第5話 言い伝え
「お任せします…」
言うが早いか、私はマリーとサリーに着ていたガウンを剥ぎ取られた。恥ずかしがる間も無く、水色のタイトなロングワンピースが着せられていく。
「千春様は身長がございますから、細身のモノがよくお似合いですわ!」
「ええ! 男装姿もよく似合っておいでで麗しかったですわ」
「千春様、靴はどうなさいまし?」
「このヒールが合うのではなくて?」
2人は、ヒールの高い、アンクルストラップの付いた靴を勧めてくれた。しかし、私はその横に置かれていた、ヒールの低いミュールを手に取った。
「私、コレが気に入っちゃった!」
2人は顔を見合わすと、ニコっと笑ってその靴も勧めようと思っていた、よく似合うと褒めてくれた。次はアクセサリーを決めますわ! と息巻く2人を見ているうちに、モヤモヤは消え去っていった。
「迎えの者が到着したようですわ」
「千春様、お時間でございますわ」
「「行ってらっしゃいまし」」
2人に見送られながら部屋を出る。迎えに来てくれていた、王直属の騎士と名乗る人に着いていく。もう、マリーとサリーが恋しくなっていた。
しばらく歩くと大きな両開きの扉の前に着いた。騎士が扉ノックをして、聖女様が到着しました! と叫ぶ。急に大きな声を出さないで欲しい。一気に緊張感が増すから。おずおずと中に入ると、昨日見た人達はすでに全員揃っており、私が最後のようであった。
「板川様、よくお休みになられましたか?」
「運ばせた食事はお口に合いましたでしょうか?」
王様も第一王子様も、気を配ってくれることはありがたかった。しかし、どうして私なんかに? という思いが先行して、私は素直に好意を受け取ることが出来なかった。ぎこちなく笑いながら案内された席に座る。見城さんの隣だ。正面に王様と第一王子様、お誕生日席の見城さん側に白い服の司祭様、私側に第二王子様が座っていて、黒い服の人は第二王子様の後ろに立っている。私が席に着くと、王様は優しい雰囲気から一変して、真剣な顔をして話し始めた。
「さて、本来ならば、聖女様方にはすぐに説明しなければいけませんでしたから。なぜお二人がこの世界に呼ばれたのか、気になっておいででしょう。ーー司祭、始めるのだ。」
「畏まりました。王よーー」
そこから語られたことは、<私には>あまりにも衝撃的であった。
メドベーフィア王国には古くから伝わる言い伝えがある。
この世界は1度危機を迎えたが、滅んでいく人間を不憫に思った聖霊王が「遣い」をやった。人間に救う価値があると思ったならば、助けてやれと。
遣いは世界を巡り、最も良い人間に自分の聖霊の力を授けた。遣いから聖霊の力を授かった者は、世界の崩壊を防ぎ、勇者と呼ばれるようになった。勇者が天に還る時、再び世界に危機が訪れることを恐れ、子孫に力を残したいと聖霊王に祈った。その祈りは聞き入れられ、勇者の子孫が王となり人々を先導していった。
この言い伝えがメドベーフィア王国の成り立ちであり、本当にずっと昔に起こったこと…らしい。
「じゃぁ、王様も王子様も勇者の子孫だから魔法が使えるんですかぁ?すごーい!」
見城さんが前のめりになってはしゃいでいる。しかし、周りの顔は冴えなかった。そんな中、第2王子が彼女に笑いかける。
「勇者の血が薄くなるにつれて聖霊の力は弱まっていてね。今じゃ火を起こすのが精一杯さ」
そう言って、彼は自分の指先に火を点した。人間ライター!! 私のテンションはだいぶ上がった。一方、見城さんのテンションは分かりやすく下がっているようだった。
「……どうせなら空を飛べる魔法のある設定が良かったなぁ」