0-7 窓を開けて朝焼けの空気を取り込む
身を刺す氷海に飛び込むように
……お久しぶりです。
前の話の前書きで書いたことは何だったのか……。
設定と登場人物が目白押しです。
大体作者のせいです。ごめんなさい。
「まず初めに、君はガソリン──────燃える水についてどれくらい知っているかな?」
燃える水。ガソリン、またはペトレル。
地下深くから噴き出す、黒い油を精製することで出来ると言われています。
黒い油は採掘される場所は各地に点在していますが、東方の砂漠地帯に大きく偏っているそうです。
鋼鉄の時代と呼ばれる、かつて存在したとされる古代文明では盛んに活用されたとされています。
「それじゃあ、鋼鉄の時代について説明してくれるかな?」
鋼鉄の時代の人間──────鋼鉄の種族は全ての神秘を駆逐しようとした、と聞いています。
夜を昼のように光で満たし、昼を夜のように黒く染め上げた、空を雲で満たして昼夜を曖昧にした。
稲妻を人の手に落とし、海の底に光を灯し、地の底にまで足を運び、天の果てにまで手を伸ばした。
燃える水を鋼鉄の鳥に飲ませることで、音より速く空を飛ぶことが出来た。
稲妻の力を鋼鉄の道具に与えることで、様々な使い魔を作ることが出来た。
最後に死を克服しようとしたものの失敗した。または成功したものの死ぬ事も生きる事も出来なくなって、滅んだとされています。
他の滅んだ理由には、鋼鉄の斧で木々を切り倒し続け、最後に天と世界を支える世界樹と呼ばれる大樹までも切り落としてしまい、落ちてきた太陽に焼かれた──────なんて伝承もあります。
私たちを若葉の時代と呼ぶのは、こちらの説に由来しているとか。
切り落とされた世界樹から伸びた若葉から私たちが生まれたそうです。
「随分と詳しいね。
それじゃあ次は謎掛けと行こうか。
朝方は四本足で歩き、昼は二本足、夕方は三本足になる。
さぁ、これは何だ?」
……人間、でしょうか?
「おー、一発で当てるか。
もしかして誰かから聞いた事があるのかな?」
そうなのかも知れません。
人の一生を太陽の運行に例えるのは不思議な感じがします。
「元の逸話を考えると面白くてね。
異世界における二つの神話に跨っているから、繋ぎ合わせると楽しい。
人間は生まれるのは、夜明けに似ている。何かが起きそうな夜明けの風は産声に似ている。
生後間もない赤ちゃんは初め起き上がれないが、やがて四本足で歩くようになる。これは日の出が終わるまでだと考えることも出来るだろう。
太陽が全て顔を出した頃。これは二本足で立ち上がった事に対応できる。
昼頃になると太陽は天頂に座し、強く照らすになる。この頃は30代くらいかな人間の全盛期だろう。
やがて日が暮れると、太陽の輝きも陰ってくる。だが、その暖かさは残っている。肉体的な全盛期を過ぎた人間でも、知識や経験は若者に勝る。
やがて、陽が沈みだす。この時、人は杖を突いて3本足になる。
──────そして、日没のように死ぬ。残光と日暮れの風が物悲しいのと似ている」
……。
「人は眩しいよ。人は正しく太陽で、星だ。
たくさんの人が集まって眩い銀河を作る。
その輝きは人によって──────観測する人によって異なる形相を見せる。
視る位置が違うから当たり前と言ったらソレまでなんだけどね」
──────テラ、さん。
「おっと、脱線したね。
えーっと……それじゃぁ、地球が丸い事を証明してくれないかな?」
地球が丸い事ですか?
そんなの、月食を見れば一目瞭然なのではないでしょうか?
