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文亀政変

今回で長かった文亀元年6月が終わります。

1501年(文亀元年) 6月 安富元家






「それで、話とはなんじゃ安富殿」


「はっ、されば…此度の一件にて公儀が動けなかった弁解をさせて頂きたく存じまする」


「弁解?何を今更…それに、動けなかったのではなく、動かなかったの間違いでおじゃろう?」


「確かに、そう解釈されても致し方ない。しかし、そのような事…我らが一番理解しておりまする」


「では何か?麿達の反応を楽しんでおじゃったとでも言いたいのか?」


「いえ、違いまする。我らが動けなかったのには九条様が関係しているので御座いまする」


「関白が?確かに、今回の関白は妙に噛み付くとは思っておじゃったが…」


「言うよりも、見る方が早いでしょう。此方の書状をご確認下され」

そう言って、関白からの手紙を一条太閤殿下に渡すと…その顔が見る見るうちに朱色に染まっていった。


「なんじゃ、これは!?帝を愚弄するにも程があろう!それでも、あの男は関白か!あの小童め!」


「ご理解頂けましたかな?無論、幾ら九条家の要請があったとは言え…結果として帝の灯火を軽んずるように見える行動を取ってしまったのは事実に御座いまする。されば、朝廷への献金という形で公儀とは一度手を打って頂けぬでしょうか?」


「麿の独断では、決めかねるゆえ…一度話は朝廷に持ち帰るでおじゃるが、少なくとも関白は厳しい処遇にはなるでおじゃろうな」


「一条太閤殿下、もし某をお連れして下されば…九条様が嘘を申したとしてもお助け出来まするぞ」


「う、うむ。頼りにしておるぞ。必ずや罪を認めさせねば…先の帝に申し訳が立たぬのじゃ」


「では、ご連絡…お待ちしておりまする」


「うむ」



_________________________________________________



(さて、帰城するかの。今回の一件で多少朝廷が揺れるのは必定。さればこそ、好都合というものよ。朝廷が内の混乱を鎮め新たな帝の下で体制を固めるには数年は要すであろうな。その間に此方は対大内対策を練れるな。それと、当分は朝廷には触れずに泳がせておくのが吉だな。恐らく、ボロが出て…大内と朝廷の繋がりが浮き彫りになるだろう。そこを、突いて大内の内部情報を掌握しに行く、あるいは逆に虚報を流しての撹乱も見込める。いい流れだ。この調子で内衆の会議も纏まってくれると良いのだがな)






1501年(文亀元年) 6月 近衛尚通






「では、これより…御前会議を始めようではおじゃらぬか」

そう、関白が告げると、突如一条太閤殿下が口を挟んだ。


「待つのじゃ」


(どうしたのじゃ?)


「ここに、相応しくない者が紛れておる。その者を廃さねば、朝廷の秩序が保たれぬ」


「それは、御自身の事を仰っておるのでおじゃりまするか?太閤殿下」


「そうじゃな、尋常の御前会議ならば麿の存在は少々場違いじゃろう。しかし、関白…主にだけは言われる筋合いは無いわ!帝の崩御を望む関白にはのう!」


「なっ!?」「誠でおじゃるか?!」


「この手紙を見よ!この花押、筆の運び…全て主からの手紙と一致しておる!この男は、関白という地位を利用し自ら掘った墓穴を帝の灯火で穴埋めをしようとしたのじゃ!」


「こ、これは…」「…誠に御座る」

そう、常盤井の宮様と鷹司殿がそれぞれ口にしていた。


「これは、崇峻帝の某重大事件以来の大罪でおじゃる!ましてや、関白ともあろう者が帝の崩御を望むなど言語道断でおじゃる!」


「違うのに、御座いまする!これは無理矢理かかされたのに御座いまする!これをせねば、式の銭は出さぬと細川に脅されたのでおじゃる!」


(そのような言い訳が通じると思ったか!恥を知れ!この愚か者めが。そのような子供騙しの事を申して、帝を愚弄するおつもりか!)


