第15話 中庭
「やっぱりここ、メイちゃんの言う通り乙女ゲームの世界なのかな」
「絶対!そうですよ!」
メイちゃんのテンションが上がってきた。また出会いを求めてどこかに行きかねないと思った私は、メイちゃんに昨日の授業の復習をしたノートを見せた。そして、内容に間違いや抜けが無いか確認をお願いした。メイちゃんは、すごいすごいと褒めてくれたが、ノートにササっと目を通すと大丈夫ですよ、とすぐに返してくれた。
「ご馳走様でしたぁ。美味しかったぁ」
「ご馳走様でした。ね。美味しかった」
「それじゃぁ、私部屋に戻りますね」
「メイちゃんは、このあとどうするの? 私は中庭の祭壇に行こうと思ってるんだけど。一緒に行かない?」
「うーん。私はもう中庭には行ったんで、別の場所に行こうと思いますぅ。せっかく誘ってもらったのにごめんなさぁい」
「ううん。気にしないで」
「王城のマップ制覇したいんですぅ。また何か分かったら言いますね!」
「ありがとう。じゃあね」
朝食を食べ終わったら、メイちゃんは早々に帰ってしまった。マリーとサリーと一緒に後片付けをして、ゆっくりと3人で中庭へ向かった。
中庭には色とりどりの花が咲き乱れていた。葉で覆われたアーチをくぐって奥へ進むと、噴水があった。さらにその奥に小さな白い小屋がある。丸い屋根が特徴的だ。私は小屋に近づくと裏側に扉があるのを見つけた。少し開いている扉から、中を覗いてみる。中は薄暗く、全体的に青みがかっていた。教会でみた聖霊王の像や火の灯った蝋燭が並んでおり、とても神秘的であった。何より、天井にはめられたステンドガラスが日の光を受けて、青い光の柱をいくつも造っており幻想的で美しかった。しばらく小屋の中で見惚れていると、マリーとサリーが千春様、と焦った様子で呼びに来た。
「第2王子クレイン様の率いる騎士団が、中庭の祭壇で討伐前の儀式を行うようですわ」
「もう騎士団が集まり始めておりますわ」
「千春様、クレイン王子と騎士団の皆様にご挨拶なさられまし?」
「それとも……隠れてお部屋まで帰りまし?」
「千春様は、王国式の挨拶の作法をまだ修得されておりませんから……どうなさいまし?」
騎士団が集まってきているようだ。ちょうど祭壇で儀式をするというのなら、ぜひ見学させて頂きたい! 第2王子は前に会ったことがあるし、作法なんてこの世界に来てすぐのやつにそこまで求めないだろう。たぶん。きっと。作法が完璧でないからってこそこそ帰るのはもったいない。多少の無礼を犯してでも、実際の儀式を見る方が今の私には大事だと思う。
「…挨拶してきます。儀式見せてもらえないかも聞いてみる。最低限の挨拶の仕方、教えて下さい!」
「「お任せくださいまし」」
まずは王子、次に騎士団に挨拶を行う。でも、王子が声を掛けてくれるまで待って、私から話しかけちゃいけない。王子に騎士団に挨拶してもいいか許可を貰ってから、騎士団に挨拶する……。
マリーとサリーが短い時間で、できる限り私に教えてくれた。大丈夫。大丈夫。付け焼き刃だけどなんとかなる。クレイン様がいらっしゃいました、とマリーがコソっと後ろから教えてくれる。よし、行こう。後ろを向いてマリーとサリーに合図し、2人を引き連れて歩き出す。クレイン王子の側近を見つめて合図を送りながら、王子の前に出て行き両手を胸の前で合わせて俯く。どきどきしながら地面を見つめる。
「見違えたね、聖女様。さぁ、顔を上げて下さい。僕に成果を見せて下さるのでしょう?」