月に映る地球の影を見れば、地球が丸い事は分かると思います。
「おっと、そうだな。
だが、それだけじゃぁ地球は円盤かも知れないよ」
円盤だって丸いですよ。
初めから球である事を証明しろ、と言ってください。
それでは、水平線に沈む船。それは遠近法によって永遠に小さくなる事で見えなくなるのではなく、船の底から見えなくなっていき、最後にマストが消えます。
これは地球が球状になっている事の証明になります。
星の位置を使っても良いでしょう。
南と北では見える星座が異なります。これも地球が丸くないと起こりえない現象です。
これでも屁理屈を言うのでしたら、空を飛べば一瞬で分かるでしょう。
先の説明を組み合わせる事で少なくとも半球である事は示せたはずです。
それならば、半球の端までは安心して移動できるはずです。
その場所で、再び地球が半球である事を示せれば、地球は球状であることを示せるはずです。
「ふふ、随分と楽しませてくれる。
素晴らしい知識だな。質と量を兼ね備えている。
この年でここまでの見分と弁術を持つとは……うん、手放すのが惜しくなるな。
本音を言うと、もう少し遊びたいのだが──────」
──────ポーン、と呼び鈴代わりの電子音。正確には電子音のような音。
「──────残念だが来客だ。
そうだな、1から100までを足し合わせて待ててくれないかな?」
──────5050!
「エクセレント」
†
テラさんは笑みを浮かべて「それじゃ、退屈かも知れんがちょっと待ってくれ」と言って、ポンポンと頭に数度手を乗せた後、私に背を向け扉の方に向かう。
そして、昨日会った車掌と話し部屋から出ていく。
バタン、と。扉が閉まる音が響く。
あっという間に自分だけになってしまった。
ガタンゴトンという列車の音が大きく聞こえる。
この部屋の天井はこんなに高かったのだろうか。
……退屈だ。
テラさんと話をしていた時、この部屋は星空を閉じ込めた宝箱のように感じていた。
でも自分だけになった途端、冷たくて何もない広いだけの伽藍洞になってしまった。
「……折角だから、部屋の中を見て回ろう」
そう言って、ベットから腰を浮かせ、部屋の中を探索する事にした。
この部屋には色々なモノがある。その中には面白いモノだってあるはずだ。
だったら何もしないのは勿体ない。自分しかいないのだから、モノを壊したりしなければ問題ないはずだ。
だから見に行こう。見に行こう。見に行こう!
「……なんで、動けないの」
足が動かない。
なんど言い聞かせても動かない。
重くて冷たくて、石になってしまったのかもしれない。
動かない、動かない。
どうして、どうしてなの。
次第に部屋の中が白くなり、耳鳴りが聞こえてくる。
あぁ、これはマズい。
テラさんは『退屈かも知れない』と言った。
私も退屈だと思った。
でも違う、これは退屈なんじゃない。
「わたし、なにをしたらいいんだろう」
歯がかみ合わない。
うまく息が出来ない。
頭を抱え、体を丸める。
何も見たくない、聞きたくない。
だって、ソコにはなにもない。
いや、なにもないワケではない。
この部屋にはいろんなモノがある。
だから、なにもないのは、わたしの方だ。
だって──────だって、わたしには何もない。
せかいが、まっしろにとけていく。
『──────』
声が聞こえた。
「テラ、さん」
顔を上げる。
視界が歪んでいることに気づき、目の周りを拭う。
大きく深呼吸。うん、大丈夫。
これなら、テラさんは心配しない。
「テラさ──────」
呼び止める声が途中で止まった。
『それで、どのような──────』
『そうですね──────』
テラさんだけじゃない。
女性の声。テラさんが言っていた洋服屋の人だろうか。
扉の向こうで話しているせいか、風音と列車が枕木を踏む音に紛れて二人の会話の内容は今一つい聞こえてこない。
聞こえてこないが、随分と楽しそうに話している。
……何だろう。正直、面白くない。
これは、嫉妬だろうか?
