第18話 私は私
「ぜひ隊員達に声をかけてやって下さい。板川様に応援されれば、寝ずの舞いも頑張れる事でしょう。な、マルタ副団長」
「ええ。皆喜びます!ぜひ!」
私なんかでも応援して喜んで貰えるのなら、いくらでもやりますとも! マルタ副団長と共に隊員達が働いているところにお邪魔させてもらい、挨拶しながら見学して回る。噴水の周りを囲むように祭壇を組み立てている隊員達に、頑張って下さい! と声を掛けていく。皆、作業中にも関わらず、笑顔で対応してくれる。私の方が元気を貰えている気がする。組み立ての終わった祭壇には、果物や盃、お酒等が供えられている。もうそろそろ、水の聖霊の儀式の準備は完了するようだ。
一旦マルタ副団長と別れて、マリーとサリーのいる端に寄って休憩する。マリーが水筒を取り出して冷たいお茶を渡してくれる。冷たくてものすごく美味しい。騎士団の皆さんは1日仕事になるのなら、夜に冷たい飲み物でも差し入れできないだろうか。マリーとサリーに聞いてみると、ぜひやりましょう! と賛成してくれた。ついでに、皆があまりにも私によくしてくれるのはどうしてなのかも聞いてみる。
「それはもちろん、千春様が聖女様だからですわ」
「王国が建国して以来、聖女様が現れたのは今回が初めてですし」
「あとは……千春様が綺麗な女性だからですわ」
「まあ、女が少ないですから、大抵ちやほやされますわ」
ほら、とマリーとサリーが隊員達に手を振ると皆が笑顔で手を振り返してくれた。でも、それはマリーとサリーが可愛いからじゃないのだろうか? 王城からほとんど出ていないからいまいちピンとこない。うーん、とあまり納得できないでいると、クレイン王子が他の小隊の見回りを終えて戻ってきた。王子に何を盛り上がっているのか聞かれ、言いにくくて私が口籠もっていると、サリーが代わりに答えてくれた。
「千春様は、騎士団の皆様があまりにも好意的に接してくると不信がっておいでですわ」
「殿下も千春様に当然のことだとお伝えしてくださいまし」
そんなことを悩んでいたのですか? と驚かれる。3人が結託してこんこんと私に説明してくる。どうやら聖女というのは、ほとんど伝説上の存在らしい。私が聖女になります、と宣言した時点で聖女降臨の儀式なるものが行われ、正式に聖女と認められるらしい。隣国を招いてお披露目会も行い、王国民総出の大きなお祭りになるようだ。そんな大事になるなんて初めて聞いたぞ!?
「メドベーフィア王国建国のきっかけになった存在なのだから、王より尊重されて然るべき存在なのです。皆それが分かっているから、まだ気軽に話せる『聖女候補』の今のうちに板川様にお近づきになりたいのです。もちろん、僕も含めて」
昔々の聖女様は確かにすごい存在だけど、私は何もしていない。してない事に敬われるのは違和感を感じる。私は私で聖女として頑張っていきたいのだ。
「皆が良くして下さるのはとってもありがたいです。……でも、私はまだ聖女として何もしていないです。それに、王国ができたきっかけは聖女様でも、今まで王国が続いているのは国王様や騎士団の皆さんが頑張り続けたからだと思うから。だから、あの、私が聖女になってもクレイン王子には、今と変わらずに話をして欲しいです。もちろん、マリーとサリーも!他の人達にも!」
マリーとサリーが両側から抱きついてくる。私は嬉しくなって2人を抱きしめ返す。クレイン王子は少し驚いたような顔をしていた。何か失礼な事を言ってしまっただろうか? 聖女を軽んじたのは不味かっただろうか?
「……君は不思議な子だね」