執政
第二章開幕
1501年(文亀元年) 7月 楠木多聞丸
「……揃ったな」
「はっ、全員揃いましたに御座いまする」
「では、先ずの帝の第一皇女たる覚鎮女王様の件だが、どうなった?」
「はっ、それに関しては麿からお答え致しましょう」
「頼むぞ、鷹司給事中」
「はっ、されば常盤井宮様との婚姻になりますれば、年齢差が適当でないという事と二条殿に親がなく若年であるという事から、第一皇女様の親王宣下を経た後に二条様と婚姻なさる事に相成りました」
「待て、それでは宮様のお相手はいなくなったという事にならぬか?」
「そういう事になりまする…宮様の格に合う娘など早々おりませぬゆえ…」
「されば、我が姉が今年で13になりますれば…これをなんとか利用出来ぬでありましょうか?」
「ふむ…兄上に申し伝えてみるでおじゃるの」
「頼むぞ。それと、まだ屋敷に上宮様が居られになっていたな。我も後で聞くとしようか」
「よろしくお頼み申しまする」
「それと、一条殿下の事はどうなった?」
「はっ、さればあの件以降に、一条殿下に御息女がお産まれになりまして、一条殿下の御息女と帝の皇子が婚姻する事で相成りましたでおじゃる」
「そうであったか。では祝いの品を送っておいてくれ。代金は決まり次第報告して欲しい」
「承知致しました」
「では、次に組織機構について、そしてその役職の配役、法令の明文化を行いたいのだが…何分、見て分かる通り人員の絶対数が少ない。そこで、宮様に急遽お頼みし、公家方で来て頂ける方を呼び寄せて頂きましたゆえ、ここに呼ぶ。忠宗、連れて参れ」
「ははっ」
「なんと、誠にごじゃりますか?手の早い御方でおじゃる」
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「殿、お連れ致しました。」
「左から順に、三条亜相様とその子女様、西園寺右大将様とそのご子息様であらせられる藤丸様、そして…伏見宮邦高親王様……」
「待て…貴様、伏見宮だと?何故今更そんな話が出て来るのだ?断絶を免れた宮家は報告せよと命じたはずだが…何をしていた?」
「と、殿…今は公家様方、宮様方の御前になりまするぞ」
そう、権丸が助け舟を出したが…。
「黙れ、小童!我が配下だと思うなら腹を切れ!宮様が…皇族が我の何だと思っているのだ!腹が切れぬと言うなら俺が叩き斬ってやる!」
「お鎮まり下され、今ここで菊水様を失うは一千の精兵を失うと同義…!ここは、堪えて下され!」
「貴様、それでも摂家の人間か!恥を知れ!皇の御一族とは、この日ノ本を創成した止ん事無き一族の後裔であるぞ!それが、愚かにも武士の勝手で辛く苦しい生活に耐え…亡き帝もそのような中で民草の平穏を願い続けた御方である。そして、帝もまた、身分の低い我を拾って下さり…頼っても下さった……。その御恩を唯一返せる方法で何故しくじった!恥を知れ!そして、楠木の一族に侍るならば覚えておけ!帝の僕に非ずんば楠木に非ずとな!」
「ははっ!」
「忠宗、貴様はここで殺さん。その代わり、死ぬまで止まる事を許さぬ。帝の為、朝廷の為に一心精進し我が前に侍り続けよ」
「ははっ、この忠宗末代までお供致しまする…!」
「……では、続けよ」
(必ず、守らねばならんのだ。我が一族は帝に拾われ世に出る事が罷り成った。帝が我らを拾って下さらねば、ただの悪党として生き…世に出る事も出来なかっただろう。故に、我は帝の懐刀として生きたのだ。にも関わらず、南朝を守る事が出来なかった。帝の懐刀の名折れであろう。帝の御一族を守れずして何が懐刀だ!何が忠臣だ!ふざけるな!ここまで帝を朝廷を苦しめたのには我が原因であろう。あの時…足利を仕留めておけば……!いや、今更か…。最早後の祭りであったか。今世はもう、容赦せぬ。皇族、公家を徹底的に守って公儀に関わる者達全て根切るのみ……。足利、決して許すまじ…)
「はっ!されば、伏見宮様の御子息、御息女であらせられる…貞敦親王様、海王宮様、玉姫宮様に御座いまする。更に、正親町三条様、冷泉様、そしてご子息であらせられる歌麿様…尊麿様、孝麿様に御座いまする。甘露寺黄門様とそのご子息様であらされる空丸様、時丸様に御座いまする。勧修寺宰相様とその子女であらせられる広子様に御座いまする。そして、竹内様とその兄弟であらせられる為治様に御座いまする」
(清華家と羽林家、名家と言ったところか。年齢は一番左から、32歳、12歳、46歳、15歳、45歳、13歳、11歳、6歳、1歳、21歳、51歳、11歳、8歳、4歳、45歳、10歳、3歳、49歳、16歳、36歳、38歳と言ったところか」
「そして、後ろ手の左から戻りました五辻六位蔵人様とその弟様であらせられる紹仲様に御座いまする。東坊条城宰相様とそのご子息であらせられる長敦様、和丸様に御座いまする。吉田兼倶様とそのご子息様であらせられる兼致様。そして、兼致様のご子息であらせられる兼満様、兼賢様。更に後ろの左手に戻りまして…卜部兼永様、清原宣賢様に御座いまする」