「ステラー、入って良いかなー?」
考え事をしていたら、突然呼びかけられた。
「え?あ、だ、大丈夫です」
「はいよー」
そんな気の抜ける返事を返して、テラさんと洋服屋の女性が部屋に入ってくる。
「──────この子ですか」
「そうです。退屈はしないでしょう」
「素晴らしい素質ですね。全力を出せそうです」
茶色の髪をまとめ、作業がしやすそうな格好をした女の人。
……何となく目が怖い。
「これは手付金です」
そう言ってテラさんは、大金貨(小金貨10枚。小金貨1枚で節制に努めれば1家族が1年ほど、贅沢をしても3か月は暮らせる)を数枚手に握らせる。
「それでは、よろしくお願いします」
そう言って、私の頭を撫で、テラスに続く後方のドアに向かおうとする。
「テラさ──────」
「あ、そうだ」
呼び止める声が、再び遮られる。
「何だい、ステラ?」
「あ───」声が出ない「───いえ、何でもない、です」
「そうかい」よしよし、と私の頭を撫でる。
「テラさん」
「退屈な思いをさせてゴメンな。洋服を選び終えたらご飯を食べに行こう」
「……楽しみです」
紛れもない本心だ。それなのに一瞬、声が出なかった。
テラさんは「寂しかったかな」と苦笑いを浮かべ、膝をついて目線を合わせる。
「ゴメンな、ステラ。オジサンが悪かった」
「……別に、そんな、誤ってもらう事じゃないです」
「まぁ、その、なんだ」私の応えに苦笑いがもっと困ったような苦笑いになる。眉間にしわの寄った顔で考えこみ呟く「洋服」
「洋服?」
「洋服、楽しみにしてる」
……。
「正直、オジサンは洋服の事に詳しくない。それでも、君に似合う洋服が沢山ある事は分かる。だから───ああ、ったく。何言ってんだ、俺」
悪態をつくテラさん。
「そうですね」テラさんが驚いた顔をしている「楽しみにしておいてくださいね」その表情が何だか、とても──────
「改めてですが、ステラをよろしくお願いいたします」
「承りました。全力を以って当たりましょう」
握手を交わす二人。
「──────よ、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくね。ステラちゃん」
慌てて礼を交わす。
「よくできました」と私の頭を撫で「それでは、私は外に出ています」
「あら、見て行かないのですか?」
「正直、見ていきたいという気持ちはあるのですが、女性2人の方が良い場合もあるかと」
そう言って、テラさんはテラスに向かう。
「あ、女の子同士でイケナイ事をしても良いけど、許可は取ってくれよ」
なんて、とんでもない言葉を吐いて後方のドアからテラスに出ていく。
取り敢えず全力で枕を投げつけた。
†
中々に楽しかった。
長距離列車の最後尾。更にその後ろにあるデッキで柵に上体に上体を預けながら。
列車風に揺れる長めの黒髪を風に遊ばせながら、上機嫌で煙草に火をつけ燻らせ───る直前、子連れである事を思い出して一瞬躊躇するも、この一本だけ、と吸い始める。
無意識に禁煙を考えている事に苦笑いが浮かぶ。
それほど大切に思い始めているのか俺は。
出会ったばかりの少女にこんなにまで思い入れるとは。
50の男が15にもならない少女相手に一目惚れでもしたのか?随分と立派なロリコンじゃぁないか、えぇ?全く……少女を籠に囲む前に檻に入れられそうだ。
全く……やれやれ。本当に困ったものだ。
長い息で煙を吐き出す。慎重に風を操り、紫煙が体には向かわないように誘導する。
最低限、臭いは着かないようにしないとなぁ……。
臭い……臭いか。
煙草を吸い始めた理由は死臭が気になり始めてからだったか。迷宮都市で染みついたソレを冒険者のパーティーメンバーに指摘された時に吸い出したのが切っ掛けだったような気がする。
死臭といっても怨念に近いような、染みついた概念だから余り意味はないのだが。対策の煙草の方も成分に魔術的な効果を付与することで、微々たる効果ではあるが肺を治療することが出来るようになっている。その分、高ランクの神秘使いでなくては対抗できないほど、肺以外への体への負担や中毒性も強いのだが。
迷宮都市から出て冒険者になってから18年。さすがに死臭はしないだろう。まぁ、自分が死ななくなった代わりに魔物や聖獣、竜種を殺戮しまくってきたワケだが。
……モンスター臭とか魔力臭とか無いよな?
