鎮西の覇者
遅くなり申し訳ありません。小説の投稿そっちのけで感想して下さった方に返信していたら遅くなりました。
感想下さった方、有難う御座います。また、ブクマをして期待して下さっている方々の為にも精進して参ります。これからも、応援の程よろしくお願い致します。
1501年(文亀元年) 8月下旬 楠城 楠木多聞丸
「殿、ご報告が御座いまする」
そう言って、小走りをしながら近づいて来た。
「申せ」
「播磨にて干ばつが発生した模様に御座いまする」
「播磨?一体何故?」
「原因については解明中に御座いまするが、恐れながら…解明の糸口が見えず。面目御座りませぬ」
「いや、原因は二の次で良い。今はな。それよりも、当家に影響は無いのか?そちらの方が重要だ」
「はっ、されば影響は現在確認されておりませぬ」
「ならば、よし」
(播磨か…。あの地はその大半が山である事から兵糧が得られるのは南部の平野に固まっていたはずだ。そして、今の播磨は勢力が分散している…か。細川が手を伸ばす可能性がありそうだな。いや、大内も場合によっては?何方にせよ、両家に手を伸ばされた挙句戦になりました…では笑えぬ。理想は漁夫の利だ。そうなるまではなんとしてでも両家が接触出来ないように妨害せねばならん。しかし、どう妨害するんだ?今は朝廷という手札を切れない。となると…)
「忠宗、今動員出来る菊水忍軍を総動員させて播磨に向かわせよ。そして、食い扶持を失った者は全員攫って来い」
「はっ、されど当家に養うだけの余力は御座いませぬぞ?」
「いや、ある。策ならな」
「左様に御座いまするか。して、どのように対処なされるのに御座いまするか?」
「簡単な話だ。丁度、鎮西で戦が起きているだろう?朝廷を巻き込んだ大戦がな。そこに、布や米が要るとは思わぬか?」
「まさか…!大内に御座いまするか?」
忠宗が驚いた様子で返答する。
「忠宗、貴様は戦が好きだったな?喜べ、鎮西の大戦を荒らす事を許す」
「有難き、幸せに御座いまする」
(いや…そこは否定して欲しかったのだが…。全く、出会った頃の血の気の多さが抜けたと思ったらこれか。結局、こいつは狂人ではないか。まぁ、良い。上手く行けばかなり儲かる。先に起こした大内の鎮西の覇権継承戦争で大内側と抵抗勢力双方に物資を提供する。まさに戦争商売だな。いつの時代も、戦が一番儲かるとは皮肉な事だ。算盤を大雑把に引いただけで少なくとも当家の財政1年分の余力がこの商売で得られるとは…。戦争で一国の安全が担保されるとは皮肉な事だ。全く)
「では、行って来い。それと、攫った者は運搬の小間使いにせよ」
「ははっ」
(人攫いに戦争を煽る。非人道的な事をする程当家が潤う…皮肉だな。まさに、人柱と言ったところか)
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(さて、溜まった報告書に目を通すか。なになに?後藤家は不満がかなり溜まって来て何時でも一揆が起こせるか。では、鎮西での件であらかた儲かったら扇動でもするか。それと、裏で政策に関する密約を結ばせておくか。たとえば…四公六民とかな)
「あ…そう言えば、税制を四公六民に切り替えるのを忘れていたな。後で、楓に指示を飛ばして民に広めておかなければな」
(いや、浜田家の方も同時多発的に反抗させるか。幸い、唐土の弩というのを発見したという報告は上がって来ているので…後はその設計図を持って来れば事が運べるな。出来れば、元旦の奇襲をしたいところだな。それと、米を両家から高く買っておくか)
「さて、兵の様子でも見に行くか」
1501年(文亀元年) 9月上旬 馬ヶ岳城 大内義興
「大御所様、毛利が此方に加勢致しましたぞ」
「なんと、誠であるか?ようやった、左京大夫殿!」
そう興奮気味に俺の言葉に反応したのは前将軍である足利義材である。
(さて、毛利がこちらに着いた以上は後顧の憂いもなくなった。ようやく、煩わしい鎮西の羽虫共を消せるというものよ)
