(隕石?)が建物を壊すことが分かった。私の知る一般常識と違うところが見つかる度に、不安と焦燥がじわじわ自分の中に広がっていく。
もしかして、私、とんでもないところに連れて来られたのではないか?!
「被害がより深刻化する前に出来ることは無いか、王家が管理する書庫を調べていたところ、『遣い』の手記が見つかったのです。そこには、遣いが聖霊王の下を離れ、勇者に出会い、共に世界の危機を救うまでの出来事が書かれていました。また、手記の最後には、いつか再び世界が崩壊の危機を迎えるかもしれないこと、その時まで、遣いと勇者の子、その子孫へこの手記を継いでいくように、と記されていました。ーーつまり、この手記には遣いの召喚方法と聖霊の力を授ける方法が載っていたのです。我々は……この手記を基に、昨日、その儀式を行なったのです」
「きゃぁ〜! 私は召喚された遣いってことっ? 私も聖霊の力使えるのかなぁ?」
見城さんのテンションは最高潮になっている。司祭に対する圧がすごい。確かに、昨日の私たちはまさに召喚されたっぽい状況だった。彼女の言う通り、私たちは遣いなのだろうか?
「…儀式は正しく起動し召喚も成功しました。しかし、遣いとして『2人』召喚されることは、我々も予想していなかったのです」
「…どっちかがニセモノってこと?」
「いいえ、お2人とも本物です。召喚陣に2人とも反応していましたからーー。ただ、どうして2人なのか……何か理由があるのかもしれません」
王様がすっと立ち上がり、周りも一斉に立ち上がる。つられて私も立ち上がる。
「「「改めて、お二人にお願い申し上げます。我々メドベーフィア王国は貴方がたを『聖女』として招聘いたします。どうか、共に世界の危機を救って下さいませ」」」