第2話 困惑
「分かりました! 私にできることがあるなら、喜んで協力します!」
えー!? なんでー!? 普通そんなすぐにオッケーしちゃう!? 世界を救ってーとか言ってるヤバい集団だよ?? ……あ、ドッキリなのかな??
私が現実逃避している間に、2人の話はどんどん先に進んでいった。
「あぁ! 聖女様! ありがとう存じます。人々を救う聖女様は慈悲深い御心をお持ちなのですね」
「困っている人を助けるのは当たり前ですよ! 私、見城 芽衣です! よろしくお願いします!」
「見城様! さぁ、教会へ案内致します。詳しいお話はそちらで致しましょう!」
イズラエルさんは女の子、見城さんの言葉にとても感激したようだ。イズラエルさんが恭しく手を差し出すと、見城さんも嬉々として彼の手を取って立ち上がった。2人はさっさっと楽しそうに歩いていく。私が2人の様子を呆然と眺めていると、正面にいた残りの白い人たちが、笑顔で私に近づいてきた。手を差し出そうとする白い人の動きを見て、私ははっと正気に戻った。
「ーーあの! 私! 行かないです! 家に帰らないといけなくて……明日も仕事あるんで!」
自分で思っていたよりも大きい声が出てしまった。その場にいる全員が私を見た。視線が身体中に突き刺さって痛い。奥にいるイズラエルさんが私から視線を外すと、ゆっくりと見城さんの方に向き直る。イズラエルさんは最大限申し訳なさそうな顔を作ると、信じられないことを言った。
「一度こちらの世界にお呼びした聖女様は、二度と元の世界に戻ることはできないのです」
さっきからせいじょって何? 元の世界? まだその設定引きずっているのか。もういい加減に「ドッキリ大成功!」の看板を持ってきて欲しい。そういえば今何時だろう? 本当にそろそろ帰らないと……明日起きるのがキツいんだけど!
私は段々腹が立ってきていた。
「あの、もう本当に帰してください。許可なくこういうドッキリとかするの、テレビだろうがYouToberだろうが許されないと思います。しつこいと警察呼びますよ!」
近くに落ちていた鞄を手繰り寄せる。スマホを取り出し、いつでも警察に繋げられるように、初めての110番に少しドキドキしながら番号を押す。イズラエルさんは再び私の方を向き、我儘を言う孫を見る祖父母のような優しい目で、「仕方がない子だ」とでも言う代わりにため息を吐く。そして、周りにいる白い人たちに目で合図を送った。それを皮切りに、周りの白い人たちは、じりじりと私との距離を詰めてきた。
「あの、本当に警察呼びますよ! 良いんですか?! 電話かけますよ?!!」
白い人の手が私の肩に触れる直前に、確かに、私は緑色の受話器のマークを押したはずだ。しかし、画面には「ネットワーク接続なし」というポップアップが表示されている。私はそのまま肩を押されて地面に倒れるが、スマホを奪われないようにすぐに地面にうつ伏せで丸まった。急いで110と緑のマークを押すが、やはり、同じ画面が出てくるだけだった。私が何度もやり直している隙に、誰かが私を持ち上げた。
「なに? 離してください! いや! どうしてーー」
暴れて抵抗しようとしたのに、身体は全く動かなかった。それどころか、抱き上げた男が持ちやすいように、私の脚は男の触れた通りに揃えられた。腕も胸の前で組まされ、私はいわゆるお姫様抱っこの形で運ばれていった。顔を上げて見た男は、イズラエルさんと同じ白い服ではなく、黒い服を着ていた。