「では、これより鎮西最終戦争を開始する。者共、弓を持て。鎮西から戦を根絶させるのだ、大御所様の名の下に」
「おう!」
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豊前国中津にて大内軍1万5千対大友・少弐率いる連合軍2万相対す。
「中央軍、弓引け!敵を射かけよ!」
大内義興の号令と共に矢と法螺貝の音が飛ぶ。そして、程なくして矢が風を斬る音が彼方此方で聞こえる。
「申し上げます!お味方、敵に攻めかかりましたに御座いまする」
「よし、よくやった。それで?最近、取り引きしているという商人からの補給物資は滞りなく来ておるのか?」
「はっ、運搬まで全て委託したところ…中々の手際で運ばれて来ておりまする」
「ならば、良い。本隊を小分けにして隣にある山に伏せさせよ」
「ははっ」
(1万5千と2万か。自力では厳しかろう。何もせねばこのままある点までは押すがやがて押されて負ける。兵で劣る我らが勝つには相手に勝っているという流れを意識させねばならん。勝負事の鉄則として、流れは非常に重要だ。そして、勝っている分には自力以上の力を引き出してくれる反面…体力の減りが尋常ではない。つまり、兵が厭戦気分に陥る速度が早まるという事だ。だからこそ、工夫し効率的に勝たねばならん)
「尾張守、敵はどれほど損害を被れば撤退すると思うか?」
俺の問いに対して陶興房が少し思案する素振りを見せて答える。
「されば、敵兵2万のうち5千削れば確実に御座りまする。その半分でもかなりの動揺を引き起こせまするな」
「では、後者の時点で乱破を飛ばす。前者になれば突撃だ」
「ははっ」
「報告致しまする!中央軍、苦戦!至急応援をとのに御座いまする」
そう言って、使い番が陣幕に入って来た。
「成程、敵は中央軍の兵力が少ない理由は毛利の憂いから来ていると踏んで突貫しに来たか!」
「殿、如何致しまするか?」
「うむ!では、全軍…引け!」
「は…?殿何を…?この場面ならば、左右軍に兵を出して包み込むように殲滅致す事も可能に御座りまするぞ?」
「戯け、それをしたところで敵の流れは折れんわ。ここは敵に追撃する格好をとらせて体力を減らすのが先決ぞ」
「ははっ」
「では、続け!全軍、撤退せよ!その間、周りの軍とは間隔を空けておけ!」
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「よし、頃合いか。全軍、反転し背を狙う敵に反抗せよ!」
「おう!」
(怒号が近い、敵は目下まで来ていたか。危うく、足元を掬われるところだったな。後は、流れが一度停滞した事が確認出来次第、山に伏せている軍に横っ腹を突かせるか)
「気概を見せよ!西を制する我らの力はこの程度か!ここで踏ん張らねば、勝てるものも勝てぬぞ!」
俺の檄に家臣達が呼応し、その鼓舞が兵に伝播する。すると、程なくして旗の柄が此方側に向いた。
「今だ!山に兵を飛ばせ!敵の腸を引き摺りおろせ!」
そう言って、使い番をしてから程なく、山から怒声を上げて兵士が下って来る。連合軍の横っ腹目掛けて。
「時は今、全軍突撃!大内家の栄光に身を捧げる時は今ぞ!」
俺の合図と共に、一斉に目の前の敵に向かって猛然と兵が襲い掛かる。
「御館様の為に死ねる事、武士の誉なり!死ねや!」
彼方此方で怒号に似た雄叫びに人間の絶叫が混じったような音がする。視界が白い、義興は己の体力の限界を悟りながら刀を振るい敵を斬る。
「俺は、勝つ…勝って、この地の覇を掴む!」
その気迫に押されたのか、じりじりと敵が後ろに下がっていく。そして、遂に連合軍から脱落する者が現れ、崩壊する。ここに、鎮西における公儀連合軍は崩壊し大内家の九州における覇権が確実となった。
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