第14話 朝食
「……あれ?」
数字も、時間も、そういえば結構前の世界と違和感ないな。……いや、全く同じだ。そもそもなぜ言葉が分かるのか。今まで、何もコミュニケーションで困ったことはなかった。私は日本語を話していたし、相手だって日本語で話していた。でも、ここはメドベーフィア王国だ。王様の名前は……とにかく横文字だったはずだ。それに、王様たちは金髪や銀髪に青い瞳、マリーたちは褐色の肌にピンクの髪だ。マリーとサリーは、まつ毛も眉毛も頭皮の根元も、確かにピンク色だった。生粋のナチュラルピンクヘアーだった。これは、もしかして、もしかするのか。私の中で、メイちゃんの「説」が一気に信憑性を増していった。
私が考え込んでいる間に、支度は整った。マリーとサリーは、見城様をお呼びしてきますわ、というと部屋を出て行った。私はソファへ移動して、テーブルに所狭しと並べられた朝食を見る。メイン料理は蓋がしてあって分からないが、サラダやカットフルーツ、スープなど盛りだくさんだ。端にあるバスケットに掛かった布をよけると、ほかほかとまだ湯気の上がるパンがあった。そういえば、こっちの世界に来てからこんなにゆっくり、ちゃんとした食事を取るのは初めてだ。豪華な朝食を目の前に、待てをするのはとても大変だった。
「千春さーん、お待たせしましたぁ」
「おはようメイちゃん。しっかり休めた?」
「おはようございまぁす。おかげさまで寝坊できましたぁ」
「じゃあ朝ごはん食べよう!もうお腹すいちゃって!」
いただきまーす! と早速メイン料理のふたを開ける。スクランブルエッグとソーセージだ。一気に広がった卵と油のいい匂いを、逃さないように吸い込む。とろとろの卵にチーズも入っている! マリーにパンを取ってもらうと、私はパンを半分に割って卵とソーセージを挟んだ。思いきってかぶりつく。あぁ、最高だ。思っていたよりも卵の味が濃くて、チーズに負けていない。ソーセージの塩加減がちょうどいい。美味しい。反対側から少しはみ出た卵も、溢さないように気を付けながら食べ進めていく。
「千春さん、とっても美味しそうに食べますねぇ」
「だってこれ、めちゃくちゃ美味しい」
「うふ、卵が口に付いてますよぅ」
「こっち?」
「反対ですぅ」
食べ物が胃に入ると、少し頭が冷静になってきた。目の前のご馳走には抗えなかったのだ。私は食べ物の名称を確かめるため、マリーとサリーに、料理の説明をお願いする。
「サラダは、レタスとスライスした玉ねぎ、にんじんを使用しており、シェフ特性のフレンチドレッシングがかかっておりますわ」
「スープはカボチャのポタージュでございますわ」
「メインは、2種類のチーズが入ったスクランブルエッグとソーセージですわ。卵は塩味がついておりますけど、マスタードとトマトケチャップもご用意しておりますわ」
「パンはベーグルとクロワッサンの2種類をご用意しておりますわ」
「果物はオレンジとりんご、ぶどうでございますわ」
やっぱり、食べ物に関しても、見た目も名前も元の世界とこちらの世界で変わらないようだ。私はノートを開けて、サリーに果物の単語を書いてもらう。「orange」「apple」「grape」英語だ! 私は単語を指差して、読んでもらうように頼む。サリーは不思議そうな顔をしながら読んでくれた。「オレンジ」「りんご」「ぶどう」
「メイちゃん、今の聞いた!? この世界やっぱりおかしいよ! 外国なのに日本だし! 日本語で英語なの!」
「わーあ! 千春さん! こんなのいつ気付いてたんですかぁ?」
「今日の朝に! 言葉が通じるのは良いけど、なんだか頭がおかしくなったみたいで……こわいよ」
「うーん。でも、日本人が作った異世界舞台の乙女ゲームならぁ、普通ですよ! むしろ文字も日本語にして欲しいぐらいですよ!」
「……これ、普通なの?」
「大丈夫です。よくあることです。日本の便利な機能はそのままあって普通です。お風呂もシャワーもトイレもほぼ同じだったじゃないですかぁ」
「やっぱりここ、メイちゃんの言う通り乙女ゲームの世界なのかな」
「絶対!そうですよ!」