第4話 マリーとサリー
「聖女様!そろそろお目覚めくださいまし!」
肩を叩かれて、がっと目が開く。自分の心臓がばくばくと動く音が聞こえる。脳に急速に血液が送られて、スマホを取ろうと身体を捻った。
ヤバい!これは、寝過ごしてる!!今、何時だ!?
スマホは、12時を過ぎていると告げていた。急げ!! と脳が全身に指令を出す。まずは洗面所だ、と布団を掻き分けてベッドを降りる。足を着いて前を向いたとき、目の前には知らない空間が広がっていた。横を向くと、メイドさん(ロングスカート!)が2人、手を合わせてこちらを凝視し怯えていた。
誰!?…あぁ。そうだ。夢じゃなかったのか。
「…おはようございま〜す」
昨日の出来事を思い出して、ため息が出る。とりあえず、自分の挙動が2人を怯えさせたようだ。少しでもイメージを改善できるよう、2割り増しの笑顔で挨拶した。2人は顔を見合わすとずいずいと近寄ってきて、よく似た顔で交互に話し出した。
「聖女様、おはようございまし」
「よくお休みになられておいででしたわ」
「心苦しかったのですが、王との約束の時間まであと2時間しかありませんわ」
「急いで支度しないと間に合いませんわ」
「「マリーとサリーに全てお任せくださいまし」」
息の合ったやりとりに思わず「双子ですか?」と聞いたら、「「4つ子でございますわ」」と同時に返ってきて感動した。シンクロ! そのまま2人のペースに押されて、あれよあれよという間にスーツを剥ぎ取られ、お風呂に入れられた。2人はお風呂の中に入ってお手伝いしてくれようとしたが、私は必死に断った。どうにか外で待機してもらい、急かされながら急いで済ませた。お風呂はとても広くて、タイルが可愛くて、また入らせて貰えるならゆっくり堪能したい。
お風呂から上がると、マリーはブラシ、サリーはタオルを持って待ち構えていた。椅子に座らされると、2人がかりで髪を乾かしてくれた。サリーのタオルは暖かくて、ドライヤーのような役割をしているようだった。簡易な朝食も準備されていて、2人に髪をセットしてもらいながら食べるのは、お嬢様になった気分だった。
「次はお召し物を選びますわ」
「なにか好まれる色はございまし?」
「千春様ははじめズボンをお召しでしたけど、男装なさっていたのでございまし?」
「千春様の世界でも男性過多化が進んでいたのですわ…」
「千春様、大変な思いをなさってきたのですわ…」
2人にひしと抱きしめられて、慰められる。男性…なんとかはよく分からなかったけど、そんな心配されるほど苦労はしていない。男装していたわけでもない。特に苦労してないよと伝えるも、もう気丈に振る舞わなくていいとさらに慰められた。
「あらマリー、そろそろ本当に時間が無くってよ」
「そうねサリー、急がなくてはね」
「「千春様、今日はマリーとサリーがお召し物を選ばせて頂いてもよろしいでし?」」
急にお仕事モードに切り替わった2人は、手に水色のワンピースを持って笑顔で迫ってきた。
「…お任せします」