消臭魔術を考えないといけないな。臭いで上書きするのではなく、消滅させる方法で行かないとな。そうでないと煙草と変わらない。そうでなければ面倒になったら香袋を使ってしまうかもしれない。それでは二の舞になってしまう。
──────別に、嫌いとは言っていません。
香袋を使うくらいならば煙草の方がマシかも知れない。
……参ったな。本格的にダメになってやがる。完全にホの字だ。
気を抜くとステラの事ばかり考えてしまう。
ステラは今、扉の向こうで着せ替え人形にされている。
前金を弾んだ上に、着せる相手がステラなのだ、結果は約束されている。誉め言葉の選定をするべきだな。
馬子にも衣裳と言うが、対偶を取れば美少女ならば粗末な格好でも美少女らしさが損なわれることはない。だが、損なわれる事はないが、足される事もない。
身にまとう洋服が釣り合う事で初めて美少女らしさは加算される。
さらに言うならば、話し方や作法も優れていると言うことはない。
こういったモノは、足し算ではなく掛け算なのだ。一つが0なら台無しになってしまう。マイナスならば目も当てられない。他がハイスコアな分、激しい落差に幻滅するだろう。
ステラは素晴らしい素質を持っている。
あの歳では飛びぬけた出来の礼儀作法や知識量を身に着けている事を鑑みると、十分な教育を受けたとしか思えない。元はかなり裕福な商家か上位の貴族のご息女だったのだろう。
外見、知識、身分──────神は二物を与えぬ、なんて言うがよそ見でもしていたのだろうか?それとも、不正を厭わぬほどにお気に召したのだろうか?自分の事を棚に上げるように何だが、基本的に神様はロリコンである。少女の笑顔も泣き顔も大好きな変態ばかりだ。
強いて言うならば、随分と酷い目にあってしまった事で相殺したのかも知れないが。彼女が生来持っている長所は望んで手に入れたモノではないだろうし、礼儀作法や知識は彼女の努力の賜物だ。それを簡単に───気まぐれに、と言った方が適切かもしれないが───手放させるのは傲慢だろう。まぁ、神が傲慢でなくば、誰が傲慢なのか分からないが。
はぁ、と大きく煙を吐き出す。
話が随分と脱線したような気がする。
益体のない事を考えるのも良いが、他に───先に考えることがあるだろう。
それに、こういった事は──────
「──────何だ?自分から出てくるとは、随分と珍しいじゃないか」
『──────そりゃぁ、出てきたくもなるだろうさ』
影のない『揺らぎ』が一つ──────いや、一人。
立ち上がる湯気のように無色で透明だった揺らぎは密度を増し、赤に染まる。
美しい赤──────夕日よりも鮮血よりも赤い。まるで苛烈な炎のようだ。
その赤は『彼の魂』の輝きに相応しい色だ。
こういった事は、一人で考えなくてはならないモノではない。
赤き炎の中から男が現れる。
顔、胸部、四肢。防具に"魔槍"以外の装備。
頭部以外を動きやすい深紅の鎧が護り、胸部には無数のブローチ。
風の影響を受けるとは思えない存在なのに、緋色の外套と紅蓮の長髪が靡く。
鍛え上げられた偉丈夫。その瞳は赤──────魂の輝きたる虹を纏う宝玉の赤。
『貴方が新しく旅の友を得たのです。不器用な男が、かつての私たちに変わる者を始めて見つけたのです。これを喜ばなくては不義理になる。貴方にも、我々にも、懐かしい日々にも、です』
『全くだ。しかし見ていられなかったぞ。幼い少女相手に随分と惚れ込んだものだ』
『そういう風に言うものではない。あれ程の逸材はまずいないだろう。一度目の人生を恵まれた環境で暮らし、二度目の人生を英雄として過ごした俺たちよりも才能だけでは上回るだろう』
二人、三人──────四人。
テラの周りに、存在感のある揺らぎが現れる。
『まぁなんだ、おめでとうルート』
「その呼び名も久しぶりだな──────ありがとう。レイン、ジュン、ローラ、ジーク」
炎の如く煌めく虹の赤。
銀の冠を頂く青い稲妻。
白銀の具足の尊き黄金。
大地の如き不屈の雄大。
そして、生死を司る冥府の漆黒。
かつて帝国中に名を響かせた冒険者のパーティー『星の嵐を裂く刃』。
女神に打ち砕かれた奇跡のメンバーがここに勢ぞろいした。
『しかし、とうとう性癖のロリコン面に堕ちたな』
「余計なお世話だ」
†
……誰かと話している?
