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第3話 連れて行かれた先

「なに? 離してください! いや! どうしてーー」



 体が浮くという初めての感覚に対する驚きは大きかった。さらに、他人の意思で身体が動かされること、なによりそれに抗う術を奪われていることは、私にとてつもない衝撃を与えた。数秒前までドッキリ番組だと信じていた私は、この時に初めて、自分がとんでもない状況下にいることに気がついたのだ。周りにいる白い服の人たち、私を抱える黒い服の人に対して、一気に恐怖心が芽生える。スマホを握った手が震え、汗が滲みだす。スマホの真っ黒な画面に写った自分の顔が、にじんでぼやけていく。

 


「ーーごめんな。」



 ぐっと肩を引き寄せられて身体に力が入る。頭の上から聞こえた少し掠れた低い声に、抱き寄せられて感じた温かさに、なぜか硬直した身体が解かされて、震えが少しずつ治まってゆく。男が歩く度に感じる揺れに、私は心地良さすら感じていた。


 私はふと男の肩越しに後ろを覗き込む。広い階段の頂上に、真っ暗な夜空に浮かび上がるような、真っ白いギリシャ神殿のような美しい建物が見えた。私たちが居たのはあそこだろうか? 辺りは真っ暗なはずなのに、私の目を刺した眩しい光はどこにも見つからなかった。



 立派な門を超えて、入り組んだ道をひたすら進み、大きな扉へ通される。そこから、さらに階段を上ったり下りたり、エレベーターのような乗り物に乗ったりしているうちに、周りにいた人は段々少なくなっていった。私が道順を覚えることを完全に放棄した頃、ようやく、一行は両開きの扉の前で止まった。最終的にここまで残ったのは、イズラエルさんと見城さん、白い服の人が2人、黒い服の人が1人、私と私を抱えた黒い服の人だけだ。


 イズラエルさんが扉をノックすると、中から入室を許可するーーと声がする。開かれた扉からは、暗い色のトルコ風の絨毯と、天井から吊るされたシャンデリアを艶々と反射する木の机、重厚な紅いソファがあった。奥のソファに座っていた人達が、手を広げてゆったりと立ち上がる。



「メドベーフィア王国へようこそ、聖女様方。まさか生きているうちにお会いできるとは……。私は、国王のニクレス・デュ・メドベーフィアと申します。こちらは私の息子でございます。」

「第1王子のフォキナ・デュ・メドベーフィアと申します。お会いできて嬉しく存じます。」



 金髪ロン毛の渋いおじ様が王様で、金髪サラサライケメンが第1王子。2人とも深い蒼い目が美しい。我こそは王族ですっていう雰囲気を醸し出している。見城さんがニッコニコで2人と握手している。目の中にハートが見えるよ……。一通りの挨拶が終わったのか、皆が私の方へ向く。



これ、私も挨拶しなきゃいけない流れかな? こんな状態で挨拶して失礼にならないの? この人、もう降ろしてくれないかな?



 私は困って黒い服の人を見上げると、ちょうど目が合った。彼は透き通った碧い目を細めると、少し笑いを含んだ声でこう言った。



「ご挨拶が遅れました。第2王子のクレイン・デュ・メドベーフィアと申します。聖女様。」



 彼は、悪戯が成功したことを確かめるかのように、私の顔を覗き込んだ。目にかかった銀色の髪と、少し上がり気味の眉に垂れ目が色っぽいーー。



うわぁいイケメンだぁ! ……ん? なんて言った? 王子って言った?? この人が?? 体感30分以上は私を運んでいたこの人が??



 自分が王子様に現在進行形でさせている事を思うと、だんだんと血の気が引いてくる。はじめに暴れた時、ケガとかさせなかっただろうか? 



「あの!ごめんなさい!王族の方とは知らなくて、とんだ御無礼を…!あの!ありがとうございました!もう大丈夫なので!降ろしてください!」



 第2王子は私をゆっくりと下ろすと、すっと私の手を取って、止める間も無く唇を寄せた。



「怖がりな聖女様。お名前を教えていただけませんか?」



 彼の顔がニヤっとして、私は揶揄われていることに気付き、少しだけムッとした。あんな状況誰だってビビるから! しかし、決して表情には出さないように、深呼吸して声を出した。



板川いたがわ 千春ちはると申しますーー」



 王様、第1王子様ともどうにか握手を交わし、勧められるままにソファに座る。自分の身体が動くようになっていることに、今更になって気付く。私は自分から親しく話す気力は残っていなかったので、楽しそうな見城さんにお任せする。出された温かいお茶を飲んでいると、柔らかいソファの感触も相まって眠気が襲ってきた。私が3回目のあくびを誤魔化していると、第1王子と目が合った。



「板川様は、大変お疲れの御様子ですね。無理もありません、もう3時を過ぎてしまいました。聖女様方さえ宜しければ、説明は明日にして本日はもうお休みになられては?父上、明日の午後に説明の場を設けてはいかがでしょう?」



 眠たくて仕方がなかったが、説明は早く聞きたい。私はどうにかして目を覚まそうと、手の甲をつねった。



「いえ、大丈夫です。説明聞き…「駄目だよ。今は休んで。…明日の方が十分に説明の時間を確保できます。聖女様方にとっても、心身共に万全の体制で説明が受けられる方がよろしいのではないでしょうか?」



 私の手と声を、第2王子が遮った。私の耳元で囁いてから、第1王子の意見に賛同する、と意見を述べていた。結局、明日(すでに今日だが)の14時に集まることになり、御開きとなった。



 メイドさん(本物!)に連れられるがまま、部屋に通される。ベッドを見つけると、メイク落としも着替えもせずに、靴だけ脱いで横になる。頬にひんやりとしたシーツの温度を感じると、私はそのまま気絶するかのように眠っていた。



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