(順に、14歳、11歳、41歳、18歳、9歳、66歳、39歳、34歳、26歳、16歳、15歳と言ったところか)
「では、改めまして…某は、楠木多聞丸に御座りまする」
1501年(文亀元年) 7月 伏見宮邦高親王
「では、麿から話させて頂きまするの」
三条亜相がそう言う。
「では、お願い致しまする」
「麿は娘が多聞丸に大層興味を持っての、出来るならば側にいて見ていたいと言って聞かぬのじゃ。それゆえ、一度多聞丸を見て判断しようかと考えておったのじゃが…少なくとも朝廷に対して忠義が厚い人だとは分かったでおじゃるの。それに、噂通り歳不相応な言動をする事もの」
そう言って、目の前の童子を揶揄った。
「そうで御座いまするか、一介の弱小領主に過ぎぬ某に興味を持って下さるとは…有難き幸せに御座いまする。では、次は…」
「麿が行こう」
「……では、伏見宮様お願い致しまする」
「単刀直入に言えば、麿の子らを特に海王、文奥の二人は主の下に置いて頂きたいのじゃ。親ながら、情けない話ではおじゃるが…麿には二人を俗世に引き止められる力がないのじゃ…そして、このままでは二人は出家するしかない。そう悲しんでいた折に多聞丸、そなたの話を聞いたのじゃ。聞けば、帝の事を健気に想い…朝廷の為に働こうとする大楠公以来の良き武家じゃとか…。その話を聞いた時耳を疑ったわ。摂家の者や常盤井の宮殿が口を揃えて同じ事を言うのじゃからな。じゃから、麿はこうやって主を確かめに来た。我が子を託すに相応しいかを。そして、先の言動を見て…麿は決めたの、多聞丸…主に我が宮家の命運を託すと。最早、公議は頼れぬ。そして、今世の朝廷には財と武を持つ武き者が必要なのじゃ。さればこそ、財を既に持つ多聞丸がやがて武を持つじゃろうと踏んで…麿は賭ける。多聞丸にの」
「宮様、お任せ下され。この多聞丸…何人も宮様のご子息に傷を付けさせるような事はもう致しませぬ。苦しませるような事もさせませぬ。万事、この多聞丸にお任せあれ。
(もう…?)
「いや、しかし立派な童じゃ…先が楽しみでおじゃるの」
「そう言って下されば幸いに御座いまする。さて、次は…正親町三条様お願い致しまする」
「麿は鷹司門下給事殿のように多聞丸様にお仕えしたく存じまする。麿は、兄が家督を継ぎ妹が鷹司内府様に嫁いだのでおじゃるが…麿には何もないのじゃ。このままでは、麿が今世にいた事は伝わらず、いつかは忘れられてしまう……そう思うと日々が恐ろしかったのじゃ。そんな時、麿はそなたの事を小耳に挟み…最早麿が後世、今世を立派に生きたと思い出して貰うにはここしかない、そう思いここに来たのじゃ」
「成程、了解致しました。では、次は冷泉様お願い致しまする」
「うむ。麿は伏見宮様と似た考えじゃな。麿も沢山の子宝に恵まれたの。しかし、その子らを長く養って行けるだけの財が麿にはないのじゃ…。さればこそ、鷹司門下給事殿の例を聞き…是非とも我が家を同じかたちで助けて欲しい。そう思いここに来たのじゃ」
「承知致しました。我が家の門は何時でも歓迎しておりまする。さて、次は甘露寺殿お頼み申す」
(やはり、どの家も困窮は激しいの。やはり、武家達の横領が原因じゃな。分かっておった事じゃが、ここに居るものの大半は…この誘いがどれほど嬉しい事か…。子を俗世から切り離して、子の望みを叶えさせてやれぬ苦しさを…兄弟を尻目にのうのうと生きる苦しさを…。それが解消される事がどれほど喜ばしいか事か…。帝が事ある毎に仰られる”民草の為に”という言葉は理解出来るでおじゃるが…やはり、自らの事で手一杯なのにそれを更に広げよというのは…酷でおじゃるの。勿論、帝のいう言葉は正しいでおじゃるが…正しい事を言うのとするのとでは重さが違うの)
「甘露寺家としては来る前に兼倶殿とも話したでおじゃるが、先に述べた冷泉どの達同様に家督を継げぬ子に俗世から切り離させないかたちでどうにか居場所を作ってやりたいのじゃ。麿達が望むはそれだけなのじゃ。どうか、願いを聞き入れてはくれぬかの?」
「では、一つ皆様方にもお聞きしたい。皆様方は甘露寺様のような理由で来られたので御座いましょうか?」
そう多聞丸が言うと、皆が肯定するかのように頷いた。そうすると、多聞丸が大きく息を吐いてこう言った。
「さらば、次からは極力同じ意見や理由を言う際は言葉を纏めてお願い致しまする。それでは、我が家に仕えてくれるという子息子女様はそこの権丸なる者に着いて行き決められた部屋でお待ち下され」
そういうと、権丸なる者が合図をして子らがそれに続いて行った。
「では、皆様方には今後の説明とそれぞれここに残られる子息子女の特徴をお教え下され。それと、ここに残らぬ子子息子女様方は、あそこに居る楓という女に続き決められた部屋でお寛ぎ下され」
そういうと、部屋からはポツポツと人が消えていった。
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