髪の毛を洗いながらステラは何者かの気配に気が付いた。
「……手伝いは不要なようですね」
「なぜ少し残念そうなんですか?」
「美しい宝石が曇っていたら磨きたくなるでしょう。それと同じです」
「その気持ちは分かりますが」手を止めて答える「髪の毛を洗うくらい、私は自分で出来ますよ」
「そのようですね。その年の少女とは思えないほどに」
ですが、と前置いて。
「先ほどの貴女の髪は、髪を洗うのに不慣れな者が洗ったように感じました」
…………。
「なるほど」
「……何がですか。それとニヤニヤしながら頭を撫でないでください。
貴女は女性だからまだいいですが、出会ってばかりのよく知らない方に髪の毛を触られるのは、好ましくないです」
「そうなんですか。あれ、テラ様は良いのですか?」
「……あの人は例外です」
†
それは『男』が───最強の冒険者が最強の冒険者『の一人』だった頃の話だ。
『男』には4人の仲間がいた。
神話に、伝説に、歌に、叙事詩に──────4人全員が英雄だった。
5人でパーティーを組み、『帝国』中を渡り歩いた。
神殿を、迷宮を。原野を、雪原を。地中を、海底を。
踏破した。探索した。ありとあらゆるモンスターを屠った。
全員が『転生者』であり、異世界からの『来訪者』としての特殊なステータスと技能を持っていた。
全員が『英雄の化身』あるいは『神権代理人』であり、最高位の神秘使いであった。
全員が個人単位で、パーティー評価での第10階梯の認定をされていた。
まぁ、失敗談だって色々あるが、それも冒険譚に華を添える笑い話になった。
そんな風に当時最強だった彼らは、世界を股にかけ我が物顔で気ままに自由暮らしていたワケだ。
そんな彼らはある時『英雄を作る』アイテムを作り出した。
それぞれが、持ちうる限りの技術と財産を費やしてアイテムは完成した。
陰と陽を象徴する2つのアイテム。
5人で決めた名前の他に、作成に担当した者が自身の役割に因んで名前を与えた。
全員が英雄か神様の化身だったので、エピソードに纏わる名前を与えた。
戦車に奇跡、装備や因縁。
結果、アイテムは3つの異名を与えられた。
そして、陰陽一対のアイテムは『男』に預けられた。
彼は5人のリーダーであったし、両方のアイテムに名前を着けられるほどに貢献したからだ。
それが最後に笑い合った記憶。
彼らは冒険を締め括る事になった。
『男』には4人の仲間がいた。
神話に、伝説に、歌に、叙事詩に──────4人全員が英雄だった。
誰も手を出せない集団。
それゆえに彼らは皮肉な、しかして妥当かつ常套的な手段で終わりを迎えることになる。
そして『男』は今──────
†
「──────ステラに陰陽を渡そうと思う」
死者がしているとは思えないほどのたわいのない話の中で切り出す。
『いいんじゃないか?』
「軽いな」
『アレはお前のモノだ。好きにしろ』
「感謝する」
『私からは強いて反論する理由はありません。ですが、渡す前にきちんと考えてください。陰陽は英雄を作成するアイテム。いくら才能があるとはいえ、ステラ嬢は12歳の少女。それが少女にとってどのような影響を与えるのか考えてください。
陰陽の陰──────月精ならまだ分かります。あれは隠蔽のアイテム。護衛にはもってこいでしょう。
ですが陽──────日華はマズい。あれは灼熱そのもの。少女一人の精神など容易く焼き尽くすでしょう』
「重いな」
『重くもなります。少女の全てが掛かっているのですよ。日華が──────黄金の落陽が伝説を再現できているとは限らないのです。何かしらの不備があって、不測の事態が起きたらどうするのですか』
「そんな事は起きない」
『なぜ──────』
「俺がいるからだ」