「関白、朕の父は主を許した。されど、自らの罪を先の帝の慈悲で赦された事を忘れ…剰え、慈悲深き先代の顔に泥を塗り罪を重ねる主に、そしてそれを止められぬ主の父にこの朝廷に関わる資格はない。去るが良いでおじゃろうて」


「帝……!」

関白の悲痛な叫びが内裏にこだました。


「認めよ。関白。さすれば、麿も潔く引こう。されど、引けぬなら最後の手段を使わざる負えぬ」


「宮様…近衛殿!麿は…!」


「……」


(宮様が首を横に振られたか。ま、当然よな。ここまでの証拠が揃ってなお無罪である事を主張するのは愚行としか言いようが無かろう)


「救えぬ御人でおじゃるな、関白は」


「もう、良かろう。一条殿、昨日言っておられた御方を連れて来て引導を渡した方がよいでおじゃろう?何せ、これ以上は時間の無駄じゃし…何より、同じ摂家の人間がこれ以上醜くなっていく様子を見るのは見るに堪えないのでおじゃる」


「そうじゃな、左府の申す通りじゃな。では安富殿入って貰えるかの?」


「は……?安富、だと…?」


「哀れですな、何とも。そして、摂家を名乗るに相応しくない愚かさで御座るな」

そう言いながら安富殿は関白を冷笑した。


「ホホ ホッホッホッホッホホ!」

太閤殿下が安富殿の言葉を受けて口元を隠してお笑いになった。


(誠に簗にかけられているのに暴れる魚よ。そう思えば、滑稽な男だ)


「麿を裏切ったな、武家風情が!許せぬ!」


「ホホホ! やっと本性を表したか、頭の回らぬ九条殿!今、お主は自らに非があると言ったのと変わらぬ事をしたのでおじゃるぞ!」


「帝、最早裁定は下されたも同然に御座いまする。ここは、厳しく断罪を」

そう常盤井宮様が提案した。


「そうじゃな、これ以上同じ問答を続けるのは疲れたでおじゃるの」


「では、朕の裁定を下す。先ず関白。主は最も悪辣な男じゃ。ゆえに、関白の職を免じ、従一位の位階も剥奪の上で畿内からの永年追放に処す。そして、その父は親としての責務を果たさぬ悪辣な男として、禁錮5年の後に畿内から永年追放致すものとするのじゃ。そして、太閤は幾ら糾弾の為とは言え御前会議の基本原則を犯したのじゃ。これを帳消しにする事までは出来ぬ。ゆえに、向こう一年間の出仕を停止とする。それでよいかの?」


「なんとも、多大なるご配慮を…有難き幸せにおじゃる」


「帝、公儀やそれを取り計らった細川に対しては如何致しまするか?」


「ふむ…如何致そうかの」


「帝、麿に一つ考えがごじゃりまする」

そう言って、それまで沈黙を守っていた鷹司丞相が口を開いた。


「申してみよ」


「されば、太閤殿下には実子がおりませなんだ。そこで、帝の御子息であらせられる第三皇子様を一条家の次期当主とし後成恩寺様を母父にもつ某に娘が出来た折に婚姻させて頂くのでおじゃる。さすれば、第三皇子様が太閤殿下の御養子という事で殿下の面目も保てるのでおじゃる。そして、九条家には左府殿の弟君である良誉殿を養子という形で一時的な当主とし、左府に次男三男などの子息が出来れば良誉殿の養子とし、唐橋殿の娘が出来た折に妻とすれば良いかと。また、細川九郎の子女も一度は考えたのでをじゃるが…武家からは好ましくないでおじゃろうから、唐橋殿とが出来ない際にお頼みすれば良いでおじゃる」


(なんと…!帝の御子息が!それに麿の親族からもじゃと!?)


「なんと、それは可能なのか?確かに、朕の子が僧にならなくて済むのは嬉しいのでおじゃるが…。儀式は大丈夫でおじゃるか?」


「無論、銭に関しましては此度支援した者に一応話は通して一応の了承は得ておりますゆえ…大丈夫でおじゃるかと」


「されば、帝…この話も御前会議で話してみては?」


「そうでおじゃるな。では、安富筑前守…九条父子の正式な通報先が決まるまで、任せておくの。それと、太閤世話になったの。養子の件は日を改めて人を使わすの」


「はっ、承知致したのでおじゃる」

TwitterID

@Akitusima_1547

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