束の間の安息
時間がなくて2視点しか描けませんでした。午後までにもう1視点追加するのでよろしければ是非
1501年(文亀元年) 9月下旬 後藤城 菊水忠宗
「楓殿、参られたか」
「ははっ、遅くなり申し訳ありませぬ」
そう言って、楓が深々とお辞儀する。
「いえいえ、此方もやらねばならぬ事が御座いましたゆえ丁度良かったで御座る」
「そう言ってくれると助かりまする。それで、どこから引き継げば宜しゅう御座いまするか?」
「そうですな、後は某が殿の下に村長達を連れて行って臣従の契りを結ばせれば良いので御座いまするので…楓殿は残った村民達が変な気を起こさぬようにして頂くのと、この城の防備をして下されば問題よいかと」
「成程、ではその際に一部兵糧を民に放出しても宜しいでしょうか?」
「いや、民に銭を渡して商人に米を売りつけるのがよろしいかと」
「ああ、殿が前に仰っていた銭を回して財政を立て直すという話で御座いますな」
「おお、よくぞ覚えていらっしゃった。それをすれば、商人と農民の何方にも繋ぎをつけやすくなるので御座る」
「ご教示、有難う御座いまする」
「いえ、とんでも御座らぬ。では、某はこれにて」
「ははっ」
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「殿、忠宗に御座いまする」
「連れて来たか?」
「ははっ」
「では、評議の間に連れて参れ」
「承知致しました」
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「表を上げよ。我こそは楠木多聞丸である」
「ははぁ」
そう言って、村長達が深々と頭を垂れた。
「それで、そなた達が我に臣従したいとの申し合わせをそこに居る忠宗から小耳に挟んだが…誠であるか?」
「ははっ、誠に御座いまする。我ら旧後藤氏領の村民一同、身命を賭して殿にお仕えしたき事に御座いまする」
「それで、先程自分達の娘をここに寄越したのだな?」
「はっ、年頃の女子なれば是非にと…」
「そうか、では丁重にもてなさせて貰おうか」
「ははぁ、有難う御座いまする」
1501年(文亀元年) 9月下旬 楠城 楠木多聞丸
(村長の娘か…正直なところありがた迷惑な話ではあるが、受け取っておかねばあの者達も不安に思うだろうな。それを思えば、選択肢はこれしかなかった…か。しかし、どう扱えば良いのやら…。妻にするには年齢が離れ過ぎているし、女中を増やしても意味がない。いや、今回の褒美として未婚の評定衆と婚姻させるか。妾という事にすれば後からでも融通は効くし、これが一番であろうな)
(では、浜田氏を潰した後にでも婚儀を行うか。ん?待てよ…浜田氏の時も今回と同じような流れだったらまた面倒事になるな。敵を潰す度にこんな事をしていては世話ないな…。面倒だし、浜田家の事が済んだらこれ以降は当家は人質を取らないという方針にするか)
(年内に浜田氏が終われば、次は年越し後の年始を狙って浜田城の北部にある赤堀城の奪取を狙う事にするか。そして、赤堀城まで獲れれば半年程再編を行うとしよう。そして、おそらく、来年のこの時期に赤堀城周辺の城を幾つか獲る事になる。そうなると、赤堀城周辺の城はかなり密集しているから廃城にする城も出て来そうだな。そうしたら、楠城や後藤城に資材を送って改修するか)
(そうすると、2年後は基本内政重視となるので…次に大きく動くのは3年後か。その頃には元服の儀を行い、家督相続をする事になるのか。元服と家督相続をすれば否が応でも俺の存在が関氏に勘付かれてしまうな。これ自体は避けられぬ。後は、3年後の1年間を高い位にある公家様方をお呼びして滞在して貰い、関氏が責められない様に封じ込める必要がある)
(公家様方をお呼びする為の交渉は2年後から行う必要があるな。それに、猶予は1年…。1年ならば朝廷を盾にやり過ごせるが、それ以上は厳しいな。となれば、1年で残りの北勢四十八家の大半を潰す必要がある。最低、桑名周辺以外は潰さねばならん。そうなると、一気に潰したいところだが…ここは自力の差を利用して各個撃破が望ましいな)
(各個撃破、それは今回の北勢四十八家征討において遠回りに見えるが…一番の近道だろう。何せ、物量差で押せるので一回辺りの損害を低く抑えられる。そう言えば…孫子の書にもあったな、自己が圧倒的強者であるならば戦っても構わぬと。まぁ、本来ならば戦争をせずに吸収したいところだが、異物が入り過ぎて毒になりかねん。ここは損害を多少被ってでも、確実に毒を抜いてから食べるべきだろう)
(今のところの長期戦略はこんなところで良いな。後は、畿内の大きな流れとして如何に大内と細川の衝突を遅延させるかが肝要だな。先ず、播磨でものを売れなくして一揆を誘発するか。それをすれば、双方が領有しても悩みの種となって迂闊に攻められまい。しかし、それをしても良くて半年と言ったところか…。このままでは少なくとも10年以内には衝突するだろうな。ただし、それは現在の細川体制の首座たる細川右京大夫が斃れればの話だ)
(では、右京大夫は斃れるのか?可能性はありえる。先ず、継嗣問題だ。右京大夫の男色癖が災いして継嗣が養子となっているので今世では権利が台頭と言えよう。そして、その内九郎は焦っておろうな。頼みの綱である九条家が追い落とされたのだから、何としても実権を握らねば後はない。それに比べて、他の養子にはまだ後ろ盾はいる。その上、九郎には養父に毛嫌いされているという噂が立つほど仲は良くない。そうなれば、益々養父を殺して一家を混乱せさねば後継者になる事は出来ぬであろうな)
(つまり、九郎がどこまで耐えられるかが鍵であり、九郎は混乱すれば可能性があると思うだろうが…それをすれば大内に漬け込まれる。つまり、九郎には最初から後継として勢力を保てる可能性は無いに等しいのだ。いや、他の者に継嗣の座を譲っても他からすれば目の上のたんこぶだろうな。そうなると、足並みは揃わず大内には勝てない。なんだ、結局細川の敗北は確定事項ではないか)
(後は、九郎の動向と大内の動向さえ正確に掴めれば畿内の動きは把握したも同然だな。六角は佐々木から分裂して以来、思うようには振るわないと聞く。朝倉は越前を乗っ取って以来二代の名君が続いたが、今は一時的に低迷が続いている。これでは、両家共々脅威にはなり得ぬな。そして、朝倉と六角は双方共に1万余の兵を動かす事が出来る)
(これに対抗するには関氏を潰さねばならん。そして、今の当主は関種盛だったか?菊水衆に寄れば凡庸な武将だとか。内から上手い具合に壊せると良いのだがな)