『言い切るじゃないか。カッコイイよルート。相変わらずの英雄っぷりだ』
「よく言うよ。英雄なのはお前たちだろうに」
『いや、逆だ。お前だけが英雄なんだよ。
私たちは初めから英雄だった。だから英雄どまり、英雄未満だ。
お前は初めは怪物だった。だからこそ英雄に成った。英雄に成ろうとする意思こそが英雄。そしてお前は遺志を繋ぐもの。私たちの忘れ形見を誰かに託せるのはお前だけなのさ』
「……そうかい。ありがとよ」
『(自分が言いたい事はみんなが言ってくれた。俺たちの冒険を繋ぐのはお前だけだ。お前の冒険、お前の旅路、お前の物語。それを決めるのはお前しかいない。旅の友を見つけたのなら、それに越したことはない。全てはお前が決めるものだ。死者が口を出していいモノじゃないから)特に言う事はないな』
「端折るな。言いたい事は言っておけ」
『そうだな……ルート、良い旅を』
「全く……つまらない旅をしたことなんかないよ」
「──────さて、そろそろ潮時かね」
死者と生者の時間の流れは違う。
それは生者が死者を呼ぶものであったとしても。
それは死者が死してなおも英雄だったとしても。
どんな事であっても終わる時が来る。
元より、生者が死者と会えるはずがないのだ。
ここに居るのが冥府神の名代たるテラ=プルートーンである事、呼び出したのが真の英雄であったこと。
それらを加味しても、日中の開けた場所という条件ならば、戦場──────死者が溢れて当たり前の場所以外で互いに会話をするのは難しいのだ。
「さらばだ。愛しい友よ──────また会おう」
雪が解けていくように。
花が散っていくように。
星が薄れていくように
葉が落ちていくように。
赤が、青が、黄が、緑が。
薄れていく、霞んでいく。
微睡むように──────消えていく。
これ以上の別れは不要、断ち切る様に背を向ける。
それが常。死者を呼び寄せる生者と生者に会いに来た死者の礼儀作法。
気づいたらソコに居て、気を抜いたらいつの間にか消えている。
だが、今回は違った。
『──────気づいていないのですか?』
振り返る。
ソコには何もなかった。
誰かがいた形跡も、懐かしい日々の残滓すらも。
「──────何に、だ」
死者は蘇らない。
生者は振り返らない。
『不器用な男と不遇な少女か』
『なるほど、そういった見方も出来ますね。確かに二人はお似合いなのかもしれませんね』
『だが、互いに不幸ではない』
『二人とも不屈だからな。少なくともルートは諦めない。アイツが倒れるのは、誰かに後を託した後だろう』
『そして、ルートは後を託せる人物に出会った、と──────さぁて、どうなるかね』
『それは、いつ気がつくかに掛かっているのでは?』
『いっそのこと最後まで気がつかないまであるぞ』
『それはどっちだ?正体に、か?それとも目を背けて気付かない振りをしている事にか?』
8話『窓を開けて朝焼けの空気を取り込む』でした。
冬は寒いんだよなぁ……。だとしても、やらないと良くないしなぁ。
寝ぼけ頭にキツイ一撃を。曇った瞳を覚まさせて。
──────身を刺す氷海に飛び込むように
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございました。
新しい登場人物が沢山です。
うん……自業自得とはいえ酷い目にあった。
さて、真名当てクイズ。
この話で出てきた英雄の名前を当ててみよう。
因みに、プルートーン⇒ルートのように、名前の一部を呼び名にしています。
暇だったら予想してみてください。
個人的には難易度は低め。某シェアワールドをかじった人ならば一瞬で分かるはず。
そんなわけで、これからもよろしくお願いいたします。
感想・評価・お気に入り登録など、お待ちしています。